青い、空の下で。〜中学生編〜

  第28話   第29話 第30話


第28話 クリスマス


体育大会に合唱コンクール、文化発表会とそれに英語部のスピーチコンテスト。

毎月何らかの行事があってハードだった2学期も、もう終わりに近い。

気付けばクリスマスが近くて、今年もやちるのママがマンションのベランダに綺麗な電飾を飾り付けた。

あたし達三人のクリスマスは、毎年マンションの子供会でのクリスマスパーティー。

中学生はもう子供会を卒業しているけど、去年は会場設営や料理作りとかを手伝う“OB・OGスタッフ”で参加したんだ。

今年もそのつもり……だったんだけど。


「えーっ。円香もやちるもデートぉ?」

「うんっ。」

「デートなんて、そんな大袈裟なものじゃないわよ……。」

「あ〜、円香照れてる、かわいい〜。」

そ、そうなんだ……。

円香もやちるもいない。円香がいないってことは、すー兄もいない。

まい兄もあき兄も彼女とデート……なんかあたし一人、寂しい人みたい。

「……うん、分かった。楽しんできて。」


「うわー、寒い。雪降りそう。」

結局あたし一人で今年はOGスタッフ。

……って言っても、マンションの中学生は他にもいるから、本当の一人じゃないけど。

「美月ちゃん、手が空いてたら買い出し行ってきてー。」

三年生の久美ちゃんが折り紙のわっかを飾りながら言った。

「うん、何?」

「高屋文具店で、プレゼントの女の子セット。可愛いやつ選んで、包装してもらって。」

クリスマスパーティーでもらえるプレゼントは、毎年文房具セット。

「え、まだ買ってなかったの!? 第一それ、一人じゃ無理だよ。」

「あ、違う違う。実行委員長の吉田のおじちゃん、人数勘違いしてて一人分足りないからそれの買い足し。」

「なんだぁ、びっくりした。じゃ、行ってくるね。」

会費の財布をコートのポケットに入れて、会場を出た。


「ありがとう、またおいで。」

高屋文具店を出たら、少し日差しが差してさっきよりも若干寒さがマシだった。

「さて、帰ろうっと。」

「あれ、青山?」

「え?」

腕時計を見ていた目をまっすぐ前に向ける。小高だ。

「やっぱり青山。」

「なんでここに? 家この辺じゃないよね。」

小高は六小出身。六小の校区までは2、30分はかかるし、坂だってあるのに。

「おつかい。家の近所のダイオーよりもこっちのスーパーの方が安いんだってさ。」

「そうなんだ、ダイオー滅多に行かないから、知らなかった。」

人間って何がどうなるか分かんない。あんなに嫌いだった小高と、あれ以来だんだん普通に話すようになった。

もちろん最初はそうでもなかったけど2学期中ずっと同じ班だったし、

それに小高と裕が一年の時同じクラスで今も仲がいいって知ってからはあたしと小高も結構気が合うって分かった。

「青山は文房具?」

「うん、子供会のクリスマスパーティーで配るプレゼント。」

「へえ、いいなー。俺んちの近所、子供会なんか無いもん。そういうのホント羨ましい。」

「そうなんだ。じゃああたしそろそろ行くね。」

「そっか、俺も帰らねーと。じゃあな。来年もよろしく!」

「……うん。」

のーちゃんや裕の言うとおり、小高はちょっとお調子者だけど、結構いいところもある。

そうか、もう今年も終わりなんだ。

来年はいよいよ三年生か、どんな年になるんだろう。


第29話 お正月

「明けましておめでとうございます。」

新年明けた1月1日、青山家全員集合でご挨拶と朝ご飯。

「はい、みんな。お年玉。」

「わーい、ありがとう。」

お年玉やおせち、お雑煮も嬉しいけど、やっぱり仕事が忙しくて普段めったに会えないお父さんやお母さんとのんびり過ごせることが幸せ。

「舞人に渡すのは今年が最後だな。」

お父さんが、しみじみと言った。

六歳年上のまい兄は今年の春から、公務員として働き始めるんだ。

今まで不良ぶったり留年したり色々大変だったけどやっと落ち着いたって、家族みんなでほっとしたっけ。

「秋羅と周防は入試まで後少しね。お母さんもお父さんも応援してるからね。」

「正月からこの話題かよ〜。」

「しょうがないよ、あき兄。それに安全圏なんだからあんま思い詰めんなって。」

県内の私立大学を受けるあき兄と、近所の県立宮野高校を受けるすー兄。

「で、美月も今年は中3、受験生だな。」

「受験ラッシュだな、うちの家。」

「うー、不安だなぁ。」

「美月も宮野高校だろ? 普通にやってたら大丈夫だよ。まい兄だって受かったんだし。」

「周防、お前何を言うか。」

「舞人の年は確か倍率がやたらと低かったのよねぇ。」

「母さんまで……。」


「あ。もうお昼なんだ。」

年賀状の仕分けをした後も六人でだらだらしてたら、いつの間にか正午近くなっていた。

「そっか、お前今年も円香とやちると初詣?」

「うん、そろそろ出ないと。行ってきまーす!」

ドアを開けると、やちるがもう外にいた。

「おはよ〜、美月。」

「おはよ、明けましておめでとう。やちるが一番に外にいるなんて珍しいね。」

「えへへ〜。そういえば円香が最後なのも珍しいよねぇ。」

円香ん家を見る。いつもより更に子どもの声で賑やか。

「ごめん、お待たせ!」

円香が慌てて出て来た。

「おはよ〜、大丈夫だよ? そんなに待ってないもん。」

「円香ん家、今年も親戚の子たち来たんだね。」

「相変わらずすごい賑やかだね〜。」

「静かにしろって大人も言ってるんだけどね……どうもテンションあがるみたい。」

「あ〜、お腹減ったね〜。何から食べようかなぁ。」

「やちる、メインはお参りだからね?」

円香のいとこって、父方も母方もみんな年下なんだって。確か一番年の近い子が妹の麻雪ちゃんと同じ2歳下、一番小さい子は3歳。

だから学校とかあたしたちといるときとかも自然とお姉さんポジションなんだよね。

「あ、やちる! 白い鯛焼きだって。後で食べよう!」

「きゃ〜、本当! おいしそ〜。」

「まあ、しょうがないか。」

宮野厄神は市内でも大きい方の神社で、たくさんの人が来る。

毎年元旦やお祭りにはたくさんおいしそうな屋台が出るから、つい目移りしちゃうんだよね…。


「そういえばやちる、今巻いてるマフラーって先月から編んでたやつ?」

円香がやちるのマフラーを見て言った。淡いピンクで、女の子らしいやちるによく似合ってる。

「うん、そうだよ〜。本見ながらやったら、結構簡単に出来たんだ〜。」

「私は昔挫折したわよ……すごいわ、やちる。」

「昔からお裁縫とか得意だもんね。取れたボタンとかも一番綺麗につけれるし。」

「うん、こういうの好きなんだ〜。手芸部があったら、そっちに入ったかも。」

「高校で入ったらいいじゃん。宮野高校には手芸部あるみたいだよ。」

「……そうだね。」

「あ、順番来るわよ。そろそろ小銭用意しておかないと。」

財布から出した10円玉を賽銭箱に投げ入れて、三人で鈴を鳴らす。

(今年も三人仲良く…あ、去年よりもっと楽しくなるといいな。三年生にもなるし、やっぱり過ごしやすいクラスになるといいな。今度こそ。)

「美月ー、行こ〜!」

「うん!」


第30話 3年生、一歩手前

「先輩たち、卒業おめでとうございまーす!」

「ありがとう!」

3月9日、今日は宮野西中の卒業式。

運動場のあちこちで部活の先輩に色紙や花束を渡したり、お礼の言葉を言っている姿が見られる。

もちろん、あたしたちだって同じ。

英語部らしく、色紙のメッセージは全部英語で書いたんだよ。大変だけど、こういうのも勉強になるんだよね。

「美月ちゃん、部長頑張って! ひなちゃんもしっかり支えてあげてね。」

「はい!」

そう。先輩たちの引退後、あたしは部長になった。

先生とひーちゃんと三人で話し合って、あたしがやることになったんだ。

最初は部長会議とかでも緊張したけど、最近はやっと慣れてきた。

今は新入生向けのクラブ紹介の文章を考えてるんだ。

「来年はあたしたちが卒業する側だね…。」

隣でひーちゃんがぽつりと呟いた。

そうか、来年はあたしたち。

それはまだまだなのかな。それとも、もうすぐ?


「ああーっ!!」

大掃除の前に教室のロッカーを整理してたんだけど、やばい。これはやばい。

「青山、すげー叫び声。」

「美月ちゃん、どしたの?」

小高とのーちゃんが声をかけてきた。

「図書室の本、返し忘れてた。」

社会の調べ学習に使った“高度経済成長期の人々のくらし”、期限が一週間近く切れてる。

「あーあ。ドンマイ。」

「放課後返しに行くしかないね。」

「うん。」

やだな……司書の先生、厳しいんだよね。


「あ、美月ちゃん。」

「あれっ、あっちゃん。」

カウンターにいたのは同じマンションに住む一年生のあっちゃん。そうか、図書委員だったんだ。

「返却?」

「あ、うん。ちょっと期限過ぎちゃったんだけど。」

でもラッキー。あっちゃんなら怒られずに済むや。

「そうなの? …って一週間! もう、美月ちゃんったら。」

「ごめんね、本当うっかりしてて。」

「はいはい。そういえば、さっきやちるちゃんも来たよ。まだいるんじゃないかな。」

「やちるが?」

読む本はほとんどマンガかファッション雑誌のやちるが、めずらしい。

「ほら、あそこ。」

「本当だ。」

奥の方の本棚で、何だか真剣に本を探してるみたい。

「あの辺、進路の資料コーナーだよ。県内の高校の紹介とか、お仕事ブックとか。」

「進路?」


「やーちるっ。何探してんの?」

ごくごく普通に声をかけたんだけど。

「きゃっ!!」

なんだかすっごく驚かれた。

「み、美月〜。」

「ごめん、そんなにびっくりするとは思わなくて。進路の本、探してるの?」

「え、ええと、うん。まあ。でももうそろそろ行くね! じゃあね〜!」

「あ、やちる?」

止める間もなく、ダッシュでやちるは図書室から出て行った。いったい何なんだろう。なんか変。

「進路、ねえ…。」

さっきやちるが見ていた棚には“なりたい職業で高校を探す”“関東の高校ガイド”なんてタイトルの分厚い本が立っている。

変なの。宮野高校に行くんじゃないのかな?

「ごめんなさい、今日は本の整理をするので4時半には図書室を閉めまーす。」

あっちゃんの声がした。時計を見ると、四時ちょっと前。やばい、そろそろ帰ろう。

そして、進路コーナーの本のことは頭の隅っこにいった。


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