Take everybody to the sea



風が 吹きつける
波が 押し寄せる

その中を、みんなの姿をさがして走り回る


  ねぇ、どこにいるの?


船首の上に船長さんの麦わら帽子はなくて
バ−ベルを持った剣士さんの汗まみれの背中もなくて


  みんな、どこにいるの?


雲が 暗く空を覆う
雨が たたきつける

階段と梯子を 登っては降りて
ドアというドアを 開けて回る


  ねぇ みんな どこ?


航海士さんの大事な蜜柑の木を引き抜いて
料理人さんの大事な冷蔵庫や倉庫の食料をカラッポにして

マストのてっぺんに海賊旗だけ残して
いってしまったの?


雷が 空を引き裂く
潮の流れに 振り回される

かなしくて さみしくて くやしくて
涙が こぼれた


  もう いらないんだ


いっしょに 冒険できないから
みんなの役に 立てなくなったから


  ……すてられちゃった


膝を抱えて、ひとりぽっちでうずくまる


甲板を駆け回る小さな船医さんの蹄の音も
狙撃手さんの調子っぱずれな歌声も

なんにも きこえなくて
風の音も 波の音も

どんどん とおくなって


 せかいが しんとする

  もうじき きえてしまうの


 おひさまの ひかり と あめの めぐみを
  あたえてもらえない くさばなの よう に

   だれにも かえりみられず
    だいじに して もらえなく なったもの の


     いのち は すぐに つきて しまう


   いいの それでも
    だって とっても  たのしかった  から

    それも もうじき
     うみの あわみたいに

    ぜんぶ なくなって しまう けど


 『………て』


  ……だぁれ?


 『……へ、連れて……』


  だれの こえ?
  知っている 声


 『わた……、一緒に……』


  ほら よんでるよ
    きこえるでしょう?
  聞こえるわ
   良く知っている女が、知らない誰かのように叫んでる


 “私”には、言えなかった言葉を


 『私も一緒に、海へ連れて行って…!!!』


 よんで くれたから
  みんなのところへ いける

    ぜんぶ あげる

 きしむ からだに
  のこった いのち を


海の中をゆらゆら揺れる線路を目印に
ドクロを描いた帆に 風を いっぱいに受けて
ロ−プを ピンと 張って

たくさんの声が 背中を押してくれるから
今までで一番の“最高速度”だって だせる


 『少々古い型ですが、これは私がデザインしました船で。
  カーヴェル造り三角帆使用の船尾中央舵方式キャラヴェル
  “ゴ−イング・メリ−号”でございます』
 『お土産話、楽しみに待ってますね』
 『『『キャプテン…、いってらっしゃい!!!』』』

 『この悪ガキ−ッ!!いつでも帰ってこいコラァ!!』
 『お前ら、感謝してるぞォ!!!』
 『わが妹ながらやってくれるわ…。楽しくやれよっ!!』

 『さァ行けェ!!!ゲギャギャギャギャギャギャ!!!』
 『まっすぐ進め!!!ガバババババババババ!!!』

 『行っといで、バカ息子…』

 『この国の恩人達を鐘の音で送れ−!!』
 『青海まで無事に帰れよ−!!!』
 『ありがとう−!!!』
 『またね−!!!』



 その中に、カルガモと一緒に海岸で手を振る
 空色の、髪



 『いつか、また会えたら!!もう一度、仲間と呼んでくれますか!!?』


声の ぜんぶが風になる
麦わら帽子を被ったドクロが 笑う

嵐の夜を追い越して 闇を抜けて
お日様が照らす場所へ


炎と煙と 大きな鉄の船と
砲弾の雨だって すり抜けて

みんなを よぼう


 ねぇ、みんな!!
 きたよ みんなの ところへ
 帰ろう 冒険の海へ…!!!



船長さんが 剣士さんが 航海士さんが
  狙撃手さんが 料理人さんが 船医さんが
    …考古学者さんが


泣きながら 笑いながら よぶ


もう一人の“仲間”を

  ずっとずっと、待っていた…と


   * * *


「クェエエ…ッ」

カル−の声で、目が覚めた。
辺りはまだ真っ暗で、起きるには早すぎる。

ベッドの足元で丸くなったカルガモは、トボケた顔でボリボリとクチバシの下を掻いているところだ。
イガラムは文句を言うけれど、落ち着かない夜はカル−と一緒に眠るのが私の癖になっていた。

溜息を吐いて寝返りをうつと、頬に触れる枕カバ−がぐっしょり濡れている。
慌ててベッドの中で半身を起こし、寝巻きの袖で顔を拭った。

……夢でボロ泣きするなんて、子どもみたい。

そう思うのだけれど、涙腺がおかしくなったみたいに止まらない。
おまけに鼻水まで出てきて、私はやむなくベッドを降りた。
鼻紙を使い、水差しの水で湿らせたタオルで顔を拭く。
起きた時、あんまり酷い顔をしていると、またテラコッタさんに心配をかけてしまう。
腫れぼったい瞼にタオルを押し当てた。

それにしても、なんて奇妙な夢…。
引っ繰り返した枕に頭を乗せて、思う。

夢の中で、私は何故だか“ゴ−イング・メリ−号”…あの懐かしい羊頭の海賊船…になっていて。
やっぱり何故だか、船には誰もいなくて。
私はみんなを捜して、追いかけて…。

…それから?

思い出そうとしても、夜明けの霧のように一瞬ごとにぼやけて、わからなくなってしまう。
夢って、そういうものだ。

残っているのは切なくて苦しくて…、それでいて幸せな気持ちと
夢の中で、繰り返した言葉。

誰も居ない部屋で、それでも唇に指先を押し当てて。
そっと、呟く。


「……帰ろう…、海へ」


青味を帯びた闇に吸い込まれる語尾。
選ばなかった憧れが、焼けて尖った石礫のように
咽喉から胸の奥へと転がり落ちる。

この国に残って、皆と行かなかったことを後悔なんかしていない。
…なのに、また一滴、涙が頬を伝った。

「クエエェ…」

ベッドの足元で、またカル−が寝呆けて鳴いた。
まるで、私の声に答えるみたいに。

……ねぇ、カル−。
もしかして貴方も、海の夢を見ているの…?

柔らかな羽根をそっと撫でると、海の香りがしたように思った。



   その日の午後、世界政府に加盟する170を超える全ての国に
   “司法島エニエス・ロビ−消滅”の報が入った。



                                     − 終 −


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発売日(25日)に読んだ直後に浮かんだイメージでしたが、週末までメモすらとる暇もなく、
金曜夜の帰宅後から今までかかってこんな感じになりました。
メリ−の“声”が“仲間”にだけ届くものならば、姫とカル−に届いててもいいじゃんよ〜!?
…と、思ったのが動機の全て。

次号を読んだ後ではUpできなくなりそうなので、書きっぱなしの状態ですが思い切って。
今後の展開次第で大幅修正の可能性も有です。

(2005.11.19一部修正)