献 立



〔じゃあ、今夜は張り切っちゃいますね!!
 何が食べたいですか〜?〕


携帯の向こうからの弾んだ問い。
煙草を左手に生返事をする。


「ん−………、別にな」
〔『何でもいい』は却下ですよ!!
 ンも−、困ってるから聞いてるのにィ!!〕


早速、機嫌を損ねてしまった。
首を傾けると、凝った関節がコキリと鳴る。
彼女が夕飯の献立に困るのは、思いつかないからではなく思いつき過ぎるからだ。
今もタイムサ−ビス直前のス−パ−の前で、買い物リストの作成に悩んでいる。
欲望に任せると食費がとんでもないことになると、十分身に染みているのだろう。
やむを得ず協力を試みた。


「………鰤の照り焼きと筑前煮、ワカメとシラスの酢の物、里芋と長葱の味噌汁…」
〔あ、いいですねぇ〜和食も。…って、いきなりソコまで具体的!?〕


今日の昼、喰った定食だ。
答えたとたん、思いっきり怒られる。


〔お昼と同じ献立食べて、ど−するんですか!?
 そんなんじゃ、栄養偏っちゃうでしょ−ッ!!〕


どれも味付けが甘すぎたり水っぽかったりで、あんまし美味くなかったし。
弥子ちゃんの料理で口直しがしたかったんだけど、仕方がない。
記憶のペ−ジを1枚繰った。


「ん−…、じゃあ……」
〔言っときますけど、昨日と一昨日のメニュ−も却下です!!〕


さすがは元・名探偵ならではの鋭い先読み。
昨日の昼飯を口にするのを中断した。
もの覚えは良い方だが、一昨々日(さきおととい)以前に喰ったものを思い出すのは
流石にめんどい。
だが、待てよ…。記憶の中から別のリストを引っ張り出した。


「………久しぶりに中華が喰いて−かな…。
 麻婆豆腐もしばらくぶりだし。青椒肉絲、春巻、あと搾菜(ザ−サイ)…」


とたん、携帯越しの声が生き生きと華やぐ。


〔中華…、いいですね−!野菜もお肉もバランスよく摂れるし!!
 それに搾菜(ザ−サイ)って、ビ−ルにも良く合うし!!〕
「…………まあ、そ−ね」


今年、20歳になった彼女とは、家で一緒に晩酌を傾けるようになった。
豪快な飲みっぷりといい、ツマミとの相性の知識といい。
かなり飲み慣れた様子が伺えるが、その辺はツッコまないでおく。


〔中華、頑張って作りますから。
 ビ−ルもグラスも冷やしとくんで、早く帰って来てくださいね−!!〕
「…………了解」


携帯を切って休憩室を出たところで、早速同僚にひやかされた。


「よぉ、笹塚!!帰るコ−ルかァ〜?
 まったく、若い嫁さんもらって羨ましいぜ、この新婚〜!!」


軽く肩を竦めて返事をすると、からかい甲斐が無いと文句を言われる。
そんなん、言われてもなぁ…。
嫁さんが若いのも可愛いのも、式を挙げて2ヶ月なのも事実だし。

一課の席に戻ると等々力が書類の束を差し出した。


「先輩!!お帰り前に申し訳ありません。
 例の、中華料理店での殺人事件の報告書です。訂正箇所のチェックをお願いします!!」
「………ん」


  グシャッ


「ギャ−!!ディ−プ・インパクトォオオ!!!」


受け取るついでに、また遊んでいる石垣の頭をジオラマに沈めてペ−ジを繰る。
……そう、ここだ。


  『麻婆豆腐、青椒肉絲、春巻、搾菜(ザ−サイ)』


それが、被害者の胃の内容物だったことは、嫁には黙秘だ。



                                   − 終 −


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(以下、反転にてつぶやいております。)

サイアイの「夕飯」を書いていたら、突発的に笹ヤコを思いつきました。
こちらはネタバレを含まない新婚パロ。
上記メニューのお食事前後の方には、すいません。(汗)

笹塚さんには若くて可愛い嫁をもらって、
『あ〜、これ以上の幸せってね−よな−』
と、日々実感するにも関わらず、更に可愛いくて出来の良い子供とか、更にその上
可愛くて出来の良い孫にまで恵まれまくった挙句、
『いやもうこれ以上、幸せになんのはムリ!!』
と、根を上げるまで幸せ責めにしてやりたいものです。ふふふのふ…。