コイスルキモチ



ゴールデン・ウィークなんて、大キライ

…ううん、去年までは大好きだった
学校が続けてお休みで、毎年どこかに遊びに行けた

お父さんとお兄ちゃんと雪兎さんと、高原の別荘
知世ちゃん達と、ピクニック

だけど、だけどね

今年のゴールデン・ウィークは小狼くん、香港へ帰っちゃうの
…たぶん、これからは毎年、そうなるって
お家で大事な儀式があるから、帰ってお手伝いしなきゃならないって

だから、ゴールデン・ウィークなんて、大キライ


ほんのちょっと前までは、≪大キライ≫なものなんて、なかった
そりゃ、数学とユーレイとコンニャクは苦手だったけれど
こんな気持ちで大キライなんて、思わなかった

≪大好き≫が出来ると、≪大キライ≫も出来ちゃうのかな…?


わかってるの
わたし、ワガママだって

小狼くんは、ちゃんと約束を守ってくれた
頑張って、『香港でやらなきゃいけないこと』をすませて、帰ってきてくれた

毎朝いっしょに学校へ行って
クラブのない日はいっしょに帰って
お休みの日にも、何度もいっしょにお出かけして

なのに…

どうして、ほんの何日か会えないだけで、


………ズット、イッショダヨッテ言ッタノニ……!!


…なんて、思っちゃうんだろう?
こんなわたしなんて、大キライ


『さくらちゃん。よかったら、ぼくととーやと一緒に、映画に行かない?
 ほら、観たいって言ってたの、あったでしょ?』

『さくらちゃん。よろしければ、私と母の買い物に付き合っていただけませんか?
 さくらちゃんも、新しいお靴やバッグが欲しいって、おっしゃってましたでしょう?
 母も、是非是非ご一緒にと……』


ごめんなさい、雪兎さん
ごめんね、知世ちゃん

だけど、バイトで忙しいお兄ちゃんや、お仕事で忙しいお母さんと、
せっかく二人っきりで過ごせるんでしょう?
邪魔なんて、出来ないよ…


「さくらぁ〜。せっかくの休みやゆうのに、なに、しんきくさい顔でゴロゴロしてんのや?
 ちいっとは気晴らしに出かけたらどやねん」

「ケロちゃん、お願いだから、ほっといて…!」


ケロちゃんに、八つ当たりしちゃうわたしなんて、大キライ…!

…どうしよう、わたし、どんどん嫌な子になっちゃうみたい
こんなんじゃ、小狼くんにだって、嫌われちゃう…


「おい、ゴロ寝怪獣!電話だぞ」

お兄ちゃんが、むすっとした顔で、子機を持ってきてくれた

「…さくら、怪獣じゃないってば…」

答えながら、耳に当てる


「はい、さくらです。
 ……えっ、もうお家でのご用、終ったの?
 帰って来るの、いつ?
 うん!じゃあ、空港までお迎えに行くよ!!
 ううん、いいの!行きたいの!!
 …えっ?うん……うん!
 じゃあね、観たい映画があるの。
 それからね、新しく出来たオープンカフェにも行きたいな。
 こないだ、TVでやってたの!季節のフルーツタルトがおいしそうで…
 わかったってば、ケロちゃんにもちゃんとおみやげ買ってくるから!
 あ、ごめんね!
 それからね、それから……」


   * * *


「はぁ…。恋する乙女っちゅうんは、落ち込んだり笑ったり、せわしないこっちゃなぁ」

ぬいぐるみの姿をした守護獣は、ポツリと一言もらすと
TVゲームのコントローラーを手に取った。

「さくらぁ〜。おみやげ、忘れんといてや〜〜」


                                   − 終 −


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コミックス12巻ラストでの再会から、間もなく後のゴールデン・ウィーク中というイメ−ジです。
My設定における遠距離恋愛終了後ですと、中ニということになりますが。(笑)
さくらちゃん→小狼君 な感じを出したくて、さくらちゃんの一人称で書いてみました。
…やっぱり、難しいですね…。
年齢を詐称しているような罪悪感を感じます。(汗)

ちょっとだけ後ろ向きのさくらちゃん。
皆さんの抱いているイメージとは違うかもしれませんが、御容赦下さいませ。

(初出01.5 投稿させていただいたサイト様は、既に閉鎖しておられます。)