泉にいると、どこかからカイさんの声が聞こえてきた。
「あ、こんなところにいたんすか?だんな様が呼んでますよ!」
「……行かないって言ってきて。」
もううんざりよ。父さんの説教には。なんで踊り子になりたい事がいけないのよ。
「あの、なんでだんな様とケンカしてらっしゃるんですか?」
「……カイさんには関係ないわ。」
「あ…す、すいません。」
シュンとうなだれるカイさん。
…なんとなく罪悪感が芽生えた気がして、私はランに愚痴りに行こうと山を後にした。……しようとした。
「きゃあっ!!」
うかつだった。私としたことが、雪で足を滑らして、あげく真冬の川に落ちそうになってるなんて!
落ちる……っ!だ、誰か……
「おじょうさんっっ!大丈夫ですかっ!?今っ引き上げますからっ!」
泉のほうからカイさんがやってきて、必死で地面の草にしがみついている私の手を掴み、
すごい力であっという間に持ち上げた。
「はあっはあっ……だ、だいじょうぶ…っすか?」
「うん、平気。」
カイさんのおかげで……。
…頼りない、なんて思って、悪かったかしら……。
「間に合ってよかったっす!」
カイさんはそう言ってにっこり笑った。そのとき――。
「あ―――。」
雪が降ってきた。今年の初雪。
「ぎゃああっ!」
「!?カイさんっ!?どうした…」
「なななななんかっ変な物がっつっ冷たっ!おっおお嬢さん!危ないっす!」
ゆ……雪に…驚いて、悲鳴を…あげている?
「ぷっ…。あはははっ!!」
「お、お嬢さん?」
「あーはっは!大丈夫、これは雪って言って、寒い冬に降る雨みたいなもの!
きゃはははっぎっぎゃあって……く、くるし―っ!!」
私はお腹が痛くなるくらい笑ってしまった。こんなに笑ったのって久しぶりかも。
「ふうっ。あー笑った。……じゃあ、うちに帰ろうか、カイ!」
父さんに反抗していた気持ちも、ランに愚痴ろうとしていた事も、さっきの悲鳴が強烈で、全部どこかへいってしまった。
カイは、一瞬びっくりした顔をして、それからうれしそうな顔になって、
「はいっ!」
そう、言った。
カレンさんに思いっきり笑われてちょっと傷ついたっす。」
「だからごめんって。――あのね、あのときが始まりだったんだ。――私の、カイへの恋は。」
カイは少し赤くなって、それからボソッと‘自分もっす…'と言ったのが聞こえた。
「ねえ、もうすぐ雪降るかな。」
「ああ、もうだいぶ寒くなってきましたもんねぇ。」
「どっちが先かなぁ。」
「同じ日かもしれませんね。」
そう言ってカイは、かなり大きくなってきた私のお腹をなでた。
「あ、動いた……。」
〜END〜
前半短いね……気に入ってもらえたらうれしいです。
ちなみに、どっちが先だろうというセリフは、子供が産まれるのと今年の初雪が降るのと
どっちだろうって意味です。はい。「始めて雪を見たとき大騒ぎしたら、お嬢さんに大笑いされた」という
エピソードは、ゲーム中でカイと仲良くなったら雪の日に話しかけたとき言ってくれますw
「カレンおじょうさん?どこですかー?」
「―――自分、雪を見たのあのときが生まれて初めてだったんっすよ。
あとがきっす!