青い、空の下で。〜円香編〜

1年生、秋。1

1年生、秋。

「わあ、もう真っ暗。」

11月ともなると、やっぱり部活が終わる時間は大分空が暗くなっている。

大変だったコンクールは県大会まではいけたけど、そのもう一つ上、関東大会までは及ばなかった。

「夜は結構冷えるねーやっぱり。」

「本当ね。」

じゃあね、って手を振って、校門のところでリコと別れる。

今日は文化部にとっての一大イベント、文化発表会があった。


「円香、おつかれー!」

「かっこよかったよぉ〜。」

「ほんとほんと!すごかったぁ。」

「流石よね、尊敬する。」

本番の演奏が終わって、とりあえず簡単に片付けをした後体育館の外へ出るといつものメンバー、

美月とやちる、なっつんにひーちゃんの4人がそこにいて口々に感想をくれた。

「ありがとう。」

やっぱりこうやって、自分達の演奏でみんなが喜んでくれるのは嬉しい。

「あ、お疲れ、円香ちゃん。」

「周防兄さん。」

みんなのすぐ近くに、美月の一番下のお兄さん、周防兄さんもいた。

周防兄さんも演奏、聴いてくれてたんだ。

「ありがとう、周防兄さん。」


周防兄さんは夏休みの一件以来、なんだか前より私のことを気にかけてくれている気がする。

子どもの頃から優しかったけど、例えばマンションや学校であったときは絶対挨拶以外に

「最近は部活、大丈夫?」

って聞いてきたり、放課後会ったら、

「俺、円香ちゃんのこと応援してる!頑張れ!」

って、励ましてくれたり。

今日だって聴いていてくれたし、終わったあと声をかけてくれた。


「あ、周防兄さん。ただいま。」

「お、おかえりー。」

マンションの玄関で周防兄さんに会った。

「どこか行くの?」

私服着てるから、今学校帰りじゃないわよね。

「あ、いや……。」

どうしたのかしら?何か、歯切れの悪い返事……。

「円香ちゃん。」

「何?」

「……俺、円香ちゃんのことを待ってたんだ。」

え?

「私を?こんな寒い所じゃなくて、上で待てばいいのに。」

どうせ、家隣なんだし。

「あ、いや……。」

周防兄さんは、私から目線をそらしてなんだかもごもご言ってる。

様子がおかしい……何かあったのかしら?

「私に用事?周防兄さん。」

「あ、うん……お、俺さ。」

「う、うん。」

さっきまでもごもご言ってたのに、急に真っすぐ目を見てきたからちょっとびっくりした。

「俺、円香ちゃんのこと好きみたい。」

……え?

―――思考停止。……今、何て?

好きって、友だちとか家族とか、そういう意味の“好き”じゃないほうの?

「えっと、それが言いたかったんだ。返事はいつでもいいから!」

それだけ早口で言うと、周防兄さんはバタバタと階段を駆け上がっていった。

告白されてから早1週間。

私はまだ、周防兄さんに返事していない。

学校やマンションでばったり会ったらどうしよう?って考えたけど、最近全然会わない。

(美月が陸上部の大会と委員会の行事が重なって忙しいんだと教えてくれた。)

だから、ゆっくり考えられるはずなんだけど……。

「円香ぁ〜っ。」

「きゃっ!」

朝っぱらから助走付きで抱きついてきたのはやちる。

「おはよ〜、円香も朝練〜?」

「うん。」

「一緒に行こ〜! 」


「ねえ円香、もう周防兄さんに返事したの〜?」

「え。」

思わずギクッとする。顔には出てないと思うけど……

「あ〜、まだなんだぁ。」

……出てた。

「何で〜?」

「何でって…。」

考えがまとまってないのに答えられないわよ。

周防兄さんが真剣に言ってくれたんだから、私も真剣に考えないと。

「円香は考えすぎちゃうところがあるからなぁ〜。」

え?

「考えすぎって……私が?」

やちるはこっくり頷く。

「だって、こういうことは真剣に考えないと。だから別に考えすぎなんかじゃないわよ…。」

「そうかなぁ、もっとリラックスして考えたら〜?だって、周防兄さん円香が返事ぐずぐずしてたら不安になっちゃうよ〜?」

「え?」

「マンガとかでよくあるじゃん、“告白したのに彼は何も言ってくれない、断られたってことかしら”みたいなの〜。」

…確かにそういうシーンどこかで見た気がするけど、周防兄さんは“いつでもいい”って言ってたし……。

「とにかく、もっとシンプルに考えたらいいと思うな〜。」


って、やちるは言ったけど……。

「円香ちゃん、次理科室だよ。そろそろ行かないと。」

「あ、そっか。今日実験だったわね。」

ひーちゃんと一緒に教室を出る。

「円香ちゃん、告白の返事はもうしたの?」

ひーちゃんまで……。

「まだよ……あ。」

前の方を歩いている後ろ姿……周防兄さんだわ。

隣にいる女子はクラスメート?

「あ、周防お兄さんと神崎先輩だ。」

ひーちゃんが言った。

「……知り合い?」

「保健委員会の先輩。周防お兄さんと同じクラスなんだよ。」

そういや周防兄さん保健委員だったっけ。

…何話してるのかしら。楽しそう。

あ、周防兄さん笑ってる。

……仲良さそう。

「気になるの?あの二人が。」

ひーちゃんが聞いてきた。

「べ、別にそんなこと……。」

「ないの?」

……ないって断言できない。


あれから、ふと周防兄さんのことを考えたり、

陸上部がグラウンドを走ってるのを見たときに思わず周防兄さんを探している自分がいたりする。

……今までそんなことなかったのに、何で?

「気になってるってことでしょ。いい加減認めたら?」

私の心の声が聞こえたかのような突っ込みをいれたのは、たまたまうちのクラスに来ていたなっつん。

「なっつん、今何て?」

「円香は周防お兄さんのことを好きになりかけているんじゃないの?」

「え。す、す好きだなんて……。」

はっきり言われて、思わずどもる。

「ま、別にあんたがどんな結論出しても、それで後悔しないんならいいけど。」

……なっつんて同い年なのにすごく大人びた発言するのよね、昔から。


学校からの帰り道、やちる達の言ったことが次々と頭に浮かんでくる。

シンプルに……後悔しない結論……

「あ。」

よく知ってる声が聞こえた。

「あ…。」

振り向いたら、やっぱり周防兄さん。

「円香ちゃんも今帰りなんだ。」

「うん。」

お互い“一緒に帰ろう”とは言わないけど、隣に並んで歩く。

「保健委員会疲れた〜!」

「お疲れ様。でも、何でそんなにしょっちゅう委員会があるの?」

私は学級委員をしているけど委員会は月に1、2回しかしていないし、

他の委員会もそこまで忙しいって聞いた覚えはないんだけど。

「ほら、もうすぐ冬じゃん。風邪の季節。インフルエンザも最近薬とか怖いってニュースでやってるし、予防強化を呼びかけようって取り組みなんだ。」

「そうなの。」

その後も勉強や部活の話……つまりは日常会話をしながら歩く。

…告白の返事、どうしよう。

……もし、私が断って、将来周防兄さんが別の誰かと付き合ったら?

もうこんな風に一緒にいられないの?

「嫌……。」

「え?」

周防兄さんがこっちを見た。私、立ち止まる。

「私、考えたの。すごく。だけど、やちるには考えすぎって言われた。」

第三者が聞いても何のことかさっぱりだろうけど、周防兄さんは分かったみたい。

「だけど、今ふっと“もし、周防兄さんと一緒にいられなくなったら”って考えて、それは嫌だって思ったのよ。
これは“好き”ってことかしら。」

思ったことを全部言ったら、何だか顔が熱くなるのを感じた。

周防兄さんも赤い顔をしている。

「それは…告白の返事はOKだととらえていいのかな?」

こくんと一回頷く。

周防兄さんを見ると、顔はまだ赤いけど、いつもの笑顔になっていた。

「いっぱい悩ませちゃってごめんね。でも、一生懸命考えてくれてありがとう。」


そんなわけで、付き合うことになった私たち。

中1で男女交際って早い?とも思ったけど……まあ、いいかな。


今までどこにも出てこなかったけど、数年前設定です。

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