――歌声……?
どこから聞こえて来るのでしょうか。
世界会議の休憩時間、たまたま庭に出ていたローデリヒの耳にかすかに入ってきた歌声。
ゆったりとしたテンポの優しい曲に穏やかな声がよく合っていて、聞いていてとても心地いい。
(一体誰が……。)
誘われるようにローデリヒは歌声のする方へ歩みを進めた。
なんという名前の歌なのか、この声の持ち主は誰なのか。
――………!
それは絵画のような光景だった。
美しい自然の真ん中に座り歌を歌っているのは、美しい民族衣装を身に纏っている少女。
彼女の歌に惹かれたのか、動物達が周りに集まって大人しく彼女を見つめている。
その少女は特に親しい程でもないが会えば世間話位はする間柄。だが、それにもかかわらず彼は声をかけられずにいた。
がローデリヒに気付いたのは、一曲まるまる歌い終わったその瞬間。
「ふわっ! ローデさん、いつからそこにいらっしゃったのですか?」
「あ、ああ……。」
に驚かれたことでローデリヒもはっと正気に戻った。
「そうですね……最初のサビ部分の辺りからでしょうか。」
「そ、そうですか……いきなりいらっしゃったのでびっくりしました〜。」
そう言って照れたように笑う彼女にローデリヒは思わず「すみません。」と言った。
「休憩時間もう終わりですか?」
ローデリヒが自分を呼びに来たんだと思ったのだろう。
「いや、まだ大丈夫ですよ。……ところで、先程歌っていたのは何という曲なのですか?」
「さっきのですか? 私の好きなアニメの曲で、forフルー○バスケットっていうんです。」
「アニメ……ですか?」
ローデリヒにはにわかに信じがたかった。
もちろん彼の家でも日本のアニメは放映されていてなかなかの人気があり、彼自身もそれらを目にした事はある。
だが正義のヒーローやヒロインが悪者を倒したり便利なロボットや変な動物が出て来たり、どうも彼には“子供向けの騒がしい番組”というイメージしか持てない。
「意外そうですね?」
ローデリヒの思っていることが伝わってしまったのか、が言った。
「……ええ、正直。」
例えば菊ならこんな時「いえ、そんな……」と誤魔化すが、ローデリヒは正直に言うタイプのようだ。
「どうもアニメ番組は子供向けという気がしまして。」
「さっきの歌はアニメっぽく無いですか?」
「ええ。」
おっとりしているが元来気は強いローデリヒ。
恐らく相手がでなかったら、喧嘩になっているだろう。
「ね、ローデさん。もう一回歌うので、聞いててください。」
そう言っては再び歌い出した。
ほとんど日本語なので歌詞の意味は分からないが、やはり穏やかな曲調が心地いい。
が歌い終わったとき、彼は自然と手を叩いていた。
「この歌は“今日が辛くても、明日を信じる”っていう想いが込められているんです。アニメそのものも、とても素敵なお話なんですよ。」
は言葉を続ける。
「面白くて楽しかったり、萌えるアニメもいっぱいあります。でもそれだけじゃなくて、大事なメッセージが込められていたり、感動したり泣いたり。アニメって、とっても奥が深いんですよ。クラシック音楽だって色々なものがあるでしょう? 同じだと思います。」
ローデリヒははっとした。
確かに自分の愛する音楽にだって穏やかなものや激しいもの、長調に単調と“音楽”という言葉だけではくくりきれないほど様々なものがある。
そして、それら一つ一つにそれぞれの良さがある。
ローデリヒは自分の中の偏見に気が付いた。本来、優れていない文化など存在しないのに。
「……私が間違っていたようですね。」
「……ローデさん、よかったら今度アニメのDVDお貸ししましょうか。」
「ええ、是非。」
「ん? 日本のアニメか……お前にしては珍しいものを見ているな。」
後日。が貸したDVDを見ているローデリヒにルートヴィッヒが声をかけた。
「ええ、まあ。が貸してくださったのですよ。」
「が?」
「ええ……奥が深いものですね、アニメというのは。」
――それに、彼女自身も。
リクエストの貴族夢でした! には国のみんなを癒してあげてほしいなあ……