さくらミルク



桜の花が、ゆらゆらゆれる。
ピンク色の雲のなかを、ふわふわ流れているみたい。

ねぇ、小狼くん。

こんなにキレイなのに、ずっと前だけ見て
返事もしてくれない。


小狼くん、まだ怒ってる?
ごめんね、ごめんね。

せっかく帰ってきてくれたのに
わたしのせいで、桜の花も見られなくって。

つぶやいたら、うんと不機嫌な声で


   『そんなこと、どうでもいい』


…って。
小狼くん、ますます怒っちゃった…?


桜の花が、ゆらゆらゆれる。
ピンク色の海のなかに、ぽつんとひとりでいるみたい。

ねぇ、小狼くん。

しがみついた背中は、あったかいのに
ずっと遠くにいるみたい。
ここには、いないみたい。


小狼くん、何か言って?
怒ってても、いいから。

3学期の期末試験が終わってすぐ、香港のお家に帰ったきり
ずうっと会えなかったのに。

春休みなのに、2人でおでかけできなくて
わたしの誕生日にも、会えなくて
さみしいのをガマンした自分を、ほめてあげてたのになぁ…。
最後の最後で、大失敗。

そう思ったら、目の前の茶色がぼやけてきた。
あわてて上を向くと、ひらひら降ってくる花びら。


お風呂上りに、今日は何を着ようか迷ってたのがいけなかったの。
誕生日に知世ちゃんが作ってくれたお洋服は、とっても可愛くて。
曾お爺さんがプレゼントしてくれたお洋服は、とってもきれいで。

小狼くんがくれたペンダントに、どっちが似合うか考えてたら
いつのまにか時計が12時回ってて……、あ、そうだ!!


小狼くん、プレゼントありがとう。
お星様とお月様が重なった、銀色のペンダント。
4月1日にバ−スデ−カ−ドといっしょに届いて、すご−く、うれしかった。
今日も、ちゃんとつけてるの。


   『……気に入ったなら、よかった』


小狼くん、やっと返事してくれた。
ホントは待ち合わせのペンギン公園で、いちばんに言おうと思ってたんだよ?

でも、わたしの顔を見るなり急にオデコをさわるから。
その手があんまり冷たくって、ビックリしたら、


   『馬鹿!!俺が冷たいんじゃない、おまえが熱いんだ!!』


…って、怒鳴られた。

ホントに、ゼンゼンわからなかったんだよ?
ちょっと体が熱いのも、胸がドキドキするのも
小狼くんに会えるからだって、思ってた。


   『こんなに熱があるのに、出歩くなんて…。
    肺炎にでもなったら、どうするんだ!?』


こわい声と、こわい顔。いつかも同じこと、あったよね?
まだ小狼くんとはライバルで、クロウカ−ドを捜してた頃。
≪雲(クラウド)≫のカ−ドさんを捕まえようとして、
熱があるのにムチャしたわたしを叱ってくれた。


   『馬鹿!!そんな状態で来て…。
    もしものことがあったら、どうするんだ!?』


小狼くん、あの頃とちっとも変わってない。
そう思ったら、うれしくて、なつかしくて。
だから、ちょっとだけ泣いちゃったのは、怒鳴られたからじゃないんだよ…?


桜の花が、ゆらゆらゆれる。
ほんとは、わたしがゆれている。

ピンク色に染まった道の上を、小狼くんの背中におんぶされて。


……小狼くん…。


心配かけて、ごめんなさい。
めいわくかけて、ごめんなさい。

……重くて、ごめんなさい。


   『別に…、重くなんかない』


さっきより優しい声で、言ってくれたから
さっきより強く、しがみついた。

…あのね、小狼くん。
今日、お父さんもお兄ちゃんも家にいないの。
ケロちゃんも、知世ちゃんのお家にお泊りでゲ−ムしに行ってるの。
だから…、

言いかけると、小狼くんの足がぴたっと止まる。
体中が固まって、首の後ろと耳の後ろが真っ赤になる。


   『おまえ、何言って…!?』


ほえ?
わたし、まだ言ってないよ。

 『はちみつミルク、つくってくれる?』

…って。


両手をおいた小狼くんの肩が、がくっとなる。
花びらだらけの足元に、おっきなため息。
それから頭を上げたけど、首の後ろと耳の後ろは真っ赤なまんま。


   『…………わかった』


ありがとう、小狼くん。
明日は元気なるからね。


言いながら、ふわふわの茶色い髪をそっとつまむ。
あったかくて、甘いミルクにうかべよう。

手のひらの中、花びらひとつ。



                                   − 終 −


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遅ればせながら、さくらちゃん誕生日おめでとう!!
せっかくなので、作中にも無理矢理お誕生日要素を入れてみたり。(汗)
年齢は特に設定していませんが、中学2年生以降高校生ぐらいまで。
思春期の少年はイロイロ期待したり、肩すかしを喰ったりで大変そう。(笑)
何だかんだと清くかわいくまとめられるのが、このカップルの良いところです。

なお、“はちみつミルク”は原作コミックスベ−ス。(正確には「イラスト集1&2」の
巻末書き下ろしコミックス、通称「さくらと風邪とはちみつミルク」シリーズ)
≪雲(クラウド)≫のエピソ−ドは、アニメベ−ス(第39話『さくらのふらふら熱曜日』)
です。
拙宅の二次創作は、原作コミックスとアニメとが、結構ごちゃまぜになっております。