青い、空の下で。〜中学生編〜

第9話  第10話  第11話  第12話


第9話 転地学習・本番

5月20日。もうすぐあたしの誕生日。

今日から3日間、あたしたち西中55回生は転地学習に行きます。


「美月!」

「おはよ〜っ!」

「円香、やちる!おはよ〜っ!」

円香とやちると待ち合わせて学校へ向かう。

「3人で行くの、久しぶりだねぇ〜。」

やちるが口を開いた。

「あたしたちはずっと部活の朝練があったしね。そういえば、英語部はどう?」

「楽しいよ!ひーちゃんも一緒だし。2年の先輩が3人いるけど、みんなフレンドリーで仲良しなんだ!
最近はね、ひーちゃんの家にある、英語で書かれた日本の漫画をみんなで読んでるの。」

「へぇ〜っ、いいなぁ〜。ね、英語で分からないところがあったら美月に聞いていいー?」

「いいけど、円香のほうが賢いじゃん。こないだのテストだって100点だったんでしょ?」

今の成績は正確には分からないけど、円香、小学校のときは学年で一番賢かったんだ。

中学受験をした子たちよりも、ずっと。

「円香には国語と数学と理科と社会聞くから〜。」

「ちょっと、やちる。そんなに?」


学校に着くと、まだ早いのに結構みんな来てる。親が見送りに来てる子もいるみたい。

「八城さん、点呼!」

円香がクラスの子に呼ばれた。

円香は先月の委員決めで委員長に立候補、当選したんだって。

「鈴本、あそこに写真屋のおっさんいるから俺らと写真とってもらおうぜ!」

今度はやちるがクラスの男子に呼ばれてる。

うーん、やっぱりやちるは中学でも男子にモテてるな。何しろ美少女だし。

申し訳なさそうに2人が去っていって、あたしは1人になった。

あかねはもう来てるかな?探してみようかな。

歩き始めたその時。

「あー、青山さん!」

他のクラスの女の子たちに話しかけられた…けど誰だろう?

「青山さんも転地学習行くのー?」

「え、…うん。」

そりゃあ行くよ、って思って返事をした。そしたら。

「うわ、やだ〜っ!」

――――え?

「おんなじ部屋で寝泊りするのー?最悪。」

「ねーっ!」

顔が強張って、心臓が重くなったのが分かった。

ひょっとして、同じ部屋になったっていう1組の子達?

ひどい……わざわざ大きい声でそんなことを言いに来なくたって…。

でも、それよりも、1番教室の場所が遠い1組まで広まってるの?

そのことが悲しくて、怖い。

その時。

「ちょっと、あんたらっ!」

ショートカットの小柄な子があたしたちのところへ来た。

「何よ、杏。」

「あんたたちが青山さんを嫌うのは目をつぶるよ、好きになれる人と好きになれない人がいるのはあたしも一緒だもん。
でも、今のは言い過ぎ!別に彼女がおんなじ部屋で悪いことが起こるわけじゃないじゃん!青山さんの気持ちも考えなよ!」

杏と呼ばれたその子は、悪口を言った1組の子たちに食って掛かった。

「あーあ、生意気杏が出たー。」

「委員長だからいじめられっこ助けないといけないもんねっ。」

「いーよ、点呼の後美咲たちの部屋に行くから。行こ、みんな。」」

そういい捨てて、その子たちは別の子のところへ行った。

……助けてくれた……でも、この子はいったい?

「あいつら、いつも誰かをいじめてないと気が済まないみたい。そういう集団なんだ、気にしないほうがいいよ。」

「あの、ありがとう。」

「あんたが”美月”?」

「へ?」

急に下の名前で呼ばれたから、つい、変な声が出ちゃった。

「あ、ゴメン。いきなりだったね。あたし、1組の井咲杏。」

「あ、もしかして。」

「そう。今日からおんなじ部屋。あかねとは小3からの付き合いなんだ。」

この間あかねが話してた…そうだったんだ。

「あ、よろしくね。いさき…さん?」

「杏でいーよ。あたしも美月って呼ぶね。」

「じゃ、杏。」

「あ、あれあかねじゃない?」

杏が指したほうを見ると、確かに。あんなに長いツインテールはあかねしかいない。

杏と目配せして、せーのであかねを呼ぶ。

「「あかね、おはよーっ!」」

「あれ、杏に美月。ひょっとして、2人知り合いだったの?」

「今友だちになったんだよ。ね。」

「うん!」

5月20日、本日快晴。あたしの心も、曇りのち青い空。


第10話 転地学習・本番その2

「美月、ニンジン焦げてる!」

「わっ!……く・黒い。」

急いで火を止めたけど、時既に遅し。あーあ。

「青山、責任とってそれ食えよー。」

隣でご飯を炊いている男子が笑いながら言ってくる。

「えーん。」


転地学習2日目。あたしたちは今飯盒炊爨でカレーを作ってるんだ。

あたしの班はあかねとあたしと男子4人。

他の班は男子と女子3人ずつだけど、うちのクラスは女子より男子のほうが多いから、必然的にこうなっちゃう。

でも、この方が気楽だな。

クラスの男子の中には女子と一緒に意地悪なこという人もいるけど、

同じ班の4人はみんなあたしと同じ上小出身だから、普通に接してくれる。


「いただきまーす!」

「結構俺らうまいんじゃん?ニンジンはともかく。」

ちょっとニンジンが黒いけど普通においしくできたカレーを、みんなで木陰に座って食べる。

「昼飯終わったら、次は何するんだっけ。」

「えっと、休憩した後体験学習だってさ。」

「美月、楽しみだね!」

「うん!」

事前に希望を取った選択制の体験学習。

あたしとあかねは2人とも、川で魚釣り。

マンションや学校の周りにも大きな木や原っぱはあるけど、

こんなにいっぱいの自然の中ですごすのは、実は初めて。

だから、もうすっごく楽しい!

けど……。


「あーあ、明日はもう帰るのかー。」

「2泊3日って短いよね。せめて後1日いたいなー。ね、美月。」

「え?あ、そうだね。」

楽しい時間は超高速で過ぎちゃって、もうお風呂も入って後は寝るだけ。

他の子たちは別の部屋に行ったから、部屋にいるのはあたし、あかね、杏の3人。

「美月、どうした?」

杏が聞いてきた。

「家のほうが気になっちゃって。お兄ちゃんたち、家の事ちゃんとやってるかな。」

「つくづく主婦だね。」

「電話してみたら?」

「え?」

「お風呂の近くに確か公衆電話あったじゃん。テレカ無かったら貸すよ?」

「え、いいの?ありがとう、杏。」

杏にテレカを借りて、階段を下りた。


「もしもし。……あ、すー兄?」

電話に出たのは1歳上のお兄ちゃん、すー兄。

「美月?どうした、何かあったか?」

「ううん、何も無いけど。ちゃんとやってるかなーって。」

「あ?ああ、そんなことか。大丈夫!俺の朝練の時間に合わせて起こしたから、兄貴たちは不機嫌だけど。
 こっちは気にせずそっちを力の限り楽しんでこいよ。明日で終わりなんだからさ。」

「……うん、ありがとう。」

電話を切る。

ほっとした。そうだね。すー兄がちゃんとやってくれてるんだし、心配ないや。

時計を見たら点呼の時間だったから急いで部屋に戻ろうと走り出したら、

「うわ!」

「わっ!」

ひ、人とぶつかっちゃった。違うクラスの人っぽい。しかも男子だし。

「あ、ごめんなさい!」

「あ、こっちこそ。」

お互いに謝ったあと、その人は起き上がりお風呂のほうへ行った。

けど。まてよ。こんな時間にお風呂入るわけがないし、じゃあこの男子もひょっとして。

「電話使うの?あの、もう点呼の時間だから戻ったほうがいいよ。」

急いで呼び止める。部屋を出るときに時計見てこなかったのかな?

「え、マジで!?どうしよー!母ちゃんに明日の昼のテレビ録画頼まないといけねぇのに!」

どうしよう、この子、頭を抱えて本気で悩んでる…。

「明日の朝ごはん前にしたら?」

「そうする!教えてくれて、サンキューな!」

そういうとその男子は走って戻っていった。どこのクラスの人だったんだろう。

と、すぐそこの部屋から声が。

「ハルーーーー!遅えよてめー!今日の点呼担当、赤城だったんだぞ!散々嫌味言われたんだからな!」

「悪かったって、裕!安藤にシゲも!」

さっきのおたけびはどう考えても裕の声。裕の友達だったんだ。裕と同じ7組かな。

学年主任の赤城先生、怒鳴りはしないものの”ネチネチとした嫌味がウザい”って、有名だからなー。

「あ、あたしも急がないとやばい!」

先生がまだあたし達の部屋まで回ってきていないことを結構本気で祈りながら、部屋に向かって走った。


3男すー兄やっと出せたー。終盤で登場したハル君は、2年になったら本格登場!(予告)


第11話 部活って…

期末テストが終わって、あたしたち西中生は男子も女子もみんな夏服に衣替えした。

学校内が、一気に爽やかになった感じ。

「あ、香弥先輩、こんにちは!」

「こんにちは、美月ちゃん!」

あかねと図書室に行く途中、英語部の部長、竹下香弥先輩とすれちがったから、お互いに挨拶。

「ねえ、美月。今の人って英語部の先輩?」

あかねが聞いてくる。

「うん。」

「えー、すごい!」

「な、何が?」

何が凄いのか分からず、あかねに尋ねる。

「だって、今名前で呼び合ってたよね。すごい仲良しなんだ、いいなあー。」

「5人しかいないもん。自然と仲良くなっちゃうよ。」

英語部は今年出来た部活だから、みんな先輩後輩と言うよりも、一緒に部活を作っていく“仲間”。

「陸上部はどうなの?」

今度は逆にあたしが聞いた。するとあかねはいきなり浮かない顔になった。

「うちの部、特に2年生の先輩、性格キツい人が多くて。先輩がキツいと、同時に練習もキツくなるんだ。」

そういえば、あかねはいつも朝練の後、結構疲れて見えるっけ。

「あ、もちろんお兄さん……青山先輩は違うよ!」

「うん、分かってるよ。」

「運動は好きだし、あの先輩達がもう少し優しくなったら、部活で文句言う事なんてなくなるんだけどな。」


「美月ちゃーん!」

「あ、ひーちゃん!」

放課後、部活に行こうと渡り廊下を歩いていたら、後ろからひーちゃんに声をかけられた。

英語部が使わせてもらっている英語準備室まで一緒に歩く。

「ねえひーちゃん、円香に聞いたけど、1組はもうテスト帰ってきたんだよね。英語どうだった?」

「バッチリ!美月ちゃんは?」

ピースサインで答えるひーちゃん。

「もちろん、バッチリ!」

同じくピースで答えるあたし。中間と期末の両方で90点台をとる人はあまりいないって、先生に褒められたんだ。

その時。

「…ねー、廊下で堂々と成績自慢してる人がいるよ?」

「うわ、本当。ああいうのってムカつくよねー。」

いつもの“声”が聞こえる。同じクラスの井上さん達。

彼女達が所属しているコーラス部の練習場所――合唱室に行くのにも、この渡り廊下を通るんだ…。

急いで行こうとしたけど、井上さん達の声は聞きたくなくても聞こえてくる。

「英語部ってさ、人数少ないし、顧問の先生知らない人だし、どんな活動してるのか謎じゃない?」

「変な事してるんじゃない?例えばブツブツ呪文唱えてたり、オタク活動してたり?」

「うわぁ、引くー!」

ひーちゃんと2人で、無言で逃げ出した。


なんで、いつもいつも、ひどい事を言うの?

顧問の門田先生は、2年生の先生だから1年生はほとんどの人が知らないけど、優しくていい先生だよ。

あたしたち、試行錯誤しながらだけど、ちゃんと英語に関係した活動をやってるよ。

成績自慢、したつもりなんてなかったよ。

「……ひな、美月?どうしたの?」

「なっつん………。」

いつのまにか、英語準備室を通り越してなっつん達理科部の活動場所、理科室まで来ていた。

「また何かあったの?」


あたしたち、なっつんにぽつりぽつり、さっきの事を話した。

話し終わってなっつんを見たら、なっつんは

「それで?」

とだけ言った。

「そ、それでって?」

話の途中で泣き出したひーちゃんが、しゃくりあげながら聞く。

「別に、その井上さんが英語部のこと悪く言ったからって、英語部そのものが悪くなるわけじゃないじゃん。」

「あ……。」

ハッとした。

「あたしだってね、理科部は暗いとか、活動内容が謎とか言われてるの、気付いてるよ。」

そういえば、あたしもそんな話、耳にはさんだ事がある。

「でもあたし、誰が何といおうと理科部の活動楽しいから、別に気にしてない。」

「……そう、だね。」

いつの間にか、ひーちゃんは泣き止んでいた。

「ありがとう、なっつん。」

「英語部行っておいで!遅れたら怒られるんじゃないの?」

「大丈夫!!」


あたし達2人は、さっきとは打って変わった表情で英語部へ向かう。

なっつんのおかげで気がついた。

部活の良し悪しを決めるのは、周りの人じゃない。部活に入っている、あたし達自身。

そして、英語部はもちろん―――。

「こんにちは、遅くなりました!」

「こんにちは、美月ちゃん、ひなちゃん!」

「遅かったじゃん、掃除当番?」

「さ、じゃあ今日は昨日の続きね!」

――“良し”!


第12話 宿題

「……ねえ、美月〜……。」

「うん。…悪い事、しちゃったよね。円香に。」

夏休みまであと少し。

昨日の夜、宿題があんまり難しくって、やちると一緒にいつもみたいに円香に助けを求めに行ったんだ。

だけど、円香は吹奏楽部の練習で疲れてるみたいだった。

「眠いだけって、絶対嘘だよ。無理させちゃったね。」

「円香ってば優しいから〜。ん〜、でもあたし達ちょっと無神経だったかな〜?」

あたし達の目の前には、夏休みの宿題。

教科によっては、終業式より前に配られるものもあるんだ。

だから、そういうものから終わらせていけば直前に慌てなくて済む!って、すー兄からのアドバイス。

やちるは今日部活が休みだから、2人で頑張るつもりでいたけど、なんか、あたし達さっきからずっと喋っているような……。

昨日のテレビの話から、学校の先生の話、部活の話、そして、今は円香の話。

「ねえ、やちる。」

「何〜?」

「考えたんだけどさ、あたし達これからはなるべく円香に頼らないで、自分達のことは自分達で頑張ってみない?」

思い返せば、やちるが保育園で鍵盤ハーモニカが上手く吹けなかったときやあたしが小学校でなかなか25m泳げなかったとき、

小学生のとき2人とも夏休みの工作で何を作るか思いつかなかったときとか、全部円香に助けてもらってた。

円香にとっても、あたし達にとっても、いつまでもそれじゃダメな気がする。

「うん、頑張ろぉ、美月〜!」

やちるもすぐに同意してくれた。

「まず、夏休みの宿題を円香に頼らないで、自分達だけでやり遂げよう!」

「うん!」


夏休み初日。

「美月ぃ〜。“とうほんせいそう”って、どう書くんだっけ〜?」

「えーと…こう、かな?」

ノートに小さく“東本西走”って書いた。

「………なんか違う………。」

いつもならこんなときは、真っすぐ隣の円香の家に行ってた。でも、今年は違う!

「辞書、辞書引こう辞書。国語辞典。」

学習机の隣の本棚から国語辞典を抜く。

「と…と…あった!“東奔西走”だって。」

「ありがと〜、美月〜。」


「自由研究、何するか決めた〜?」

夏休みに入って4日目、やちるが聞いてきた。

「あ!」

やばい、自由研究の存在自体、忘れてた。

「忘れてたのぉ?」

「うん、ど、どうしよう。」

あたしが困っていると、やちるはなぜかにっこり笑って、一冊の本を取り出した。

「じゃーん!“中学生のための自由研究案”!昨日部活に行ったついでに、図書室で借りてきたんだぁ〜。」

「ええっ!?」

やちるが図書室に行く事なんて今までほとんどなかったのに。

「一緒に見ようよ〜。」

「うん!」


「ねえ美月〜、この問題の解き方分かる〜?」

やちるが持っているのは数学の問題集。

「どれ?…………えーっ、難しー…。」

宿題もいよいよラストスパート!な今日この頃、気付いたことが1つ。

「あ、そうだ!確か教科書に似たような問題が載ってたよ。解き方のヒントとかも書いてあるかも。」

今まであたしたちが円香に頼ってきたいろんなこと。

「えーと、確かこのあたりのページに……あ、あった。これこれ!」

それらって、よく考えてみるとほとんどが“自分たちで頑張ったら出来そうなこと”だった。

「えっと、まずAの方をXにすると、Yは(X−3)になって……。」

頼ってばっかりじゃダメだよね。自分たちで頑張れるところは、とことん頑張らないと。

「あ〜、そっかぁ。じゃあ次の問題もおんなじ様にして……。」

だってそのほうが絶対、自分にとっていいから。

「できたぁ〜!」

「終わったー!お疲れ、やちる。」

2人とも、無事に宿題終了!

「ねえ美月〜。これから駅の方行かない?美味しいアイス屋さんができたって、ママが。カップアイスも売ってるから、円香にもお土産買えるし〜。」

「いいね、行こう!」

これはちょっとした、自分たちへのご褒美。

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