日 常



ドアを叩く音に、事務所の奥でコ−ヒ−の準備をしていた私は振り返った。

「はい…?って、ヒグチさん!?」

てっきり、さっき席を外した人が戻ってきたんだと思ったから、意外な顔に驚いてしまう。

「よっ、……こんにちわッ!お邪魔させていただきます!!」

軽く片手を上げたところで、小脇にノ−トパソコンを挟んだ体が斜め45度に傾く。
これって、既に条件反射なんだろうなぁ…。

「……こんにちわ、ヒグチさん。ソレ、まだ抜けてないんだね…。(汗)」
「あ−、桂木ィ〜。…気にしないでよ」

頭を傾けたまま、ヒグチさんは引き攣り笑いを浮かべている。
以前から事務所に遊びに行くって言ってたけど、ホントに来てくれたのは初めてだ。

警視庁情報犯罪課に所属する特例刑事のヒグチさんとは、夏に“HAL事件”で知り合った。
今日は警察関係の来客が多いなぁと思いながら、コ−ヒ−カップをもう一つ増やす。
もっとも、ヒグチさんはいつもどおり、警察の人には見えないラフな格好だ。
初めて会った時も予備校生を名乗ってたけど、19歳の彼にはその方がしっくりくる。
キョロキョロ事務所を見回してるところなんか、好奇心イッパイの男の子ってカンジ。
以前、ネウロも言ってたけど、刑事さんにも色々いるなぁ…。

「こないだ、ネットカフェで偶然会って以来ですね〜。
 今日は突然、どうしたんですか?」

ネウロやあかねちゃんが使っているパソコンを覗く背中に声を掛けると、
振り返ったヒグチさんは肩を竦めた。

「あ〜、事務所遊びに行くっつったまんまだったし?
 偶々近くを通りかかったっつ−か…。
 ……ところで、今日はネウロ居ないんだ?」

声を潜めて確認され、私も思わず声を潜めた。

「あ、はい。助手役するのが面倒臭いとか言っちゃって。
 謎の気配もないから、フラッと出かけてます。割とよくあるんですよね−。」
「へ−、そっか!!桂木も大変だなァ〜。
 ところで、おまえの事務所、外見はボロビルだけど中は案外洒落てるじゃん。
 壁紙だけアレだけどさぁ〜」

ネウロが居ないとわかったとたん、遠慮の無くなるヒグチさんに苦笑する。
よっぽどネウロが苦手なんだなぁ…。わかるけど。

最近、やっとリフォ−ムした事務所は、諸事情により壁紙は古ぼけたままだ。
そういえば、ややこしい経緯で彼はネウロの正体を知る数少ない人間なんだけど、
事務所の秘書が死体の髪の毛だという話はしていない。
幸い、あかねちゃんはネウロと一緒に出かけているし、説明すると更にややこしいことに
巻き込んじゃいそうだから、ここは笑って誤魔化しておく。

「あははは…。まあ、それは置いといて。でも、急だったんでビックリしましたよ〜。
 今度は前もって連絡してから来てくださいね。
 事件の調査で居ない時とか、来客中の時も割とあるから」

そう言うと、ヒグチさんは額に乗せたメガネを一旦下ろして、また上げた。
それを何度か繰り返した後、言いにくそうに口にする。

「……や、実を言うと、あれからどうなったのかも気になってたんだよな。
 俺にもちょっとは責任あるしさ。そんで、ちゃんと返せたの?例の借金」

誰も居ないと思っているヒグチさんの声は、特別大きくも小さくもない。
でもそれは、開いたドアの前に立つ人の耳に届くには、十分な大きさだった。

「わ、し−っし−っ!!」

慌てて遮ったけど、時既に遅し。

「借金…?」

テンションの低い独特の声が、呟くように反問する。
ぎくりと振り返ったヒグチさんの前には、くたびれたス−ツを着た男の人。
警視庁捜査一課に所属する現場刑事の笹塚さんだ。
ヒグチさんが来る少し前、携帯が鳴って事務所の外に出たんだけど、
やっと話が終わったらしい。

「わっ、笹塚さん居たの!?
 ……って、こんにちは!!お久しぶりですッ!!」

再び、きっちり45度の礼を取るヒグチさん。
笛吹さんから礼儀作法の“強制洗脳”を受けたことを知っているのか、単に無関心なのか。
笹塚さんは少しも動じず受け答える。

「ああ…、久しぶりだなヒグチ。
 弥子ちゃんに事件の話を聞きに来てんだけど、今のは…」
「ええっとぉ!すぐにコ−ヒ−淹れますから笹塚さん、座ってください!!
 ウチの事務所自慢のスペシャルブレンド、ヒグチさんも飲んでって!!
 あ、そ−いえば笹塚さん。今の携帯、お仕事の呼び出しとかじゃなかったんですかぁ〜?」

必死に誤魔化そうとしたけれど、笹塚さんに通用する筈もない。
焦る私を無表情に見下ろしながら、淡々と質問する。

「仕事っちゃあ仕事だったけど、そっちの話は後にしとく。
 ……で、借金って何?」
「そ、それはもうとっくに解決しましたんで。どうかお気遣い無く〜!!」

こっちは話を逸らすのに一生懸命なのに、ヒグチさんが口を挟んできた。

「……あれ?桂木、笹塚さんには借金のこと相談してなかったんだ?」
「いやいやいや!!誰かれ無しに相談するようなことじゃないし!?」

半日足らずの間に、初対面の女の人とヒグチさんを含めた計4人に借金の話をしたことは
心の棚の最上段に放り投げておく。
溜息を吐いた笹塚さんは、首の後ろを撫でながら言った。

「済んだ話なら、あんま言いたかね−けど。
 ……また、ヤバイことに首突っ込んだりしたワケ?」
「あ、俺もそこんトコが聞きたくてさぁ!!
 宝クジでも当てなきゃフツ−無理っしょ?5百万ってのは」

一瞬、間があって笹塚さんは更に深〜い溜息を吐いた。

「5百万、…ね」

(ヒグチさん、なんでそう余計なことばっかり〜!!
 なんか、私に恨みでもあるんですかッ!?)
(えっ、何…?俺、悪いこと言ったの?)

頭は良い癖に会話の空気を読むのが下手ならしいヒグチさんは、きょとんとしている。
ソファ−に腰を降ろした笹塚さんは、私とヒグチさんを促した。

「……弥子ちゃん、そこ座んな。ヒグチ、お前もだ」

普段、どんなにやる気が無さそうでも、有無を言わせない口調は刑事そのものだ。
なんかドラマを見てるみたい。…じゃなくて!!

「笹塚さん何ですか、その取調べ体勢はッ!?」
「ええっ、取調べって俺もかよ!?」

ヒグチさんと2人揃って騒いでも、笹塚さんは無表情に顎をしゃくるだけだ。

「悪ィけど、5百万なんて法に触れなきゃ稼げね−って。
 臓器売買か、武器麻薬の密輸か。あとは…、金持ち相手に肩たたき他とか?」

いや、薦められたけどやってね−し!!
てか笹塚さんの発想って基本、早坂さん達と同じ…?(汗)
頭を抱える私の隣で、ヒグチさんが引き攣った顔をしている。

(うッわ〜、桂木オマエ、そんなエグイ稼ぎ方して…)
(だから、違うっつ−の!!
 ヒグチさんも余計なことばっか言わないで、少しは庇うとかなんとか…!!)
(無理!俺、頭脳労働専門だもん。
 電子ドラッグ中毒の現役ボクサ−を一発で蹴り倒すような人、敵に回したくね−し!!)
(この裏切り者〜ッ!!)

「ここで素直に自白しね−と、マジで署に同行求めるよ…?」

ヒグチさんとコソコソ囁き合っている間に、笹塚さんは懐から手錠まで取り出している。
これは…、本気(マジ)だ!!
悟った私は、ついに観念した。

「……じ、実は…」


   * * *


あかねちゃんの特製ブレンドを3人分並べて、私は借金を作った理由と返済までの経緯を
かいつまんで説明した。
“HAL事件”の捜査費用を捻出するため、“うっかり”消費者金融からお金を借りたこと。
それが多重債務となって、総額5百万円にまで膨れ上がったこと。
割のいいバイトを探してさ迷う内に、ばったり出会った女の人にハンカチを貰ったこと。
それが有名ブランドのプレミアもので、5百万円で売れて事無きを得たこと。

借金の元が軍用ヘリの購入だったことや、人体実験もどきのバイトをするつもりだったこと。
そもそもの借金相手がネウロであること等は端折っているけど、とりあえず嘘は無い。

「それってさぁ、フツ−ありえなくね?」
「……まぁ、普通はそうだな」

話を聞き終えた2人の刑事さんの意見は、珍しく一致していた。
ていうか、ヒグチさん!!私達、友達じゃないんですかぁ〜!?的な目で睨んでみても、
気づかないのか気づかないフリをしているのか。
ホントにアイコンタクトが成立しない。

「初対面の相手に5百万の借金の話をする桂木も桂木だけど。
 それで1千万のハンカチをポンとくれるってのも…。その女、桂木のファンか何か?」
「さあ…?私を知ってはいたみたいですけど」

確かに、バイトの紹介を頼みに行った早坂さん達や、ある程度事情を知ってくれている
ヒグチさんならともかく、良く知らない相手に借金の話までしたなんて、常識を疑われても
仕方が無い。
言い訳するつもりじゃないけど、ホントに切羽詰ってたし!!
それに、不思議と話しやすい感じの人ではあったんだよね…。

『わがまま放題で気まぐれで、人を生死の境に追い込むのが大好き』
とかいう、某魔人みたいな御主人がいることにも親近感を覚えたけど
それは借金の話をした後だったしなぁ…。
なんかこう、初対面の気がしないっていうか。誰かを思い出しそうな…?

「ま、これ以上仕事増やしたくね−から。とりあえず信用しとく」

あっさり納得してくれた笹塚さんに、ホッと胸を撫で下ろした。
警察の立場上、違法なことしてお金稼いだんじゃないかって、疑わなきゃだもんね。
なのに、いつも私のこと信じてくれて。ホントいい人だなぁ…。

「んじゃ弥子ちゃん、事件の話を頼むわ。
 ……あとヒグチ。お前、今日非番じゃないだろ?」

本来のお仕事に戻った笹塚さんは、思い出したように隣に声を掛ける。

「え、もしかしてサボリ…!?」

指摘されても悪びれた様子も無く、ヒグチさんは軽く肩を竦めた。

「ん−、ちょっとした気分転換?
 いいじゃん、邪魔しないから。事件の話とか、俺にも聞かせてよ〜」

甘えた声を出す19歳の特例刑事さんに、31歳の現場刑事さんは淡々と言う。

「……そういや、お前が来る前に俺の携帯に掛けてきたのは笛吹だったな。
 お前を見かけたら、伝えるように言われてた。
 『午後6時までに戻らないと、貴様の仕事は3倍に増えるからな!!』
 …だったか」

時計の針は、死ぬ気で急いでギリギリ6時に警視庁に帰り着ける時間を指していた。
えっと…、これって偶然?それとも計算して…?

「げげっ、マジで−!?ソレ早く言ってよ!!んじゃな、桂木。
 またお茶しよ−ぜ。ただし、今度はオゴリは無しな!!
 ……それでは、失礼いたしますッ!!」

ノ−トパソコンを抱えたヒグチさんは、一礼するや事務所を飛び出した。

「あのッ、心配してくれてありがとう!よかったら、また遊びに来てね!!」

急いでドアまで走って声を掛けると、階段の踊り場で振り返ったヒグチさんは
部屋の中には届かない程度の声で言った。

「今度はネウロも笹塚さんも居ない時を狙うから。
 …じゃ、またなッ!」

ネウロはわかるけど…。ヒグチさん、笹塚さんも苦手だったのか。


   * * *


ヒグチさんを見送った後、ソファ−に戻って改めて頭を下げた。

「笹塚さんにも心配かけて、すみませんでした」

コ−ヒ−の最後の一口を飲み干した笹塚さんは、カップをソ−サ−に戻して
私を一瞥する。
特に怒っている様子はないけど、機嫌が良い風にも見えない。
まだ言いたいことがあるんだなって、何となくわかった。

「あんま、こんなこと言うべきじゃね−のかもしれないけど…」
「はい、借金はもうしません。……なるべく

言うのは簡単なんだけど、ネウロ次第だからなぁ…。
思いながらソファ−の上で身を縮めると、笹塚さんは首の後ろを撫でる。

「ああ、まぁ…。そもそもがそ−ね」
「?」

高校生の癖に借金なんかするな、以外に何かあるんだろうかと首を傾げていると、
笹塚さんは僅かに身を乗り出した。

「弥子ちゃんの話聞いてると、まともな大人に相談してね−だろ?
 警察(うち)の身内の人間とはいえ、ヒグチもまだ19だし。
 お母さんを心配させたくないのはわかるけど…。あぁ、そういや」

ちらりと、今は空席の“トロイ”…本来は探偵事務所の所長机になるんだろうけど…を
眺めた笹塚さんは、後を続けた。

「……助手の人にも相談してね−の?彼も年齢不詳というか、よくわからない人物だけど。
 弥子ちゃんが学校行ってる間、どっかに勤めてんじゃないの?」
「あ…、いやそのネウロは」

そもそもの原因っつ−か、借金相手だから。
…とも言えなくて、私は懸命に言葉を捜した。

「ええと、アイツは何と言うか…。
 あれでも一応、私を“先生”とか呼んで立ててくれてるし。
 それなりに期待、とかはしてくれてるみたいなんで。
 あんまり裏切りたくないっていうか、……がっかりさせたくない、みたいな?」
「ふ−ん…。ま、事務所の人間関係には口出ししないけど」

人間関係じゃなくて魔人と人間の関係なんだけど、是非そうしてください。
でないと笹塚さんの身が危ないから…!!
ネウロの犠牲者をこれ以上増やしたくなくて、心の中で切実に願ったけど
笹塚さんは思いも寄らないことを言い出した。

「困ったことがあるんなら、事件の捜査以外でも、もう少し俺を頼って来な。
 俺が“まともな大人”かどうかは置いとくとしても、弥子ちゃんには借りっぱなしだし。
 “X(サイ)”の事件の詫びも、まだちゃんと出来てね−んだから」

……えっと…。
要するに笹塚さんは、お金の問題なら自分のところに来れば良い、と言っている…?
理解したとたん、両手と首を大きく振った。

「いやいやいや、それは…!!
 まっとうに働いて慎ましく生きてる人に、お金の相談なんてトンデモないですっ!!」
「慎ましくって…。弥子ちゃん俺のこと、よっぽど貧乏人だと思ってんのな」

くたびれた雰囲気の笹塚さんに、お金持ちそうなイメ−ジが全く無いのは否定しないけど
まんま口に出すわけにはいかない。

「だって、水と塩と焼酎だけで2週間…」

入院中、お見舞い(もとい大量のお見舞い品をご馳走になり)に病院を訪ねた時、
本人から聞いた台詞を繰り返すと、笹塚さんはまた一つ溜息を吐いた。

「それは配属したての頃の話。
 俺、扶養家族いないし、酒と煙草以外にはほとんど金、使わないから。
 ほっといたら、いつの間にか勝手に通帳に貯まってんの。
 だから、5百万程度なら無利子無催促無期限で貸せる」

なんか、いかにも笹塚さんらしい貯蓄方法だなぁと思った。
しかもそれを、ポンと女子高生に貸すとか言うあたりも。
でも、根本的な問題は笹塚さんにお金があるか無いかじゃなくて。
これ以上、笹塚さんに迷惑を掛けたくないし掛ける理由が無い。
笹塚さんがどう思っていようと、私にはそうだ。
それを上手く言い表すことが出来なくて、頭の中で言葉を探った。

「……でも、今の私には将来返すアテも無いのに。
 人の好意に甘えて、自分は何もしないで問題を解決した気になるのは違うっていうか…。
 なんか、ズルイって思うんです。…気を悪くしたら、すみません」

ロ−テ−ブルに額がつくくらい頭を下げたけど、笹塚さんはまた溜息を吐いた。
親切で言ってくれてるのに、こんな生意気言われたら誰だって気分悪いよね…。
どうしようと考えながら顔を上げたとたん、笹塚さんは真顔で言った。

「まあ、俺が弥子ちゃんに金貸したら、傍目には“援助交際”疑われかねね−けどさ」
「はあ…。って、はぁッ!?」

真面目な顔して、いきなり何言い出すんだこの人は!?(////)
方向はかなり違うけど、“デリカシ−が無い”ということに関しては、ネウロといい勝負かも
しれないと、時々思う。
笹塚さんは顎を外しそうな私から目を逸らさず、後を続けた。

「それでも、“たかが金”のために犯罪者になるより、甘える方がよっぽどマシじゃね−の?
 だから少なくとも、また同じようなトラブルが起こったら、今度は相談ぐらいしに来な。
 金を貸す貸さない以前に、もっとまともな手段で解決する方法を捜せるかもしれないし。
 1人で何とかしようなんて、わざわざ可能性を狭めることもね−だろ?」

静かだけど、厳しい声だった。
私が自分で勝手に思っている以上に、笹塚さんは私のこと、心配してくれている。
いつも、私を見てくれている。
だから素直に言葉が出た。

「今度から、ちゃんと笹塚さんにも相談します…。
 ごめんなさい。…それから、ありがとうございます」

もう一度、深々と頭を下げる。
たっぷり3秒経ってから恐る恐る顔を上げると、背中を丸めた笹塚さんと目が合った。
何を考えているのかわからない、不透明な褐色が私を映している。
くすぐったいような、少し怖いような…。言葉では表現できない緊張感。

この感じ、どこかで…?
ふっと、髪の長い女の人の顔が浮かんだ。


   『可能性が残っているのならば、迷わず求めるべきだと思います』


あッ、と。息を呑んだ。

ハンカチをくれた、あの女の人。
美人だけど無表情で、何を考えているのかイマイチわからなくて。
でも、私の話を聞いてくれて、すごく親切にしてくれて…。

どうして今まで気づかなかったんだろう?
淡々とした喋り方も、ちょっとやそっとのことでは動じないところも。
笹塚さんに、似てる。


「それでかぁ〜!!」
「…………?」


思わず口に出した私を、笹塚さんが見つめている。
ほんの少しだけ、首を傾けて。

目だ…。視線。
笹塚さんと、あの女の人と。…ネウロと。
まるで違っていて、少しづつ似ている。


   『信用しとく』
   『可能性無き絶望ほど、恐ろしい事はないのだから…』
   『忘れなければ、貴様は再び進化ができる』


私が“何”に値するのか。
私が“何”になれるのか。
確かめている、目。
そう感じるのは自惚れかもしれないけど、それでも。


女子高生が名探偵で、助手が魔人で、天才ハッカ−が友達で。
5百万円の借金をして、1千万円のハンカチを知らない女の人にもらって。
低血圧でロ−テンションの刑事さんに、ちょっと可笑しなお説教をされて。

ふつうなら、ありえない日常でも。
見ててくれるって思えば、頑張れる。


「…あ、そうだ!!
 何かあったときは相談に乗ってもらう代わりに、私に出来ることがあったら
 笹塚さんも絶対、言ってくださいね!!」

事件の話の途中でふと思いついて言うと、手帳とペンを持った笹塚さんは顔を上げた。
やっぱ、今のは生意気だったかな…?
けれど笹塚さんは、いつものダルそうな声で言った。

「ん、それじゃあ早速だけど」

えっ!!もうですかッ!?
緊張する私を見る目が、ほんのちょっとだけ細くなる。


「……コ−ヒ−、もう一杯もらえる?」


   そんな、日常



                                   − 終 −


TextTop≫       ≪Top

***************************************
  2009.3.15 本文を一部修正しました。
(以下、反転にてつぶやいております。)

思った以上に「笹塚→←弥子←ヒグチ」感がありますが、カップリング前提ではありません。
「→←」ベクトルは、今のところ主として恋愛感情以外のイロイロかと。
「←」ベクトルは、これから頑張る!!…みたいな?
(私、これでもヒグチ君がかなり好きです。ヒグヤコも大好きです。)

実は、最初に思いついた二次創作ネタがコレでした。
初対面のアイさんに弥子ちゃんが借金の相談までしているのって、アイさんの冷静沈着な
(または平板ともいう)言動や雰囲気が笹塚さんに似ていたからじゃないかと…。
そして連想ゲ−ムのように、アイさんって笹塚さんの死んだ筈の妹なんじゃ…?とかまで
思ってしまったワケですが、そこは置いといて。(汗)
もしも弥子ちゃんが笹塚さんに借金の相談しに行ってたら、冗談抜きでポンと5百万出して
くれそうです。…笹塚さんに下心が無くても、傍目には本当に洒落にならない…。(笑)
もっとも弥子ちゃんは、“自分の力で稼いで返す”ことでネウロを見返そうとしていたから
お金貸してくれそうな人のところには最初から相談に行く発想が無かったようです。
弥子ちゃんのこういうところが好きだな〜とは思うものの、やっぱり心配。
もうちょっと、まともな大人を頼ろうね。
…笹塚さんが“まともな大人”かどうかは私も疑問ではありますが…。

なお、“特例刑事”君の名前表記を“筐口”にしようか“匪口”にしようか迷いましたが、
どっちにしても注釈がいるのが面倒で、結局カタカナ表記です。(正しくは竹冠に“匪”)
人気キャラに、何て二次創作泣かせな漢字を使うんですか〜。(涙)