青い、空の下で。

前編  後編


前編

『ほら、見て、美月。空が青いでしょう。

こんな風に空が綺麗な色をしている日って、なんか素敵なことが起こりそうな気がしない?』

大好きなお姉ちゃんの口癖。青い空が大好きだったお姉ちゃん。保育園の行き帰りによく2人で空を見上げたっけ。

お父さんもお母さんもあたしが物心付いたころにはお互い会社ですごく重要なポストについていて、今でも家に帰れない日が多いくらい忙しい。

そんなわけで、12歳年上の葉月お姉ちゃんは三人目の親って感じ。あたしやお兄ちゃん達の面倒見てくれたし、家事もいっぱいして、いつも忙しそうだった。

だからあたしも足手まといにならないよう、小さいころからけっこう頑張ったつもり。

お姉ちゃんとすー兄(兄。青山周防、13歳)とあたしの3人で協力して家事とかやってさ。でも…

――沖縄。東京から2〜3時間飛行機に乗ってないとたどり着けない、南の島。

今年の春、空が綺麗な日に、お姉ちゃんはそこへお嫁に行った。

それからが悲惨。すー兄は家事手伝ってくれてるけど。

でもすー兄も部活(陸上部)入ってるし中学生だからテストもあるし、今では家事のほとんどあたしがやってるんだ。

すー兄はいいの。時間があるときはご飯の支度とかかわってくれるし。

問題は、お姉ちゃんとすー兄の間の、2人の兄!

今高3のまい兄(青山舞人)と、高1のあき兄(青山秋羅)。

2人とも昔っから全然手伝ってくんないんだ。お姉ちゃんが怒ったときに、しぶしぶやるって感じ。

なぜかあたしが怒っても、お姉ちゃんみたいな効果は出ない……。


「おはよーっ! 円香、やちる!」

あたし学校大好き! 家で休めない分思いっきり羽伸ばしてるんだ。友達もいっぱいいるし。

特にこの2人、八城円香と鈴本やちるは産まれたときから同じマンションの近所の部屋に住んでる幼なじみ。

保育園も同じところに通ってた1番の親友なんだ! 今も3人同じクラスだし毎日一緒なの。

「お、……おはよう、美月。」

「ねえ、なんで昨日あたしの委員会終わるの待っててくれなかったの?」教室をのぞいたら誰もいなくて、ちょっと寂しかった。

いつも一緒に帰っているのに、昨日委員会が終わった後

「〜〜あ〜っ、…ごめ〜ん。ひーちゃんに放課後ちょっといい?って呼ばれちゃって〜。」

「なーんだ。ね、円香。後で算数のプリント写させてもらっていい?」

…………?どうしたんだろ。円香、下向いて黙っちゃった……?

「美月〜。」

「え、何?やちる」

「先月貸したマンガ〜。まだかな〜。次なっつんに貸す約束してんの〜。」

「あ、ごめん。まだ読んでないや。もうちょっと待ってってなっつんに言「美月!」

突然円香があたしの言葉をさえぎった。…なんか怒った顔してる…?

「あたし、もうあんたにつきあってらんない。絶交!」

「あたしも。美月とは絶交する!」

…………………え?……何?

「ちょ、ちょっと何?やだなーそーゆー冗談。」

パシッ

そう言いながら伸ばした手を円香がはたいた。

そして、二人は言ってしまった。

「な……んで………?」

なんでいきなりそんなこと言われなきゃいけないの?

後編

「―え?」

「「絶交?」」

「って言われちゃって…。」

「それで今日様子がおかしかったのかー。」

あたしが今話してる相手は友達のなっつんこと夏目芹子と、ひーちゃんこと高槻ひな。

この二人は小1のとき同じクラスで席が近かった事がきっかけで友達になって、今では円香&やちるの次に仲良しなんだ。

だから、今朝起こった事を放課後二人に相談してみようと思って、今言ったところ。

「そっか…理由は?」

「え?」

「絶交された理由。」

「それがわかんないんだぁ……。」

「ま、たぶんあんたに原因があるんだろーね。」

「な、なっつん、それちょっとキツイ…。」

「何、なんか間違ってる?」

「だ、だから、そんな風に言う事ないよ。美月ちゃん今傷ついてるんだし…。」

「ひなは甘いのよ!どーせ、円香たちが美月のどっかヤなとこに嫌気が指したってとこじゃないの?」

「うっ…なっつんそこまで言う事ないじゃん〜…。」

「泣くなっ!いい?美月は、円香とやちるが特に理由もなくあんたと絶交するやつらだって思ってんの!?」

「え……。」

「そんなやつらじゃないでしょ?生まれたときからの付き合いのあんたが、一番よく分かってるはずよね。」

「うん…。」

「美月だっていい奴だけどさ、自分で気付かないヤなとこがあるかもしんないじゃん?だから話してみなよ。二人とさ。」

そう言ってくれたなっつんの声は穏やかで、顔ももう怒ってなかった。

「……うん。」


「円香、やちる!」

次の日、勇気を出して二人に声をかけた。無視。また声をかけた。また無視。

二人の前にまわって手を広げて通せんぼ。あたしたちの通学路は道が狭いのでこうしたら通れなくなっちゃうんだ。

「…何?」

「あのさ、絶交の理由、教えて?」

「なんで〜?」

「…っふ、二人とずっと友達でいたいから。あたしに悪いとこがあったら、がんばって直すようにするから!!」

「……美月がね、毎日宿題見せてって言いにくるのが嫌だったんだ。なんか美月だけ楽してる気がして…。」

「あ、あたしもね、そのぉ、貸した本とかマンガ、2ヶ月も3ヶ月もそのままにされるのが嫌だったのぉ〜…ご、ごめんね〜…。」

「あたしも、ごめん。美月。」

「あ、あたしも、ごめんね。全然気付かなくて…。今までずっと二人に迷惑かけてたんだね、ごめんね。」

「で、でもあたしたちもぉ、理由とか全然言わないでイキナリ絶交っていっちゃってごめん〜、う、うえええ〜…」

「や、やだやちる、泣かないでよぉ、う、わあぁん!」

「な、何で二人とも泣く、う、あああんっ!」


結局、あたしたち3人はその後もしばらく泣き続けて、学校遅刻しちゃった。

親しき中にも礼儀ありって言葉があるけど、まさにその通りなんだ。

二人とも、ありがとう。言ってくれなかったらあたしきっと気付かなかった。

もうすぐ小学校卒業するけど…中学行っても、高校行っても、その先も、ずっと親友でいようね!

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