青い、空の下で。〜中学生編〜

  第20話  第21話  第22話  第23話


第20話 2年生

「んーっ、いい天気!暖かーい。」

4月8日。

あたしは今日から、中学2年生!


「行ってきまーす。あ、円香、おはよー。」

「おはよう、美月。」

親友の円香、やちるとのいつもの待ち合わせ。

「やちる、まだみたいだね。」

「そうね……あ。」

やちるの家からバタバタって音が聞こえてきた。

「行ってきまーす!あ、美月、円香。おはよう〜。」

「おはよー、やちる。」

「おはよう。また寝坊したの?」

やちるは昔から、朝弱いんだ。

「だって〜、ママが起こしてくれなかったんだもん。」

「自分で起きなさいっ。もう中2なのよ。」

「は〜い。」

円香ってば、やちるのお母さんみたい。

「ね、行こう!クラス替えの掲示、早く見たいよ。」

「そうね。」

3人並んで歩き出した。

「いい天気だねー。空も桜も綺麗。」

「あったかくて気持ちいいよね〜。お昼寝したーい。」

「始業式で寝ちゃ駄目よ、やちる。」

「分かってるよ〜。」

あたし達3人とも、1番好きな季節は春。本当、いい気持ち。

なんだかいい事が起こりそうな気分になれる。


「あ、あたし3組だー。」

“2年3組”って書かれた紙の真ん中あたりに、“青山美月”って発見。

出席番号は今年も女子の先頭、31番か。

「美月、3組?」

「円香。うん、そうだよ。円香は?」

「8組。今年はクラス私一人遠いわ。」

「何で?」

円香にそう聞いたのとほとんど同じタイミングで、

「美月ちゃーん!」ってひーちゃんの声が聞こえてきた。

「ひーちゃん、なっつん。おはよー。」

「おはよー美月ちゃん、美月ちゃんは何組?」

ひーちゃんが聞いてきた。

「3組だよ。」

とたんにひーちゃんがぱあっと嬉しそうな顔になる。

「本当!?あのね、すごいんだよ。やちるちゃんが1組でなっつんが2組、あたしが4組なの。」

「へえ、みんな近いんだね!」

あ……円香一人だけクラスが遠いってそういうことか……。

円香を見ると、あたしの思ってることが分かったのか、

「平気平気、他の友達何人か同じクラスだもの。一人離れてたって寂しがったりしないわよ。」

って言った。


「クラス近いのって、やっぱり心強いねえ〜。」

「でも、やっぱり同じクラスだったらもっとよかったな。」

「来年に期待しときなさい。」

じゃあねって手を振って、それぞれの教室に入る。

……今年はどんなクラスなんだろう。

1番苦手な井上さんが違うクラスになったのは一安心だけど、やっぱり不安。

「あれ、美月ちゃんじゃん。」

「あ、のーちゃん。」

「久しぶり!同じクラスなんだ、4年生の時以来だねぇ。」

この子、のーちゃんは同じ上小の出身で、やちると同じテニス部。

小学校の時何回か同じクラスだったし、知り合いがいるのはやっぱり心強いな。

「体育館、一緒に行こう。」

って言ってくれたし、のーちゃんは噂を気にしてないみたい。よかった。


「おはよー、美月ちゃん。」

「のーちゃん、おはよう!」

朝の会が始まるギリギリの時間にのーちゃんが教室に来た。

「テニス部、新学期始まったばかりなのにもう朝練やってるんだね。」

「美月ちゃんこそ、新学期早々日直お疲れー。」

「まあ、あ行の名字の宿命かなあ。」

って、のーちゃんと話してたら。

「おーい、野上!」

同じクラスの男子がのーちゃんの名前を呼んだ。

「何?小高。」

のーちゃんが返事をすると、小高?は、明らかにあたしを指差した。

「そいつ、何かよく分かんねえけど、キモイやつなんだろ?話しかけない方がいいんじゃね?」

笑いながらそう言った。

「はあ?何失礼なこと言ってんのよ。そういうこと平気で言うあんたの性格の方がキモイんですけど?」

「わー、怒った怒った!お助けー。」

のーちゃんが言い返すと、そう言いながら小高は男子の集団の方に行った。

「まったくもう。美月ちゃん、ごめんね。小高は同じテニス部なんだ。
あたしたちの学年のムードメーカーで悪い奴じゃないけど、お調子者でさ。ふざけすぎなんだよね。」

あんまり気にしちゃダメだよ、ってのーちゃんは言ってくれた。

でも、あんな人と1年間同じクラスなんて、正直気が重い……。


第21話 職業体験

「今月末の“総合学習”の時間は、みんなお待ちかね、職業体験の説明会です!」

「あ、そっか。」

担任の先生の言葉にはっとする。

毎年5月の終わりは、宮野市内の中学2年生にとっての一大イベントである“職業体験”の季節。

小学校や幼稚園、お店や郵便局……とにかく色んな場所で一週間、お仕事を実際にやらせてもらえる、貴重な体験。

小学校の頃から、ひそかに楽しみにしてたんだ。

「行き先のリスト配るから、どこに行きたいかある程度考えておいてね。」


「のーちゃん、どこ行くか決めたの?」

「あたしはパン屋さん!去年余ったパンとかもらえたって、先輩言ってたんだ。」

「パン屋さんかあ。」

「うん、美月ちゃんは?」

余りがもらえるパン屋さんも捨て難いけど。

「あたし、幼稚園に行ってみたいんだ。」

「へえ。」

末っ子だから小さい子のお世話をしたことないし、あたしが通ったのは保育園だったから幼稚園ってどんな感じなのか見てみたい。

「でも幼稚園って、毎年すごい人気だよね。」

「そうだよね……。」

あんまり幼稚園が多かったら別の場所に行く事になるから、一応第二希望を考えておこうかな。


「美月っ。ひさしぶり!」

「やっほー。元気?」

「あかね、杏。」

下足室であかねと杏に声をかけられた。

ジャージ姿ってことは、これから部活なんだ。

「ねえねえ、美月はどうする?職業体験。」

杏が聞いてきた。

「一応、幼稚園行きたいなって。」

「わあ、本当?あのね、あたしもなんだ!」

そう言ったのはあかね。

「そうなんだ!」

「うん。将来幼稚園の先生になりたいから、どうしても幼稚園に行きたいの。」

あかねはもう将来の夢が決まってるんだ。すごいなあ。

「美月も幼稚園か〜。やっぱり幼稚園の先生になるの?」

「え……ううん。ただ行ってみたかったから…だけど。」

ひょっとして……変なのかな?

幼稚園の先生になりたいって思ってる人が行ったほうがいいのかな。


「そんなの、気にしなくていいって!」

「そうそう。あたしは去年小学校に行ったけど、久しぶりにお世話になった先生たちに会いたくて行ったようなものだもん。」

英語部の活動中、職業体験の話になったから、思い切って先輩たちに相談してみた。

「香弥先輩、みゆき先輩。」

「そうですよ、美月先輩。第一中学生でそんなにはっきり将来の夢が決まってる人、そういないと思いますよ。うちの母さん保育士なんですけど、1回普通の会社に就職してからなりたくなったから、25歳で保育士の資格をとる大学に入ったって言ってました。」

後輩1のしっかり者、朝野っちも話に加わる。

「そうだよ、美月ちゃん。行きたいなら行けばいいじゃない。」

「そういえばひーちゃんはどこに行くの?」

となりのひーちゃんに話をふる。

「あ、あたしは上小なんだ。慣れてるところの方が、怖くないし。」

「ほーら、こういった消極的な理由の人に比べたら。」

「ひ、ひどい!朝野くん、先輩に向かってそんな言い方……。」

「ま、まーまー。」

どうもこの二人、相性悪いんだよね……。

でも、みんなのおかげで気が楽になった。

就職活動じゃないんだし、もっと気楽に。でも、頑張ろう!


第22話 嫌なやつ!

「うわっ、こっち来んなよ青山!」

「……何でよ、国語係の仕事でプリント配ってるだけでしょ。」

今は国語の自習中。

うちのクラス、先生いないとすぐに騒がしくなるんだよね……。

必死に目の前の男子を睨んではみるけど……泣きそう。

「ちょっと、あんたらいい加減にしなよ!」

「そうだよ、青山さん可哀想。」

新しいクラスになって2ヶ月が経った。

8クラスもあると、さすがに二年連続で同じクラスになった人はちょっとしかいない。

だから今年こそは頑張ろう!って、密かに決心してたんだけど。

「女子、怖えー!ヤマンバだ!」

「誰がヤマンバよ、超失礼!」

一年のときとは違う感じだけど、やっぱりクラスはゆううつ。

女子からひそひそ悪口言われるのも悲しかったけど、こんな風に男子から思いっきり言われるのも十分嫌だな…。

のーちゃんとか何人かの女子が庇ってくれるから、まだマシだけど。

「このプリント、くせぇ〜!」

小高が大げさに鼻をつまんで周りの男子が爆笑してる。

ひどい、臭くないもん。


「じゃあ、これで終わりの会を終わります。起立ー。」

「さようなら!」

「じゃあね、また明日。」

「バイバーイ。」

ふう、今日も1日終わったー。

今日はクラブない日だし、まっすぐ帰ろう。

「美月ちゃん、バイバーイ。」

「ばいばい、のーちゃん。」

掃除当番ののーちゃんに手をふって、教室を出て階段を降りて……げっ。

靴箱の前に小高がいる。

何か言われたら嫌だな。

小高は特に色々嫌なことを言ってくる集団の中にいるから、苦手。

のーちゃんとかはいつも「気にしちゃだめだよ!」って言ってくれるけど、“気にしない”って、どうすればいいの?

目を合わせないように靴を履き替えて、早足で通り過ぎよう。

「おい、青山。」

う。

「な、何?」

小高を見たら、にやにやしてる。嫌な笑顔。

「お前、キモいよ。学校来ない方がいいんじゃねえの?」

小高の言葉がまるでおっきな岩になって、のしかかってきたみたいな感覚。

何でこの人は、こんなひどいことを笑いながら平気で言えるの?言われた方の気も知らないで!

「……何でよ、何であんたにそんな事言われなきゃいけないの?」

「え?」

「こっちが嫌な思いしてるのが、そんなに楽しい!?」

思わず言いたいことを叫んで、向こうが何か言う前に走って玄関を出る。

目から涙がこぼれるけど、走って走って学校から出た。


第23話 読書週間

「こら、豊中君!漫画はダメって言ったでしょう。」

「ちえっ、見つかった。カバー付けてたらバレないと思ったのになあ。」

「バレバレよ、残念ながら。」

今は“朝読書”の時間。

学期に1・2週、うちの中学には読書週間があるんだ。

8時半のチャイムから朝の会までの10分間、自分の好きな本を読むの。

ただし、マンガや雑誌以外。

ちなみにあたしが読んでるのは、大好きなライトノベル“碧の宮”。

ちょうど読書週間が始まる前の日に最新刊が発売したから、ラッキー。


「くっそー、マンガ没収された!買ったばっかなのに!」

休み時間、豊中が騒いでる。

担任の岸和田先生、普段は優しいけど唯一!校則違反とかには厳しいんだよね〜。

「元々マンガは校則違反だろ、見逃してくれる訳ないじゃん。」

「マンガ以外に俺が読める本なんて無いぞ!」

「威張って言うなよ。」

「絵本でいいじゃん。」

あたしは結構本を読む方だし読書週間も好きだけど、やっぱりそうじゃない人もいるみたい。

そう言えば裕も前にぼやいてたっけ、ヒマだって。

「朝の10分を読書にあてるよりさ、10分早く授業始める方がよくないか?早く帰れるしさ。」

「おー、トヨがまともな意見を言った!」

「なあ、ハルもそう思うだろ?」

ハルって、確か小高の事だ。

自分と関係ない話をしてるって分かってても、思わずぎくっとしちゃう。

「え?俺好きだよ、読書週間。」

あれ?意外な返事。

「えー、何でだよ!ハル、そんなに本好きだったか?」

「分かってねえな、お前ら。要は読書週間で自分を高める努力が出来りゃあいい訳だ。」

「なんだそりゃ。」

何だか気になって、つい会話を聞いちゃう。

「ハル、どんな本読んでんだ?」

「おお、よくぞ聞いてくれた。これだ!」

「何々……“スタイル美人になる為の毎日”!?」

本のタイトル聞いて、思わず笑っちゃいそうに。危ない危ない。

「なんだこれ!」

「色々背を伸ばす方法が書いてあるんだよ!」

小高って、小さいもんね。裕と同じくらいかな。でも、その本………。

「それ、女向けの本だろ?」

「いいんだよ、女向けでも。見てろよ、来年の今頃にはお前ら全員より背ぇデカくなってるからな!」

「無理無理!」

ぎゃはははって、周りの男子が笑った。

なるほどね、自分を高めるってそういう事なんだ。

目標があれば苦手な勉強を頑張れる――みたいなものかな?

「小高っていえばさー。」

のーちゃんがぼそっと口を開く。

「最近、美月ちゃんにあれこれいらない事言わなくなったよね!」

あ、そういえば……。玄関で思いっきり言いたいことを言った日から?

「改心したのかな。ま、よかったよね。」

「あ、うん……。」

分かってくれた……のかな?

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