青い、空の下で。〜中学生編〜

  第31話  第32話  第33話  第34話


第31話 3年生


「行ってきまーす!」

4月7日、今日は始業式。いよいよ3年、中学最後の年なんだ。ちょっと緊張。

「美月、おはよ〜。」

「おはよ、やちる。」

円香は明日の入学式で演奏があるから、今日から朝練。やちると二人で学校に向かう。

「クラス替え、どうなったのかな〜。ドキドキしてきちゃった。」

「同じクラスになれたらいいよね。」

ふと空を見上げると、綺麗な青空。ぽかぽか暖かくて心地いいし、やっぱり春って好きだな。


「美月ちゃん、やちるちゃーん!!」

「おはよう、二人とも。」

門を入ってすぐのところにひーちゃんと円香の姿を見つけた。

「ひーちゃん、円香。おはよっ。」

「おはよ〜。クラス替えの紙、もう見たの?」

やちるがひーちゃんと円香に聞いた。

ひーちゃんは見るからに嬉しそうだし、円香も笑顔。

ひょっとして今年こそ、みんなクラスが固まったのかな? って、期待。

「すごいわよ。3年1組、見てごらんなさい。」

「1組?」

やちると二人で掲示の方へ行くと、人ごみの中になっつんも見つけた。

「なっつん、おはよ〜っ。」

「おはよー。なっつんは何組?」

「……やちるに美月。私たち……5人とも同じクラス!」

「ええーっ!」

なっつんから伝えられた衝撃の事実に思わず叫んだ。

「こら、煩い!」

「い、1組1組!」

なっつんに怒られたけど、びっくりしたんだからしょうがない。

とりあえず自分の目でも確かめようと、しっかり“3年1組”の紙を見る。

青山美月……鈴本やちる……高槻ひな……夏目芹子……八城円香! 全員の名前がそこにあった。

「美月ちゃん、すごいね! ホントにホントだ〜!」

「こんなの初めてだよね、やったね!」

中学3年生、さい先のいいスタート。他にも知ってる名前が結構ある。あ、裕の名前も発見。あとは誰がいるのかな。

「美月、行くよ〜っ。」

「え、待ってよー。」

いつの間にかみんなは人ごみから離れてて、あわてて追いかけた。


「お、円香にひーちゃんやん。久しぶりやなー。」

「ちあちゃん! ちあちゃんも同じクラスなんだね!」

「円香、友達?」

1組の教室に入ったら、窓側に座っている子が円香とひーちゃんに声をかけてきた。

「ああ、1年の時に同じクラスだった森千明さん。」

「森千明ですー。円香やひーちゃんの友達やんな? よう一緒におるとこ見るから覚えてんねん。」

「そうなんだ、よろしくね。」

関西弁だ。テレビとかでしか知らないから、なんか新鮮。明るそうな子だし、仲良くなれそうだな。

「おっす。」

裕が教室に入ってきた。

「裕。おはよー。」

桜井裕とは、小学校一年生のとき始めて同じクラスになって以来の腐れ縁。何しろ同じクラスになるのはこれで5回目。

「あれぇ、ひろくん背ぇ伸びてない? あたしとあんまり変わらないように見えるよ〜。」

「え、まじ?」

やちるの言葉に、裕は姿勢をしゃんとしてやちるの隣に並ぶ。本当だ、ほとんど差がない。

「よっしゃ、チビ脱出! 次は美月を抜かすぞ!」

「何の話?」

裕の後ろから聞こえてきたのは、違う男子の声。

「おー、ハル! お前も同じクラスか!」

「ハル?」

ハルって、確か小高の呼び名だ。

裕の後ろから顔を出したのは、やっぱり小高。

「青山。今年も同じクラスなんだな。」

「う、うん。そうみたいだね。よろしくね。」

「おう。そういや裕、さっきチビがどうとか言ってたの、あれ何だ?」

「おれ、春休みの間に背が伸びたんだ! 鈴本と同じくらいになったんだ、今年こそは“背の順で男子の一番前”から逃れられる!」

「はあ!? ちょ、俺とも比べるぞ! 俺だって背を伸ばそうと毎日涙ぐましい努力をしてるんだからな!」

去年小高が読書の時間に読んでいた本のタイトルを思い出した。

「よし、背中合わせで測るぞ。」

二人とも身長が150cm代、小さいの結構気にしてるんだ。

「朝からにぎやかねー。」

「もう一人の子も、美月ちゃんと仲いいの? なんて子?」

「えーと、まあまあ…かな? 小高春樹っていって、去年同じクラスで二学期は同じ班だったんだ。」

「ハルくんすごくおもしろい子なんだよ〜。あたしと同じテニス部だけど、いっつもみんな笑わされてるの〜。」

「なんだか楽しいクラスになりそうやなぁ。」


大好きな親友に、楽しい喧嘩友達に、新しい友達。

新学期がこんなにうれしいことでいっぱいだなんて、ずいぶん久しぶりのような気がする。

「よっしゃ! 俺のほうが若干背が高い!」

「いーや、俺のほうが高い!」

小高とも同じクラスか……。去年の今頃、出会ったころは大嫌いな存在だったのに。

謝ってくれてからは仲良くなれたからかな? 面白い性格だってことを理解したからかな?

………なんとなく嬉しいのは。


第32話 おしゃれと校則


「おはよ〜っ。」

三年生になって二週間。クラス写真も撮り終わった今日この頃、気付いたことがある。

どうも学年の一部の女子の間で、制服でのおしゃれが流行っているみたい。

「おはよ、やちる。」

そしてやちるも……その内の一人。

「おはよー、やちるちゃん。今日も派手やなぁ。」

「やだ、ちあちゃんてば。おしゃれって言ってよ〜。」

どんなカッコしてるかって言うと、髪型はピンクのシュシュでてっぺんを少し結んで、セーラー服のスカーフはリボン型。

腕にはミサンガやブレスレットがいくつか長袖の隙間から見える。スカート丈も膝が丸見えになっちゃうくらい短くしてる。

ちなみに校則でセーフなのは……スカーフのリボン結び、だけ。

「みんなももっとおしゃれしたらいいのに〜っ。制服って普通に着るとさ、ちょっとダサくない?」

うちの制服は襟が紺色(夏は水色)のセーラー服にスカートが紺色基調のチェック柄。あたしは可愛いほうだと思うんだけどな…。

そりゃあ、高校生と比べたらちょっと垢抜けないかもだけど(宮野高校はブレザーでかっこいいし、校則もゆるいみたいでみんなおしゃれ)。

「遠慮するわ、先生達に目つけられたくない。」

円香がきっぱりと言った。

「え〜、でも何にも言われないよ?」

……なんて、やちるは呑気に言っていたけど。


「怒られた〜っ!」

一時間目の後の休み時間、やちる達何人かが先生に廊下に呼び出されて注意されたみたい。

「まあ、当たり前よね。」

「でもさやちる、どうして急におしゃれしだしたの?」

私服は昔から可愛いの着ておしゃれしてたけど、制服はこの2年間普通に着てたのに。

「急にじゃないよ〜、ずっとしたかったの! 去年までは先輩が怖かったから出来なかったけど。ほら、見てこれ〜。」

そう言いながらやちるが出したのは、毎月買ってるファッション雑誌。

「あーあー、そんなんまで持ってきて。見つかったらまた怒られんで。」

「休み時間だもん、平気だよ〜。ね、ここのページ。」

「“人気モデルの春制服アレンジ 学年別おしゃれ”?」

可愛いモデルさんたちがそれぞれ制服を自由に着てポーズをとってる。

「うわー、“スカートは短くないと! 膝上30cmは常識!”だって。下着見えそう。」

「こっちの人は“セーラー服の胸当てをはずして中に着た柄ものキャミをチラ見せ”だって。すごいね……。」

「バッカみたい。私服で好きなの着たらいいじゃない。」

「だって、雑誌に特集が載ってたら自分でもやってみたくなるじゃん〜。それに、学校でもなるべく可愛くしてたいもん。」

「んー、分からないこともない…かも。」

例えば同じ学校に好きな人がいて、学校でしか会う機会が無かったら、学校でちょっとでも可愛い自分でいたいよね。

「だからって、校則を破っていいわけじゃないでしょ。」

円香の言い方は、親が子供に言い聞かせるみたい。

でも、いつもは割と素直に頷くやちるも今日は負けてない。

「そもそも、どうして校則なんてあるの〜! 先生達、よく“個性を尊重”とか“自由な権利”とか言うけど、全然違うじゃん〜!」

「何言ってるの、そうやってみんなのわがまま全部“個性と自由”で認めたら収拾つかなくなるでしょうが。」

なっつんが呆れながら言った。

「TPOの問題じゃないの?」

「円香、TPOって?」

「場に合った格好をするってことよ。例えば先生が学校で金髪とか濃い化粧とかしていたらちょっとどうかなって思うでしょ?」

確かに。

「お葬式で白い服も非常識だし、キャンプでおしゃれ着も変じゃない。先生達も、中学生の内からそういうの気をつけてほしいって思っているんじゃない?」

「なるほどな〜。」

さすが円香、説明が分かりやすいしすっごい説得力ある。

「そうかな〜。雑誌みたいなおしゃれをするのって、いけないことなのかな……。」

「さあねぇ。」


結局その後、やちるは服装が少し大人しくなった。

円香の説得以外にも、学年主任の先生に内申書をタテに脅された…ってのもあるみたい。“脅された”ってのは、あくまで本人談だけど。

この間円香の言ってたことも正しいって思うけど、おしゃれしたい! って、やちるの気持ちも分かる。

なんだか、難しいかも。


第33話 いちばん重要な席替え

「やっぱさぁ、八ッ橋は外せないよな!」

「えー、俺甘いの苦手。それより大阪の“午後一の豚まん”っての食ってみたい!」

「見てみて、地主神社って恋愛の神様なんだって。」

中間テストが近いけど、三年生はどのクラスも月末の修学旅行の話題で持ち切り。

「京都・大阪なんて変わってるよね。普通は京都・奈良が多いけど。」

「“全く雰囲気の違う二つの都市へ行き、関西の文化を味わう”っていうねらいなんだって。すー兄が言ってたよ。」

あたし達も例外じゃなくて、クラスでまわし読みしてる京都のガイドブックをみんなで眺めてる。

あたし・円香・やちる・なっつん・ひーちゃん・ちあちゃんの六人。三年生になってからはこのグループで一緒にいることが多いんだ。

「あ、コレ可愛い〜。“たころくん”だって〜。」

「ああ、関西ローカルのテレビ局のキャラクターやで。今流行っとるし、色んなとこで買えるんちゃう?」

「ちあは六年生まで大阪にいたのよね。自由行動の行き先と近いの?」

「んー、言うてもうちの住んどったんはほぼ隣の兵庫県スレスレやからな。まあでも何べんかは行っとるから、案内すんで。」

「わぁ、楽しみ!」

……なーんて盛り上がっていたけど。あたし達はみんなして、大事な事を忘れてた。


「はい、注目! 遅くなったけど今日の5時間目で一学期の班を決めるよ〜。」

担任の先生が朝の会で言った。

班決めって言っても、まあ普通に席替えなんだけどね。うちの中学はどのクラスも学期ごとに一回のペースなんだ。

くじ引きで座席を決めて、近所の6〜7人で一つの班。

「それと、この一学期の班が修学旅行の班にもなるので、そのつもりでねー。」

…………え。

「ええーっ!! 先生、そんな〜!」

「聞いてないですよ、もう友達と回る計画立ててたのに……。」

みんなが一斉に文句を言い出して、一気にクラスが騒がしくなる。

「ごめんね、先生達も意見が分かれて散々話し合ったのよ。でも、決まった友達と組むよりも色々な人と仲良くなれるチャンスを作ろう…ってことになって。それに友達同士で組んでも、人数制限とかで別れ別れになったり、余ったりする可能性があるでしょう?」

ということは、他のクラスも同じ状況なんだ。

……って思ってたら、隣の二組からも「ええーっ!!」って叫びが。

「まあ、しょうがないか。先生の言うことにも一理あるしね。」

「なっつん、物分かりいいね……。」

みんなも渋々ながら納得しようとしているみたい。せめて、仲良しの誰かと同じ班になれるよう祈っとこう。


………祈ってたのに、神様の意地悪。

窓際から二列目、後ろから三番目。ここが新しい座席。

同じ班のメンバーは今までほとんど……もしくは全く話したことのない子ばっかり。

去年おんなじクラスだったけどほとんど話した記憶のない藤沢君、初めて同じクラスになった山田君、永尾君。

去年とおととし隣同士のクラスで体育の授業が一緒だったけどちょっと苦手なタイプの仁田さん、やっぱり初めて同じクラスになった川添さん。

うう、修学旅行もこのメンバーで行動か……。ちょっとだけ、気が重いな。


第34話 どこ行く? 自由行動

「この時間は各班ごとに修学旅行の自由行動の計画立てて、だってー。」

先生が出張に行った午後、学級委員の岸辺さんがクラスのみんなに言った。

すぐに教室が「よっしゃ!」って声や、机を動かす音でいっぱいになる。

最初は文句を言っていた割に、どの班もそれなりに仲良くなって盛り上がっているみたい。

「なあなあ、ユニークバーチャルスタジオ行こうぜ!」

「どこにそんな金と時間あるん、ユニバ半日て下手したらアトラクション一個乗っておしまいやで。」

隣の班から一際元気な声が聞こえてきた。小高とちあちゃんだ。いいな、楽しそう。

……あたしもあっちの班だったらよかったのに。

「さて、俺らも決めようぜ。自由行動は大阪と京都で半日ずつだよな。」

班長の藤沢君が言った。

「どっか行きたいトコある? とりあえず、一人ずつ言ってこうぜ。」

「あたし地主神社!」

「俺映画村!」

仁田さんと山田君がすかさず声をあげる。

「地主神社に映画村…と。この二つって近いのか? 近かったら両方行けるけどな。他はー?」

「昼飯さー、“餃子の大将”行こー。」

「いやいや、本場のお好み焼きだろ!」

「ええー、あたし食べ歩きしたいなぁ。タコ焼きでしょ、和菓子でしょ……。」

「待て。ほとんどおやつだろ、それ。」

「えー、いいじゃん。」

どうしよう……言うんだったら今しかないよね。でもなぁ……。

実は、円香とやちるとあたしの三人でお揃いのブレスレットを作ろう! って決めてたんだ。

三人とも班は別れたけど、自由行動で合流出来るようそれぞれの班で頼んでみようって約束した。

けど、元々友達でも無かった人ばっかりの班で自分の意見を言うのって緊張する……。

そうこうしている間にも藤沢君がとっているメモに、みんなの行きたいところや食べたいものがどんどん増えていく。

「こんなもんかな。これ以上は回りきれないだろ……」

「ま、待って!!」

思わず大きな声をあげちゃった。うわ、みんなこっち見てる。

「どうした? 青山。」

「あの、もう一カ所だけいい? 手作りのお守りブレスレットを作れるお店があって、そこにどうしても行きたいの。」

うわ、心臓がどきどきばくばくいってる。

仲良しの友達には簡単に言えるような事なのに、“言ってもいいのかな、大丈夫かな”って気になる。

だけど約束だもん、絶対行きたい。

「へー、楽しそうじゃん。あたしも行きたい!」

「ねえ藤沢、そこも行こうよ。」

仁田さんと川添さんが、びっくりするくらいあっさり賛成してくれた。

「えー、でも手作りって時間かかんねえ?」

「それに俺達男子はあんまそういうの興味ないぞ。な、山ちゃん。」

「あの、一番簡単なやつなら30分くらいで作れるんだって。ほら。」

ここで引き下がるわけには行かない。家のパソコンでホームページを見てプリントアウトしてきたものをみんなに見せる。

「へー、意外と安いね。」

「ねえ、ここっておみやげ物売ってる商店街の近くじゃない。男子作らないなら、ここで待っててもらうってのは?」

「あー、別にそれでもいいけど。」

「じゃあ、ここも行くことにするか。よし、回る順番決めようぜ。」

やった!

「ありがとう!」

修学旅行にこの班で行くのが少し気が楽に……ううん、楽しみになってきた。


第35話へ⇒


3号館のトップに戻る。   一気にトップページまで戻る。