青い、空の下で。〜中学生編〜

  第17話  第18話  第19話


第17話 円香の恋愛相談 (先に円香編の“1年生、秋”を読む事をお勧めします。)

「「「「ええーっ!!??」」」」

「ちょ、ちょっと!声が大きいわよ、みんな!」

顔を赤くした円香に言われて、あたし達4人は慌てて口元に指をやって、「しーっ。」と言い合う。

今日は日曜日、ここはやちるの部屋。

円香が珍しく“相談したい事がある”って言うから、お馴染みメンバーが集合した。

……まさか、その相談内容が“恋愛”だったなんて。しかも。

「すー兄……。いつのまに?」

相手が……うちのすー兄。

「意外というか……だって、ねえ。」

「本当、びっくりしちゃった〜。」

なっつんとひーちゃんも、うんうんって頷いている。

「……で、円香、どうすんの?」

「……今までそんなの考えた事も無かったから……どうしたらいいか分からなくて。」

まあ、そうだろうな。

全然気付かなかったし、思ってもいなかった。

すー兄は、いつから円香のこと好きだったんだろう?

「でもさあ。」

ひーちゃんが口を開く。

「“彼氏彼女”って、なんだかすっごい、大人って感じだね……。」

心なしか…うっとりしてる。

「本当本当〜!いいなぁ円香、あたしも彼氏ほしい〜。」

やちるもうっとりしながら言った……ってちょっと待って。

2人とも、話が飛躍してる!まだ円香はつきあうなんて一言も言ってないよ。

「ちょっと2人とも、あんまり調子に乗らないの!決めるのは円香でしょうが!」

さすがなっつん、ビシッと言った。

「……そうなのよね……。」

ぽそっと、円香がつぶやいた。


「ただいまー。」

結局あの後は円香の相談以外にも色んなことを5人で喋って、気がついたら夜の6時。

やばい、晩ご飯!って思ったけど、その瞬間あたしの家から美味しそうなカレーの匂いがしてきた。

つまり、すー兄が作ってくれてる、ってこと。ラッキー。

「お帰り、美月。今日はやちるちゃん家に行ってたんだな、声がマンションの廊下まで聞こえてたぞ。」

………え!?

「す、すー兄、あたし達がなに喋ってたか聞いたの?」

「なんだよ、血相変えて。聞いてないよ、笑い声ぐらいしか。そんな聞かれちゃまずい事でも話してたのか?」

「う、ううん。聞いてないならいいの。先にお風呂のお湯入れてくるねっ。」

ふう、焦った。

さすがにすー兄本人に今日の話を聞かれるのはダメだよね。


「ふー。」

日曜のお風呂上りのちょっとしたお楽しみは、この日に発売の漫画人をベッドに寝転んで読むこと。

「あれ、“やまのふもと”、今週休載なんだ。」

目次を見て気付いた。残念、一番楽しみな漫画なのに。

「………。」

そういえば、この漫画、幼馴染の男の子と女の子の恋の話だ。

これまでのストーリーを思い返すと、何か円香とすー兄に状況が似てるかも。

『彼氏彼女って大人な感じだね』

『あたしも彼氏欲しい〜』

ふっと、昼間のひーちゃんとやちるが言った言葉を思い出した。

「………どうなるんだろう。」

もし円香とすー兄が付き合うことになったら、あたしたちは?

円香とすー兄の2人が一緒に過ごす時間が増えて、あたしたち3人が一緒に過ごす時間が減る?

周りにカップルがいないから、そもそも“彼氏彼女”がどんな感じなのか、想像もできない。

でも、みんなに彼氏ができたら、やっぱり寂しいな……。


第18話 親

「よいしょ…っと。」

学校は冬休みに入って、もうすぐ今年も終わり。

明日が年内最後のゴミ出しの日だから、大掃除は今日終わらせないと。

「美月、リビングの窓拭けたぞ。」

「ありがとうまい兄。ついでにお兄たちの部屋も拭いといて。」

「へいへい。」

「美月ー、ゴミ袋がないぞ!」

「あ、しまった。切らしてたんだった!あき兄、悪いけど買ってきてー!」

「マジかよ、寒いのに〜。」

普段はほとんど家事をしないまい兄とあき兄も、大掃除は毎年手伝ってくれる。

……だけど、青山家1・掃除が得意なすー兄が今年は部活の反省会に行っちゃったから、大変。

「……あれ、電話?」

かすかに聞こえた音に 耳をすませたら、やっぱりうちの電話が鳴ってる。

「もしもし。」

『もしもし、美月?』

「お母さん!」

『元気そうね、よかった。お兄ちゃん達も元気?』

「うん、みんな元気。あのね、今大掃除してるんだよ。」

うちはお父さんもお母さんもとても忙しい仕事をしている。

だからめったに家に帰れない2人の代わりに、あたしやすー兄が家事を頑張ってるんだ。

『あのね、お母さん、今年は28日に仕事が終われそうなの。』

「本当?いつもより早いね!」

『うん。いつもごめんね、家事任せちゃって。でも、おせちはお母さん頑張るから楽しみにしてて。』

「うん!」

ばいばいって言って受話器を置いた。

「まい兄、聞いて聞いて!今お母さんから電話があったよ。」

お兄達の部屋に入ると、まい兄もケータイで誰かと話してた。

「うん。あ、美月来た。替わる?」

?誰だろう。

まい兄が「父さんから。」って言ってケータイを渡してくれた。

「もしもし、お父さん?」

『おお、久しぶりだなぁ。美月。』

立て続けにお母さんとお父さんの両方から電話があるなんてびっくり。

『家の電話が話し中だったから、舞人のケータイにかけたんだよ。』

「今さっき、お母さんからも電話があったんだ。」

『そうか。お母さんは何て?』

「28日に仕事が終わるって。」

『あ、お父さんと一緒だ。』

「そうなんだ!」

じゃあ、29日には2人とも帰ってくるんだ。嬉しい!

電話が終わったから、まい兄にケータイを返した。

「父さん、28に仕事が終わるってさ。」

「うん、聞いた!あのね、お母さんもなんだって。」

「へえ、珍しい。」

「ただいまー。」

玄関から聞こえてきた声は2人分。

あき兄とすー兄が帰ってきたんだ。

「買ってきたぞー。」

「おかえり、ありがとー。」

ゴミ袋を受け取る。

そうだ、あき兄とすー兄にも言っておかないと。

「あのね、お父さんとお母さん、28日に仕事終わるって。」

「へえ、同じ日に?偶然だな。」

「そう、しかもそれ電話してきたのも2人ほぼ同じタイミング。」

「おー、さすが夫婦。」

「じゃあ、年末年始は久々の家族水入らずだな!…あ、お姉いないけど。」

お兄たちも嬉しそう。

お姉ちゃんが帰って来れないのは確かに寂しいけど、赤ちゃんが産まれてしばらくしたら来てくれるよね。

「よし、じゃあ大掃除の続きしよう!」

お兄たちに声をかける。

「周防帰ってきたから、俺はもう抜けていいよな。」

「あ、じゃあ俺も。」

「何言ってんだよまい兄あき兄。俺は夕飯作るから、2人は美月と掃除の続きだよ!」

「ちえっ。」

「ほら、今日はカレー作ってやるから。」

まったく、どっちが上なんだか。

色々あった今年ももうすぐ終わり。

来年は今年よりももっと楽しくなったらいいな。

……ううん、違う。

楽しくなるかどうかは自分自身。


第19話 3学期

「あ……。」

風にのって、梅のいい匂いがしてきた。

学校の隣の公園には梅の木がいっぱいあって、近所ではちょっとした名所なんだ。

3学期って本当、あっという間。

いつの間にか日が長くなって、梅が咲いて。

ゆっくりと春に向かっているんだなって、日々実感する。

「おはよー。」

「おはよう、あかね。」

げた箱の前にあかねがいた。

「ねえ、時間割変更って今日じゃないよね?」

あかねが聞いてきた。

「うん、確か明後日のはずだよ。」

「良かった〜。」

3学期は行事とか色々あるから、時間割変更も多いんだよね。教科書間違えないように注意しないと。


「はーい、じゃあ今から今度のテストの時間割を配るぞー。」

朝の会で先生がそう言って、プリントを配り始めた。教室のあちこちから

「うわー、もうテストかー。」

「やばい、今回数学範囲広くない?」

「げっ。漢字の問題集提出だって。」

なんて声が聞こえてくる。

「うわあ、本当に範囲広い。」

頑張って勉強しないと。

英語や国語は得意だけど、数学とか理科は苦手なんだよね……。

「みんな、気合いを入れてかかれよ。もうすぐ2年生に進級なんだから。高校受験の事も考え始める時期だからなー。」

高校受験か……。

お姉ちゃんもお兄たちも家から一番近い県立宮野高校に行った。

すー兄も宮野高校を受けるって決めたみたい。

だからあたしも宮野高校かな?

…って、今はそれよりも目の前のテスト、頑張らないと。


「あー、今度のテストが終わったら1年生も終わりかぁ〜。」

「あっという間だったわね。」

「ほんとほんと。」

今日はあたしの家で、円香とやちると一緒にテスト勉強。

「ついこないだ入学式だったのにね。」

4月になったら2年生。本当にあっという間。

「今度は一緒のクラスになりたいね〜。」

やちるが言った。

「そうね。」

円香が頷く。

去年の4月は不安だったな。友達みんな違うクラスで、クラスメートとはなかなか馴染めなくて。

「……そうだね。でもあたし、もしまたみんなと違うクラスでも、大丈夫。頑張るよ。」

あたしが言うと、二人はにっこり笑った。

「さ、続きやろう。」

英語の問題に目を通したら、リビングから電話の音がしてきた。

「あ、ちょっと行ってくるね。」

二人に言って部屋を出た。

「……美月、ちょっと強くなったわね。」

「ほんとだね〜。」


「もしもし。」

『もしもし、西川です。』

「友一兄さん!」

電話の相手は沖縄の友一兄さん。

お姉ちゃんの旦那さんなんだ。

『あ、美月ちゃんかな。』

「うん。どうしたの?…あ、もしかして。」

『うん、今さっき産まれたよ。』

「わあ、おめでとう!」

入学式のちょっと前に妊娠したお姉ちゃん。

赤ちゃんのお母さんになったんだ。本当におめでとう、お姉ちゃん。

「聞いて聞いて!」

「どうしたの、慌てて。」

「電話誰だったの〜?」

部屋に戻ってすぐに二人に報告。

円香とやちるも、お姉ちゃんと赤ちゃんのことは気にしてくれてたから、すごく喜んでくれた。

「どっちどっち?」

「男の子だって。名前も決めてあるって言ってたよ。」

「なんて名前なの〜?」

「“空”。」

窓の外には今日も綺麗な青空が広がっている。

あたしが青い空を好きなのはお姉ちゃん譲りなんだ。

お姉ちゃんは、大好きな赤ちゃんに大好きな空って名前を付けたんだね。

どんな顔なんだろう。早く会いたいな。

会えるのを楽しみにしてるね、空――。



軽くあとがき。

とりあえず1年生終了です。長かった……。

悲しいくらい未熟な作品ですが、これから2年生、3年生とどんどんテンションアップしていく予定なので、

ここで見放さず卒業までお付き合いいただけたら嬉しいなと思います。

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