missing you
大きく開け放った窓から入る風が、カーテンを大きく揺らす。
ただでさえ物の少ない部屋は、主が去った今、益々がらんとして見えた。
床の上を丁寧に掃除機を掛け、さらにモップで水拭きをする。
窓枠、棚の上、ベッドの背板、それらを雑巾で拭く。彼の居た痕跡はひとつひとつ消えて行く。
ほとんど汚れていない部屋の掃除は呆気なかった。
埃のうっすらでも積もる時間さえ主は持たなかったのだ。
最後にベッドカバーをきちんと被せ、窓を閉める。 部屋の扉が主の居た記憶を封印する。
そうして約束されない『次』を待つ。
ジョーは階段を降り、洗面所で手を洗った。
向かったキッチンでは、張大人が夕食の支度をしている所だった。
──── 掃除は終わったんかネ?
──── ・・・うん。手伝うよ
ジョーは流しから包丁を取り上げ、ジャガイモの皮を剥き始めた。
張大人は鮮やかな手つきでキャベツを次々と刻んでいく。そのざくざく言う音に合わせて、彼は早口でまくしたてた。
──── 全くあの男もあんなにさっさと帰らんでもいいネ・・・!ちょっとは腰落ち着けていくがヨロシ!
ワテなんかろくすっぽ話も出来んかったネ!
──── うん・・・仕事があるって言ってたよ・・・
包丁からジャガイモの皮がぽとりと落ち、ジョーは次を取り上げた。
──── いつもいつも、何でこうネ!今回こそはと楽しみにしてたっていうのに、博士もがっかりしてたアルヨ・・・
──── うん・・・
皮が再び落ち、さらに次のジャガイモを取り上げた。
張大人は刻んだキャベツをバサリとざるに放り入れる。足元で彼愛用の踏み台がガタガタ鳴った。
──── たまにはゆーっくりしていってもバチは当らないアル!みんな寂しく思っているのは分かってる筈ネ!
ジョーもそう思わないアルか?
──── ・・・・・・
──── ・・・ジョーはアルベルトが居なくなって寂しくないアルか・・・?
返事の無い相手を訝しく思い、張大人は顔を覗き込んだ。
皮が流しに落ちた。
──── ・・・ジョー・・・?
ゆっくりとこちらを向いた彼の睫毛は濡れていた。
瞬きをした目から、後から後から涙が溢れて来た。
強がる様に手首でぎゅっと目を擦る彼に、張大人は手を伸ばした。
髪に触れ、そっと優しくあやすように撫で始める。
その途端ジョーの口元が震え、たちまち堰を切った様にわっと泣き出した。
幼児の様にしゃくりあげ声を上げて泣き続ける彼の髪を、張大人は微笑みながらぽっちゃりした手で何度も撫でた。
彼の涙が途切れるまで、何度も何度も撫で続けていた。
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