漢字教育士ひろりんの書斎日本語の本棚
2015.1.  掲載

 野菜と果物

 みなさんはこんなクイズを出されたことはありませんか。
 「スイカは野菜か果物か?」
 正解は野菜だと言われたのではないでしょうか。では、メロンは?バナナは?
 百科事典によると、野菜は草の根・葉・実などで、果物は木に成る実だということです。ある植物が草か木かということについては、植物学の上で厳密な区別があり(学問的には「草本」と「木本」といいます)、その結果、野菜と果物もはっきりと分けられることになります。
 このとおりに考えると、スイカもメロンも、草にできる実なので、野菜であるということになります。バナナも、大きな木に実っているように見えますが、植物の分類としては草なので、バナナの実は野菜だということになります。
 みなさんはどう思いますか。スイカはともかく、メロンやバナナは果物というほうがしっくりくるのではないでしょうか。
 草にできる実といえば、パイナップルやイチゴもそうです。いくらなんでも、イチゴが野菜だなんて、変だと思いませんか。
 ちなみに、国語辞典(「広辞苑」第6版)には、果物は「草木の果実で食用となるもの」とあり、野菜は「生食または調理して、主に副食用とする草本作物の総称」とあります。先ほどの分け方と違いますね。果物には草の実も含まれ、野菜は主におかず用とされています。学問の上での分類と、日本語としての使い方の違いといえるでしょう。
 植物学や農学といった学問の話をするときには、言葉の表す意味をはっきりと決めなければ、かみ合った議論をすることができません(このように意味をはっきり決めることを「定義」といいます)。しかし、ふだん人と話をするときには、普通の人の感覚で言葉を使えばいいのではないでしょうか。厳密に定義されたことをあまり几帳面にあてはめると、日本語として変な感じがするということはよくあることです。
 「野菜はおかずになるもの、果物はデザートになるもの」とか、「野菜は八百屋で売っているもの、果物は果物屋で売っているもの」と考えてもいいのではないでしょうか。