VS 〜 versus 〜



桜も終わり、新緑が目にもあざやかな季節となった。
梅雨の蒸し暑さがやって来る前の、爽やかな日々。
木之本桜は毎日毎日、はりきって早起きをしては、楽しげに友枝中学へ通っていた。

「じゃあ、いってくるね〜♪」

まるでピクニックにでも出かけるような軽やかな足取りで部屋を出ていく彼女を見送るのは、
黄色いぬいぐるみ…もとい、カードの守護獣にして封印の獣・ケルベロスである。

「……おもろない……」

窓から外を覗いたケルベロスは、ポツリと呟いた。
黒い小さな目が追っていく先には、ケルベロスの主である少女・さくらと、
そして彼女と同じ友枝中学の制服を着た少年の姿があった。
何やら熱心に話し掛ける少女と、時折うなづきながら彼女の声に耳を傾ける少年。
見るからに、初々しくも微笑ましい光景である。

だが、ケルベロスのお気には召さなかったらしい。
更に低めた声で、もう一度呟いた。

「…わい、おもろないでぇ〜〜…」

背中の小さな羽根を動かして窓辺からTVの前のクッションに移動したケルベロスは、
短い手足を器用に組んでブツブツと文句を並べはじめる。

「最近のさくらは、たるんどる。
 なにかっちゅうと≪はにゃ〜ん≫とか、≪ふにゃ〜ん≫とか、なっとるし。
 早起きになったんはええけど、毎朝6時に目覚まし時計三つも鳴らして、わいまで目ェ覚めるやないか!
 そんで、小僧の分の弁当なんか、いそいそ作りおって…。
 それも上手に出来たオカズは小僧の弁当箱に詰めて、わいにはコゲたんやら生焼けなんやらばっかし!!
 今日のカニクリームコロッケかて、わいにはバクハツしたヤツしかくれんかったんや〜!!!」

…結局、食い物の恨みはなんとやら…である。

「ああっ、もう堪忍ならん!それもこれも、みんな小僧のせいや!!こうなったら…」

『決闘だ!』

突然の声に、ケルベロスは小さな目をしばたかせた。
首を巡らせ、声のした方に顔を向ける。

つけっぱなしのTV画面では、何時の間にかケルベロスが毎朝楽しみにしている
N○K連続テレビ小説が終わり、古い映画が放映されていた。
どうやら西部劇らしく、画面の中では砂埃の舞う町の真中で拳銃を腰に下げた二人の男が、
深刻な顔で向き合っている最中だ。

「……そうや」

ゴマ粒のような目が、キラリ〜ンと光った。


その日の夕方。
いつも通りさくらを家まで送り届けた後、一人マンションへ帰って来た李 小狼は、
郵便受に入った白い封筒を受け取った。
その表には、小学1年生以下の文字で、こう書かれてあった。

『けッとお状』


   * * *


深夜。
かつて、幾度となくクロウカード捕獲の舞台となった、友枝小学校。

その上空を舞うのは、人ではなく、生物ですらない、不可思議な存在。
月の力を司るカードの守護者・ユエと、太陽の力を司るカードの守護獣・ケルベロスである。
もちろん、ユエと同様ケルベロスも今は、ぬいぐるみもどきではない真の姿、
黄金の眸の翼ある獅子の姿に戻っている。

両者は、ゆっくりと校庭の上を旋回した。
彼等の眼には、普通の人間には見る事の出来ない≪壁≫が見えているのだ。

「結界…だな。友枝小学校の敷地、全てを覆っている」

「やっぱり、小僧が張っとんのやろなぁ」

「他に誰がいる…?ところで、約束の時間は?」

「午前1時や。ああ、もうちょっとで…」

ケルベロスの言葉が終わらないうちに、カチリと音をたてて時計塔の大時計の針が動いた。
それが合図であったかのように、結界の力が消える。
ユエとケルベロスは顔を見合わせると、校庭の中央へと降りていった。


ニ対の白い翼が砂埃をたてながら校庭に着地すると同時に、再び魔力の≪壁≫が周囲を覆い始める。
その中心にいるのは、彼等の目の前に立つ一人の少年だ。
いや、身じろぎもせずにユエとケルベロスを迎える表情には、実際の年齢を遥かに越える
落ちつきと厳しさがあった。

「これだけの結界、維持するだけでも大変な魔力の消耗になるぞ」

ユエの言葉に、少年…李 小狼は手のひらの上に浮かぶ護符を示す。

「普段から、余剰の魔力を少しづつ込めておいたものだ。
 おれの意識が途絶えない限り、あと30分間、結界は自動的に維持される」

小狼が口をつぐむのに時を合わせ、護符はゆらゆらと光を放ちながら溶けるように消えていく。
空気の張り詰めるピーンという音が、夜の静寂を震わせる。
完全に結界が閉じられ、その内部が通常の空間と切り離されたのだ。
ケルベロスはフンと鼻を鳴らしながら、ねめつけるように小狼を見た。

「前と服が違うとるな、小僧」

小狼が着ているのは、やはり緑の式服だ。
碧玉石(ピーユーシー ※1)の緑に石黄(シーホワン ※2)を縁どりにあしらったそれは、
シルエットも細身で一見、洒落た中国服のようにも見える。
だが、裾や衿元には李家の≪月≫と≪陰陽≫を現す細やかな刺繍の紋章が入っており、
緑茶に柑橘類を混ぜたような香が焚きしめられていた。

東洋で最も古い道士の家系である、李家。
かつては大陸で退魔を生業(なりわい)とした一族に伝わる衣装には、身にまとう者を
≪魔≫から守る術が込められているのだ。
まだ十四の誕生日を迎えていない年若い道士は、やや不機嫌そうに守護獣を睨み返した。

「いつまで、おれを≪小僧≫呼ばわりする気だ、ケルベロス」

「まだ二十年も生きとらんような奴は、小僧で十分や〜」

小馬鹿にしたようなケルベロスの返事は、予想通りだったのだろう。小狼は表情を変えない。

「それは、李家の成人用の式服だな。その着用を許されたということは…」

静かな声に、小狼の鳶色の眸とケルベロスの黄金の眸が、紫の眸を見つめる。

「一人前、ということか」

いつもと変らない無表情で、しかし念を押すようにゆっくりと、後の言葉を続けた。

「一人前、言うてもなぁ。どの程度のもんか、ホンマ不安やで〜」

バサリと、ケルベロスが翼を拡げると風が巻き起こり、小狼の式服の裾を翻す。

「守護者と守護獣の≪審判≫というわけか」

小狼は懐から黒い宝玉をとりだした。朱(あか)い房のついた飾り紐も、以前と変らない。
だが、蒼白い光を放って現れた剣は、かつては少年に背負われていた大剣であった筈が、
今は彼の手の中で、ちょうど手頃な大きさに見えた。

「さっそく、試させてもらおうかい!!」

 ゴッツ!!

いきなり、ケルベロスの口から炎の塊が吐き出された。

「破ッ!」

小狼が剣を横に薙ぎ払うと、放たれた≪気≫が炎を真二つに切り裂く。

「ちいっとは、できるようになったやんけ!だが、まだまだこんなもんやないでぇ〜!!」

飛び立ったケルベロスが、次の炎を吐き出す。小狼が攻撃を避けて大きく跳躍した。
それは、けっして常人の跳べる高さではないが、上昇を続けるケルベロスには及ばない。
小狼を見下ろして、ケルベロスが咆(ほ)えた。

「アホ!空も飛べんモンが、上へ逃げてもしゃあないやろ…って、なんやてぇ!?」

ケルベロスの予測に反し、小狼は放物線を描いて地上に落下することもなく、空に浮いている。
彼の両足首と、そして両腕の肘のあたりに、風が輪を作るように渦巻いていた。
≪風華≫をアレンジした魔法なのだろう。

「いろいろ、術の使い方も覚えたようやな!」

ケルベロスのセリフは、明らかに負け惜しみであった。
ふわりと、翼あるもののように空を翔けると、小狼はケルベロスに突っ込んでいく。
距離を詰められすぎて、ケルベロスは火球を吐くことをためらった。

…おそらくは、それが小狼の狙いなのだろう。≪気≫を込めて、剣を振り被る。
突然、小狼の真横にユエが迫った。
パワーではケルベロスが勝るが、スピードはユエの方が遥かに速い。
指先から伸びる青白い光の刃を、小狼は間一髪で受け止めた。

「おまえの相手は、ケルベロスだけではない」

冷ややかな声で言い放ったユエのもう一方の手に、結晶が生まれる。

「壁!」

小狼が叫ぶと同時に、至近距離から水晶の塊が叩きつけられた。
足場のない宙で、小狼は己が張った障壁ごと地上に落下する。

 ドガガガッ!

大地が穿たれ、土煙が上がった。
その中に、立ち上がる小狼の影が見える。
すかさず、ユエは手の中に月の弓を召喚し、矢を放った。

「おい、ユエ。やりすぎなんとちゃうか?」

立て続けの激しい攻撃に、ケルベロスが口を挟む。
しかし、次々と新たな矢をつがえるユエの返答は、素っ気無い。

「おまえが言い出したことだぞ、ケルベロス。
 クロウの血を引く少年が、主に釣り合うだけの成長をとげたかどうか、知りたいと。
 この程度で手も足も出なくなるようでは、もう一度李家に戻って修行し直した方が良いだろう」

「そら、そうなんやけど…」

その時、ヒュッと何かがユエとケルベロスを掠めた。
たった今、ユエが放った光の矢だ。地上には、剣を構える小狼…。
矢を、弾き返したのだ。
ユエの表情が、微かに動いた。

「ケルベロス、手を出すな」

地上に向かって急降下するユエの手に、光の刃が伸びる。

「めずらしいことも、あるもんやな」

上空で、しばしの観戦を決め込んだケルベロスが呟いた。


ユエは、少しづつ攻撃にスピードを加えていった。
まさか、主の≪一番大事な者≫の腕を切り落とすわけにはいかないだろう。
それは、ケルベロスも同じなのだ。小狼を黒コゲにするつもりはない。
…多少のヤケドは仕方ないにしても…。
しかし。

……こいつ…!?

ユエの攻撃を避ける、小狼は無表情だ。
その鳶色の眸の奥には、恐怖も、焦りも、興奮すらも見出すことが出来ない。

何も、考えてはいないのだ。
少なくとも、≪ヒト≫の思考では。

ユエの攻撃を、頭で考えるのではなく、目で見るのでもない。
それでは、≪人ならぬ存在≫の動きには追いつけない。
攻撃の気配を、感じると同時に反応しているのだ。
だからこそ、ユエの仕掛けるどんなフェイントも、この少年には通用しない。
剣を、その手から奪うことが出来ない。
感覚と、本能と、体術の、完璧な調和。

……信じられない。この年齢で、ここまで…。

常人には、一生をかけても到達出来るかどうかというレベルである。
正に、天賦の才というものだろう。

 キイィン

ユエの刃を、小狼が片手で受け止めた。
そして、空いたもう一方の手に、何かの力が集束していく。
魔力ではない、これは…。

……気功か…!!

 ドォンッ!!

≪気≫の塊を打ち込まれ、ユエの身体は真後ろに5〜6m吹っ飛んだ。
だが、とっさに障壁を張ったユエには、大したダメージにはならない。

その時。
小狼は剣を地面に突き立てると、ただ一言、呪文を唱えた。

「縛!」

 ゴォオッツ

突如、地面から炎が噴出し、魔法陣を描く。

「これは…≪炎縛≫か!?」

蛇のような炎が、ユエの腕に、足に、翼に絡みつき、動きを封じようとする。

「見事な術だ。だが、この程度では私を封じることは出来ない」

ユエは≪水≫の力を召喚すると、次々に束縛を絶ち切っていく。
炎が弱まり、全ての戒めが解かれようとした、瞬間。
ユエの足元が崩れた。

「!?」

大地が、ユエの膝下までを呑み込むと同時に、くすぶる炎の魔法陣に重なるように土が抉れ、
新たな魔法陣を描く。
上空で、その様子を見ていたケルベロスが唸った。

「あれは、≪地縛≫…ってことは、双陣呪縛やて!?
 何時の間に、そないな仕掛をしくさったんやぁ!!」

「くそ…!」

「≪火≫が弱まれば≪地≫が、≪地≫が弱まれば≪火≫が、互いを補って戒めを続ける。
 ユエといえど、自らと属性の反する呪縛魔法を同時に二つ無力化するには、時間がかかる」

剣を構え直した小狼が頭上に向かって言い放つと、低く旋回していたケルベロスは、
不機嫌そうに怒鳴った。

「んなこと、わかっとるわい!!」

「後は、おまえを封じれば、おれの勝ちだな!」

ニヤリと、勝ち誇った顔を見せる小狼。

「頭に乗るんやないでぇ、小僧!!」

カッとなったケルベロスは、小狼に向かって特大の火球を吐き出した。
もちろん、頭に血が上ったケルベロスは、ついうっかりと火加減するのを忘れている。

「水龍、招来!」

巨大な灼熱の火球の前に、水の龍が立ち塞がる。

 ドォオオオンッ!!!

炎と水との激突は、膨大な水蒸気を生み、湿った熱い空気で周囲を白く染めた。

「小僧、どこや!」

まるで湯上りのように毛皮を濡らしたケルベロスが、もくもくと立ち昇る蒸気の雲から飛び出した。
眼下の校庭は白い熱気で埋め尽されて、小狼の姿はどこにも見えない。

ふいに、ケルベロスの首の毛皮が何者かに掴まれた。
いや、結界に封じられたこの空間で、対の守護者が大地に封じられている今、
そんなことが出来る者は一人しかいない。

「おまえ達の、負けだ!」

何時の間にかケルベロスの背中にまたがり、その首に剣を押し当てている小狼。

「何を〜小僧!振り落としたる!!」

ケルベロスは翼をはばたかせ、今だ水蒸気で白く煙った地上に向かって急降下した。
そのスピードに、小狼は両手でケルベロスの首にしがみつく。

「やめろ、ケルベロス!」

ユエが、叫んだ。
≪木≫で≪地≫の呪縛を破ろうと試みるものの、とたんに≪火≫が≪木≫を焼きつくし、
再びユエをも戒め、動くことが出来ない。
突然、ケルベロスの背から小狼の気配が消えた。
ハラリと一枚の札がケルベロスの視界をかすめる。
その札には、≪幻≫という文字が書かれていた。

「なんやてェ!?」

ぐんぐん近づく地上では、白いもやが薄れる向こうに剣を構える小狼の姿。

「マズイ〜!!」

慌てて翼を動かしたケルベロスだが、急降下の勢いが良すぎて進路を変えるどころか、
バランスを崩したまま、地面に突っ込んでいく。
小狼が、護符を剣の前にかざす。

「風華招来!!」

風がケルベロスの四肢を、翼を捕らえ、丸く球を描くように取り囲み、ふわりと地上に軟着陸させた。
≪風≫に捕らえられたケルベロスと、≪火≫と≪地≫に捕らえられたユエ。
両者の間に立った小狼は、濡れた髪から滴る雫を拭おうともせずに、尋ねた。

「まだ、続けるのか?」

「いや…もう、十分だ。いいな、ケルベロス」

「………。」

風華の中で、ケルベロスはプイとそっぽを向いた。
それを見たユエは、無表情なままの顔を小狼に向けて、詫びた。

「いきなり、乱暴なことをしてすまなかった。
 だが、私もおまえの力がどれほどのものなのか確かめたかったのだ、李 小狼。
 もし、三年前に今の力があれば、おまえがカードの主になっていただろう」

ユエの言葉に、小狼は軽く目を瞠(みは)り、そして微かな苦笑を浮かべた。
そう。三年前の≪最後の審判≫では、彼は審判者・ユエに全く歯が立たなかったのだ。
だが、小狼は首を横に振ると真っ直ぐにユエの眸を見て、答えた。

「もし、三年前にカードの主になっていれば、おれはここまで強くはなれなかった」

ユエは、僅かに驚きの表情を浮かべて、小狼を見つめた。
それは、ケルベロスも同じだった。

『審判、終了』

頭の中で、何かが、告げた。


   * * *


『なあ、クロウ。
 おまえはオレやユエを創った時から、ずっと一人だったけれど、人間は≪伴侶≫というものを
 持つものなんだろう?
 おまえには、そういう人間はいなかったのか?』

『おや。ケルベロスは、随分≪人間≫のことに興味があるようですね?
 そうそう、≪伴侶≫ですが、これはなかなかに難しいものなのですよ。
 なにしろ、私が相手に伴侶になって欲しいと思っても、相手もそう思ってくれなければ駄目ですし、
 相手が私を伴侶にと思って下さっても、私にその気がなければ駄目ですし…』

『なるほど、そうか。要するに振ったり振られたりばっかりで、縁が無かったんだな〜』

『ふふふ…。まあ、そういうことになりますね。
 それでも、けっしてあきらめているわけではありませんよ?
 出会いは、何時何処にあるのかわからないから、面白いのですし』

『…クロウ・リードの伴侶になるならば、我々が認められるだけの魔力の持ち主でなければな』

『おいおい、ユエ。邪魔するつもりなのか?そういうのは…ええっと…そうだ!
 「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ」っていうんだぞ』

『ならば、ケルベロスはつまらない人間がクロウの伴侶に納まって、
 要らぬ災いを招くことになっても構わないというのか?
 我々は主を≪守護する者≫なのだぞ』

『それはそうだが…。なんでそんなにムキになるんだよ?』

『…べつに。
 おまえやクロウが、あらわれるかどうかも分からない人間の話などをするからだ』

『ユエもケルベロスも、私の心配をしてくれているのですね。
 …では、こうしましょう。
 貴方達が主とする者の前に、生涯の伴侶になろうとする者が現れたとき、
 貴方達はその者が主に相応しいかどうか、≪審判≫することが出来ると。
 どうです?』

『また、契約を増やすのか?』

『それもまた、「なんとなく、思いついた」ことなのだろう?』

『ええ、そのとおりですよ。
 だから、この契約の記憶は≪その時≫が来るまで封印しておきましょう。
 …お願いしても、よろしいですか?』

『いいぞ。おもしろそうだしな』

『べつに、かまわない』


   * * *


翌朝。

「じゃあ、ケロちゃん。いってくるね〜♪」

今朝もゴキゲンで家を飛び出していくさくらを、ぬいぐるみ姿のケルベロスはグッタリと見送った。

「…イッ、イタタタ…。小僧め、手加減せえへんかったなぁ〜〜」

誰にも聞かれる心配がなくなったので、思う存分愚痴れるというものだ。
今頃、雪兎に戻ったユエは、いつもにも増した大量の朝食でも摂っているところだろう。
窓ガラス越しに、並んで学校へ向かう二人を見て、ケルベロスは呟いた。

「もう、≪小僧≫ゆうんもやめんとアカンかな。
 しかしなぁ、何て呼んだらええんや…」

突然、小狼がパタリと道路に倒れた。
さくらが慌てて駆け寄る。
小狼はすぐに立ち上がったが、そのまま二、三歩よろめいた。
腕をとって支えようとするさくらを断って、何とか一人で歩き出す。
その足取りは、遠目にも危なっかしい。

ケルベロスは、フンと鼻を鳴らして言った。

「…やっぱ、二十年も生きとらん奴は、小僧で十分や!」


※1 碧玉石(ピ−ユ−シ−):不透明な緑の石英を表わす色。
                    碧色(へきしょく)。ジャスパ−・グリ−ン。
※2 石黄(シ−ホワン)   :硫化砒素を主成分とする顔料による橙味がかった鮮やかな黄色。
                    雄黄(ゆうおう)。ポイズン・イエロ−。
 (「色の名前/角川書店」より)


                                   − 終 −


TextTop≫       ≪Top

***************************************

めずらしくも魔法バトルのお話です。
…疲れました。(笑)

(初出01.10 「友枝小学校へようこそ!」様は、既に閉鎖しておられます。)