「んーっ!」
ピートは外に出るなり、気持ちよさそうに大きくのびをした。
「いやあ、今日もいい天気だな!」
春の月10日。
表情や言葉とは裏腹に、ピートの後ろにはまるで雨雲のような黒いオーラがあった。
「まったく、むかつく位の快晴だな、くそう!人が失恋したって言うのにさ!」
昨日、春の月9日。
ピートがこの町――花の芽町に来て以来ずっと片思いをしていたエリィと、恋敵ジェフの結婚式が行われた。
去年の春に、ケーキをご馳走してもらったお礼に、花をプレゼントした。
夏には海で一緒に釣りをし、釣った魚をよくその場で彼女にあげた。
秋、彼女の誕生日に、初めて釣れた大魚をプレゼントした。
冬には卵やミルクを頻繁にエリィの元へ持っていった。
だが、ピートの想いまでは届けることが出来なかった。
「…………だー、くそ!仕事だ、仕事!」
涙が出そうになたのを遮るかのように大声で叫び、牛小屋へ向かうピート。
と、そこに。
「ピート君!」
呼ばれたのに気付いたピートが振り返ると、牧場の入り口にポプリが立っていた。
「ポプリちゃん。」
ポプリの元へ駆け寄るピート。
「お、おはようピート君。」
「おはよう。どうしたんだ?こんな朝早くに。珍しいじゃん。」
ピートが尋ねると、ポプリは少しばかり頬を赤くして、おずおずと持っていた包みを彼に差し出した。
「あの、これママに教わって作ったの。上手く出来たから、差し入れ。疲れたら食べてね。」
「へえ。」
笑顔で受け取るピート。半透明の袋の中には、春らしく苺ののったプチケーキが入っている。
「おいしそうじゃん。ありがとな。」
ポプリは彼のその様子を見て、ぱあっと明るい笑顔になった。
「じゃあ、これ冷蔵庫にしまってこないと。」
「あ、じゃああたしはこれで。」
ポプリは帰りかけたが、ピートは一瞬考えて、
「あ、ちょっと待って!」
彼女を呼び止めた。
「お礼にさ、うちのミルクあげるよ。10分ぐらい待っててくれる?」
「……うん!」
ピートは急いで冷蔵庫にケーキをしまい、走って牛小屋へミルクを絞りに行った。
そして、彼のそんな様子を、ポプリは優しい表情で眺めていた。
ピートにとっての”本当の春”は、すぐそこまで来ている。