迎 春



わたしから、小狼くんにはじめて年賀状を出したのは、小学校4年生の時。

その頃はまだ、クロウカ−ドを取り合ってたライバルで
わたしは小狼くんのことを『李くん』って呼んでいた。

でも、小狼…李くんはいつだって、危ない時は助けてくれるし。
なんにも知らないわたしに、あきれたり怒ったりしながら
カ−ドや魔法のことを教えてくれてたから。


  『いつも ありがとう
   今年も よろしくね』


って、年賀状に書いた。

お正月に届いた年賀状の中に、李くんの名前はなかったけれど
新学期の日、わざわざ言いに来てくれたね。


  『おまえが送って来たハガキ、返事を出せなくて悪かった。
   昨日、遅くに香港から戻ったばかりだったし、この国にそういう習慣があることも
   知らなかったからな』



わたし、すごくビックリしたの。
李くんが、あやまってくれたことにじゃないよ。

気づいたの。

そっか、李くんは香港の人なんだ。
香港には、年賀状ってないんだ…って。

おかしいよね。

カ−ドを追いかけるときは、よく中国風のお洋服を着てるし。
ついこの間、香港のお家にも泊めてもらったばかりなのに。

でも李くん、先生に呼ばれたときみたいに真っ直ぐ立ったまま
すごく真面目な顔であやまってくれたから、あわてて言ったの。


  『ううん、いいの!気にしないで!!
   でもでも、来年は李くんからも年賀状もらえたら、うれしいな』


今年からは、もっともっと≪なかよし≫になりたいな。
…っていう意味のつもりだったんだけど、李くんはちょっとビックリして
それから、こわい顔になった。


  『クロウカ−ドを集めるのに、来年までかけるつもりか?
   そんなことじゃ、おまえがカ−ドの主になるのは無理だな』



そのまま、ぷいっと背を向けて行っちゃう李くんに、なんにも言えなくて。
席について、はう〜って溜息を吐いた。

また、おこられちゃった。
あきれられちゃった。

でも、胸の中がちくちくするのは、そのせいじゃない。

李くんは、帰っちゃうんだ…。
クロウカ−ドを全部集め終わったら、香港に。

やっぱり、わたし、おかしいよね。

そんなの当たり前なのに。
今まで、考えたこともなかったなんて。
そんな自分がはずかしくて、もう一度、はうぅ〜って溜息を吐いた。

知世ちゃんが心配そうにわたしを見て、山崎くん達と話してる李くんを見て
もう一度わたしを見た。
あわてて笑顔になると、知世ちゃんも何も言わずに笑顔を返してくれる。


  『だいじょうぶですわ』


…って言ってくれたみたいで、すごく安心したのを覚えてる。
もしかしたら、知世ちゃんには、わかってたのかな…?

あの頃は、まだ形にもなっていなかった、わたしの気持ち。


   * * *


小狼くんから、わたしにはじめて年賀状が届いたのは、小学校5年生の時。

クロウカ−ドは、その年の夏が来る少し前に、全部がそろった。
観月先生や、ケロちゃん、知世ちゃん、それに小狼くん。
みんなのおかげで、わたしは≪この世の災い≫を防いで
カ−ドさん達の≪主(なかよし)≫になることができていた。

でも、夏休みが終わってすぐに、魔法が使えなくなって。
全部のクロウカ−ドをさくらカ−ドに変えなくちゃならなくなって。
香港に帰るはずだった小狼くんも、心配して日本に残ってくれていた。

秋には、わたしを『さくら』って呼んでくれるようになって。
わたしも『李くん』から『小狼くん』って、呼ぶようになって。

だから、すごくうれしかったの。


  『あけまして おめでとうございます 李小狼』


って、真っ白なハガキに墨で書かれた年賀状が。

小狼くんと≪なかよし≫になれたことが、うれしいんだって思ってた。
でも、それだけじゃなかったって、今はわかるの。

あの頃は、エリオルくんやクロウさんのことも、まだ良くわかってなくて。
早く全部のカ−ドさん達をさくらカ−ドに変えてあげなくちゃって、思ってて。
でも、わたしの魔力(ちから)が足りなくて…。

ほんとうは、すごく不安だったから。

小狼くんが、いつもそばにいて助けてくれることや
『だいじょうぶだ』って、言ってくれること。
怒ったり、あきれたり、心配してくれること。

その全部が、すごくすごく、うれしくて。
うれしくって、そして。

漢字はすごく上手なのに、ひらがなが苦手っぽいところも
だいすきだなぁって、思ったの。


   * * *


小学校6年生と、それから何年か。
小狼くんは、香港から年賀状を送ってくれた。
日本みたいな年賀ハガキは売ってないから、香港の夜景のカ−ドに漢字と英語で。


  『謹賀新年
   A Happy New Year 』


わたしも、日本から小狼くんに年賀状を送ってた。
かわいい干支の絵の入ったものを選んで、お手紙の封筒の中に入れて。


  『明けまして おめでとう
   今年も よろしくお願いします』


約束を守って、小狼くんが友枝町に戻ってきてくれた後も。
日本と香港とを行ったり来たりで忙しいはずなのに、お正月には必ず年賀状が届く。
真っ白なハガキに、墨で書かれた年賀状。
小狼くん、ほんとにいつもちゃんとしてる。

だから、わたしも頑張って、毎年早めに出してるんだよ。
小狼くん、冬休みはお仕事で友枝町のお家にいないって、わかってても。
ちゃんと一日に届くように。


……でも、今年で最後だね。
わたしが小狼くんに、年賀状を出すのも。
小狼くんから、年賀状をもらうのも。

しっかりとした黒い文字を、指で追う。
小狼くん、やっぱり今でも、ひらがなは苦手っぽいね。


  『今年からも よろしくお願いします 李小狼』


来年の年賀状は、2人で出そうね。
小狼くんのお母さんとお姉さん達、苺鈴ちゃん。
わたしのお父さんとお兄ちゃん、雪兎さん、ひいおじいさん。
知世ちゃんや、観月先生、エリオルくん。
それから、それから…。
たくさんの、大切な人達に。

漢字は小狼くん、わたしはひらがなの担当で。



  『明けまして おめでとうございます
   本年も よろしくお願いいたします 李小狼・桜』




                                   − 終 −


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アニメ版第62話「さくらと不思議なおみくじ」冒頭部分を思い出しての小話。
4年生の時は、クリスマスから4月までジャンプしてましたので、捏造です。
本来なら、劇場版のエピソ−ドや苺鈴ちゃんの存在もある筈なのですが…。
話が横にそれるので省略しました。
翌年のお正月は、さくらちゃんと小狼君との連名での年賀状。
ハンパない数になりそうです。
小狼くん、手書きにこだわりそうな気がしますし。

結婚予定ネタが続いていますが、まだまだ続く計画です。

(2010.1.9 本文を一部修正しました。)