気になる子がいる。
去年からずっと。
俺、クリフがこの花の芽町で暮らし始めて1年が経つ。
色々あったけど友達も出来たし、ここの暮らしにはまあまあ満足している。
「おーい、クリフ!」
「よう、ピート。」
こいつがその友達、牧場主のピート。
「なあクリフ、こんな所で何しているんだ?」
「え?」
「グリーン牧場に用事でもあんの?」
そう。
俺たち二人が今いるのは、町外れにあるグリーン牧場の入り口。
ちなみにここはピートの牧場とは別物だ。
「あ、いや。馬を見ていたんだ。」
その辺にいた黒い馬を指差す。
俺は基本的に動物は好きな方だ。嘘はついていない。
俺がそう言うと、何故かピートはニヤニヤし出した。
嫌な予感がする。
「…馬だけか?見ているのは。」
ああ、やっぱり。
情けない事に、俺は去年からたびたびこのネタでこいつにからかわれている。
「……馬だけじゃないさ。」
「よしよし、お前だいぶ素直になったなあ〜。」
ピートが言った。
何故か俺はこいつにはかなわない。
ちらっとグリーン牧場の家畜小屋付近を見る。
とても楽しそうに動物に接している彼女が見えた。
「……クリフってさ。顔はいいのにヘタレだよなあ。」
「は?」
ヘタレって何だ、ヘタレって。
「だって結構長いだろ、ランちゃんのこと好きになって。なのに遠くから見てるだけって、完璧ヘタレじゃないか。」
……くそ、事実だ。言い返せない。
「そうそう、今年もあるぞ。花祭り。」
う。苦い思い出だな…。
去年の事。
俺は彼女の女神姿が見たくて、花祭りの女神様投票とやらに彼女の名前を書いた。
結果、彼女の女神姿を見る事は出来たが、その代わり祭りで彼女と踊れなかった。
ガキくさいかもしれないが、やはりああいうイベントでは好きな子と踊りたい。
「…い、おーい。人の話聞いてんのか?」
ピートの言葉ではっと我に帰った。
「だからさ、今年こそランちゃんをダンスに誘えよ。女神様は2年連続同じ子はなれないって決まりがあるんだってさ。」
「え、そうなのか?」
「ああ、バジルさんから聞いたから確かだぞ。」
「…そうか。」
もう一度彼女がいた方を見たが、家畜小屋に入ったのかそこにはいなかった。
今年は誰にも投票せずに花祭り当日を迎えた。
従姉妹のカレンが今年の女神らしい。
俺は広場に着くなり彼女の姿を探した。
「おい、ピート。彼女がいないぞ。」
彼女の姿が見えない事に不安を感じ、近くにいたピートに聞いた。
「え?女の子達は今奥でカレンの着付けしてんじゃないの?」
「………あ、そうか。」
忘れてたが、そういや去年もそうだった。
柄にもなく慌てた自分が恥ずかしい。
「そんなに慌てなくっても、ダンスの時間はまだまだじゃないか。」
ピートに笑われ、顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「わあっ、カレンお姉ちゃんキレイ!」
子供の声が聞こえた。
扉の方を見ると女の子達が奥から出て来る所だった。
とたんにわあっと広場が盛り上がる。
「ほら、誘ってこいよ。」
ピートが小突いて来る。
俺は彼女の方へ歩き出した。
大丈夫、去年とは違う。
……あれ、ちょっと待て。
確かに去年とは違うが、だからといって彼女が俺と踊りたいと思ってくれていなかったら、結局踊れないんじゃないのか?
……ああ、急に不安になってきた。
彼女は俺の誘いを受けてくれるのか?
「あ、クリフ。」
彼女が俺に気付いた。
……大丈夫、去年だって言えた。勇気を出せ。
受け入れられなくても、言うだけ言ってみろ、俺。
「……踊らないか?一緒に。」
言った。彼女の反応が怖いが、じっと彼女を見る。
彼女は優しい笑顔で、
「うん、いいよ。踊ろう。」
と、言ってくれた。
「去年は踊れなかったもんね。」
「……ああ。」
今年は去年とは違う。
今日以外の日も、きっと去年とは違う日になる。
2のクリフって、女の子を名前で呼ばなさそう。