「もうこんな時期か……。」
ティノは“ある仕事”の相棒であるトナカイに餌をやりながら呟いた。
「ヴェー、もうすぐクリスマスだね〜。」
「準備しとるん?」
「もちろんだよ!」
「俺も新作ケーキのデザインに取りかかるぞ!」
毎度おなじみ、某国国会会議場。
今日は年内最後の世界会議で、これが終わればクリスマスに新年と、各国それぞれの楽しいイベントが待っている。
フェリシアーノやアルフレッドなどの若い面々が浮かれるのも無理はない。
「また忙しくなります。頑張らないと!」
口を開いたのはこの時期だけ兼業になるティノ。
「そっか、サンタさんは頑張りどころだよね〜。」
「はい!」
彼の表情や口調には大変さが表れてなく、その仕事を楽しんでいることがよく分かる。
「あ、そうそうリクエストしないと! あのね〜、俺のほしいのは……。」
「ストップ! 言わなくても大丈夫ですよ、全部リサーチ済みです!」
笑顔でブイサインをするティノに、フェリシアーノ達からおおーっと歓声があがった。
「さすがだね!」
「楽しみにしていてくださいね。」
「日本〜、日本はクリスマスどうするの?」
「クリスマスですか……修羅場なので引きこもります。」
「えっ!?」
会議が終わってからも各国は年末年始の話題で持ちきりになっている。
「いいなぁ……サンタさんってすごく楽しそうです!」
「ちゃん。」
ティノの顔がより一層ほころんだ。
「ソリに乗って空を飛び、世界中に夢を与える……素敵です〜。」
「へへ、ありがとう。ちゃんにもプレゼント用意しているから、楽しみにしていてね。」
「はい!」
「……あ、そーだ! 僕いいこと思い付いた!」
「サンタの仕事を手伝いたい?」
「はい、菊にぃに。ティノ君が誘ってくれたんです。」
ティノの思い付いた“いいこと”とはそれのこと。
ここ数十年世界の人口は増え続け、サンタの仕事も一人でするのが難しくなっている。
なので、ティノは前々から誰かに手伝ってもらいたかったらしい。
「で、私なら人間じゃないし寒さに強いし、って言ってくれたのです。」
「そうですか……。」
菊としてはあまり余所の男と夜に二人で過ごしてほしくはないがティノは少なくともむやみにに手を出したりはしないだろうし、
何よりがこんなにも行きたがっている。確かにサンタの仕事を手伝う機会なんて普通は無い。
「まあ、いいでしょう。その代わり他の日は私の原稿手伝ってくださいね。」
「やったぁ! ありがとうです、菊にぃに!」
(まあ、私からのクリスマスプレゼント……ということにしましょう。)
そして、クリスマスイブ当日――。
「ティノ君、こんばんは!」
「ちゃんいらっしゃい……わあ、さすがだね。」
「はい、気合いを入れてきました!」
“さすがの気合い”とはの服装――サンタの衣装のことを差している。
「でも、寒くない?」
スタイリングバイ本田菊のそれは、所謂萌え系ミニスカサンタ。
もノリノリでそれを着たあたりが何というか似た者義兄妹である。
「全然大丈夫ですよ。」
「そっか。じゃあ出発しよう!」
ソリをトナカイにセットし(がキラキラした眼差しで見つめた)、二人が乗るとすぐに動き出した。
「ひゃっ。」
「落ちないよう気を付けて、どっかその辺持ってて!」
「は、はいっ!」
上昇中はソリが斜めで揺れや風も強く、は落ちないよう手すりをぎゅっと持つだけで精一杯だったが。
「ちゃん、もう大丈夫だよ。目開けてみて!」
「は、はい。」
ティノの楽しそうな声がしたので、恐る恐る目を開けたら。
「……わぁ!!」
ヨーロッパの高い山々が遥か下に、市街地のイルミネーションはきらきらと星のように見える。
アルプス、オーロラ、大西洋……ヨーロッパ全体が見渡せる高さを、二人は今飛んでいる。
「うわぁ、すごいすごいすっごいです! 綺麗! 高い!」
「でしょ? 毎年見てても飽きないんだ。」
「本当ですね……。」
「さあ、まずは僕んちの近所から配っていくよ。」
ティノはそう言い、北欧方面へソリを動かした。
「起こさないようにそーっとね、そーっと。」
「はい。」
すでにぐっすりと夢の中のピーター。
「、メリークリス……な、なんだよその格好!」
「サンタさんです……どこかおかしいですか?」
「だっ……誰もそんな事言ってないだろ! その……に、似合っ…………」
「イギリスさん、はい。プレゼントどうぞ。」
「……いたのか、フィンランド……。」
クリスマスなのに微妙に報われないアーサー。
「サディさん、こんばんは!」
「おう、嬢ちゃん! 寒いのにご苦労なこった! スープでも飲んでいけよ。ほら、フィンランドも。」
「わあ、ありがとうございますトルコさん。」
サンタだろうが何だろうがヘラクレスじゃない限りもてなすサディク。
「ちゃん!!」
「エリザさん、お久しぶりです!」
「サンタコス……なんて可愛いの! 最高のクリスマスプレゼントだわ!」
「あ、いえハンガリーさんのプレゼントはこっち……。」
「あらフィンランド君。フィンランド君もとっても可愛い! ちょっとそこに二人並んで、写真撮らせて頂戴!」
「は、はい。」
可愛い男の子+大好きな(しかもサンタ)の組み合わせに萌えまくりのエリザベータ。
「! なんて格好してるあるか! 寒いのにこんな足を出したら凍えてしまうあるよ!」
「耀にぃに、大丈夫ですよ。私の体そんな柔じゃないのです。クリスマスってことで、大目に見てください。」
「う〜……なら、肉まん食って温まるよろし! ほら、フィンランドも。あまり遅くなるんじゃねーあるよ!」
「ありがとうございます、耀にぃに!」
に関しては時に菊以上に過保護な耀。
「じゃあまた、カナダさん。よいクリスマスを!」
「二人ともありがとう!」
マシューの家が終わると、ほぼ世界一周。
二人は再びヨーロッパ上空からフィンランドへと戻った。
「ちゃん、お疲れ様。今日はありがとう。」
「こちらこそありがとうございました、とっても楽しかったです!」
「そっか、よかった。これ、ちゃんの分だよ。」
そう言ってティノは最後に残った小さな包みをに手渡した。
「帰ったら開けてみて。」
「ありがとうございます! 私もあるんですよ、ティノ君へのプレゼント!」
「え?」
ティノは驚いた。まさか自分がプレゼントをもらう側になるとは思っていなかった。
「ティノ君はサンタさんですから普段はプレゼントをあげる側ですけど、今日は私もサンタさんですから。」
「ちゃん……。」
確かに自分はプレゼントをもらうよりあげる機会の方が遥かに多い。
そんな事情を予想し、プレゼントを用意してくれたの気持ちが彼には一番のクリスマスプレゼント。
「ありがとう、ちゃん。最高のクリスマスだよ!」
を日本まで送った後そうっと包みを開けたら、中身は花たまご型リサイクルカイロ。
「へへ、暖かいや。」
手元だけでなく、心もぽかぽかと暖かくなった。
ティノ→へのプレゼントは小さめのアクセサリーか何かかも。