忍術学園には三年に一回、低学年全員にある課題が出される。
三年に一回――つまり生徒全員が一回ずつする事になるその課題の名は。
作法委員の一年生、綾部喜八郎が観察対象に選んだのは。
「え、私?」
同じ作法委員の二年生、。
彼女自身も上級生を観察しなければならない立場なので、観察される立場にもなるとは思っていなかった。
「自分より上級生なら誰でもいいんですから、問題ありませんよね?」
「理屈ではそうだけど……やっぱり五年生や六年生を観察する方が勉強にはなると思うよ?」
が観察するのは、五年くの一教室に在籍する彼女の上の姉。
一年生から三年生のほとんどは彼女のように、忍術に長けた五・六年生を観察する。
だが、喜八郎はがそうアドバイスをしても、「いえ、先輩がいいんです。」の一点張り。
やめて、と強く言えるわけもなく、結局は喜八郎の好きにさせる事にした。
数日後食堂にての双子の兄、は明らかに不機嫌な様子で隣にいるに声をかけた。
「後ろにいるヤツ、作法委員の後輩だよな? 確か。」
「う、うん」
「あのさあ、メシ食ってる所後ろからじっと見られたら落ちつかねーんだけど、マジで!」
は振り返り、味噌汁をすすりながらをじっと見ている喜八郎に文句をつける。
「あ、ご心配なく。先輩のことはこれっぽっちも見つめてないです。」
「やかましいわっ!」
喜八郎は真面目に答えているが、無意識に口が悪いので当然のようにの怒りを買う。
「ちょ、ちょっと。二人とも落ち着いてよ。」
昼休みの食堂は当然生徒であふれかえっており、その内何人かは達三人に注目している。
「、行こう!」
茶碗に残っていたご飯を掻っ込み、は席を立った。
「先輩、また後ほどー。」
喜八郎は苛立つをまるきり無視し、呑気に沢庵をかじりながら手を振っていた…。
作法委員会中、必要以上にの近くでを見ながら作業をしている喜八郎に、三年生の立花仙蔵は怪訝な顔をする。
「先輩を観察中なんです〜。」
邪魔しないでください、と喜八郎は頬を膨らませる。
「……いや、邪魔とかではなく。」
「観察方法おかしいだろ、普通に考えて。」
同じく作法委員の三年生であるの従兄弟も横から口を挟む。
「じっと見ていないと観察出来ません。」
「忍者として相手を観察する練習も兼ねているんだぞ、そんな方法では観察と言えないだろ。」
「悪いこと言わねーから、観察方法改めろ? お前のためにものためにも。」
喜八郎のあまりにも堂々とした観察姿はすでに学園内でちょっとした噂になっており、に同情する声も少なくない。
「先輩のため……。」
「ねえ、綾部君。」
黙って成り行きを見守っていたの姉(やはり作法委員、ちなみには彼女を観察中である)が口を開いた。
「そもそもさ、どうしてを観察しようと思ったの? 2年生が観察対象に向いていない事くらいは分かるわよね。」
それはごく必然的に発生した疑問で、なぜは自分でそれを思い付かなかったのだろうか。
「なぜって………。」
作法室の全員が喜八郎の次の言葉を待つ。
「…よくわかりません。」
「はあ?」
無表情から放たれたその言葉に、思わず変な声が出た。
「よくわかんないですけど、気になるんです。先輩のこと。」
だから観察してたら何か分かるかなって。独り言のようにそう呟きながら、喜八郎の目はすでに手元の観察日誌。
手が動いているのは、今もの様子を記録しているのだろう。
「…なあに、それ。訳わかんないよ……。」
“気になる”という言葉に過剰反応しそうになり、必死で感情を抑える。
傍らでは上級生たちが何に勘付いたのか、“ああ、可愛いなあ”と言いたげな温かいまなざしを送っていた……。
「先輩、観察させて頂きます。」
「……なあ。」
「喜八郎……お前何をしているんだ?」
長編ではどシリアスってる二人なので、平和な恋人未満(いや、片思い未満?)っぷりを書くのは新鮮でした。
それにしても綾部との関係性って昔から変わらんのね。(書いてるのは私w)