「にーさまのアホー!」
「お前には言われたくないんだぜ!」
「にーさまなんか嫌いですー! キムチの幽霊に食べられてしまいなさーい!」
「なっ……あ、ちょっと待つんだぜー!」
兄・韓国こと勇洙の止める声も聞かず、妹の済州ことは走り去った。
「にーさまのアホ。大アホ。」
「……で? 今日の喧嘩の原因は何なの?」
「チェ・○ウとペ・ヨン○ュンのどっちが国民に人気か……。」
「下らなっ!」
「下らなくなんてないです!」
「はいはい……。」
この兄妹の喧嘩はそんなに珍しくない。しかも大抵、「キムチはどう食べるのが一番か」「何色のチマチョゴリが一番美しいか」
……など、理由は至極どうでもいい。
「まったく、飽きないわよね……。」
そのたびにから愚痴を聞かされる台湾はすっかり呆れかえっている。
「……わたしだって、好きで喧嘩するわけじゃないです。にーさまが悪いんですよ!」
「はいはい、分かったからもう一度話してきなさいよ。」
そのほぼ同時刻、兄のほう。
「と喧嘩したんだぜ! だからお前に謝罪と賠償を要求するんだぜー!」
「待ってください勇洙さん。私全く関係ないです、それ。」
「菊が俺とん家の隣にいるからなんだぜ!」
――ああ、頭が痛い。出来ることなら私だってハワイさん家辺りに引っ越ししたいんですよ。
運悪く仕事で韓国を訪れていた本田菊。見事にとばっちりをくらった。
「大体、お前はいつもいつも無礼なんだぜ!」
「そっくりそのままお返しします、その言葉。」
自慢の八ツ橋どこへやら。それだけ菊は嫌気がさしていた。
「……はは、お困りのようだな? 本田!」
そのときやたらと嬉しそうな声がした。菊と勇洙が振り向くと――。
「呼ばれて飛び出てやったぞ! べ、別にお前のためじゃないんだからな!」
「呼んでません!」
「呼んでないんだぜ!」
ブリタニアエンジェルとなったアーサーへの菊と勇洙の突っ込みは同時だった。
「何だよ、その反応! もうちょっと歓迎してくれてもいいだろ、ばかぁ!」
「アーサーさん、何しにいらっしゃったんですか?」
泣き出しそうなアーサーを見、仕方なしに菊は尋ねた。
「もちろん、奇跡を起こすためだ!」
アーサーはそう叫び、杖を取り出した。
勇洙は訳が分からずにいたが、菊は面倒くさくなることを予想し、「申し訳ありません、急用が!」と叫び、逃げた。
「ほあた!!」
だが、菊が逃げるのを確認する前にアーサーの魔法は既に放たれており。
「……まんちぇー?」
勇洙が幼児化した。
「……これならそんなにウザくないだろ、本田……あれ、いねぇ。」
「あ、あーちゃー! なにちてくえたんらぜ! しゃらいとばいちょをよーきゅするんらえ!」
「……あー、悪い、何言ってんのか全然分かんねえ。」
勇洙は必死に抗議するが、舌が上手く回らず、言いたい事を伝えられない。
「まあ、安心しろ。時間が経てば勝手に戻るからさ。」
「むしぇきにんられ……もとにもろすほーほーくやいしっとけなんらじぇ。」
勇洙がすっかり呆れかえったそのとき、どこからか「にーさまー……」と声が聞こえてきた。
「あっ! あのこえは!」
「知り合いか?」
「なんらじぇ! やわいんらじぇ、こんなすあたみらえたらはじゅかちんらじぇ!」
「はあ?」
にこの姿を見られる訳には、と勇洙は逃げようとするが、何しろ小さいのでよちよちとしか歩けない。そうこうしているうちに。
「にーさま?」
ついにに見つかった。万事休す! と身構えたが。
「あれ? 違った。すいませんでした。」
は全く気付かなかった。
「あ、いや。任ならこの……痛てっ!」
「あーちゃー、よけーなことゆーならぜ。」
「……え? わ、分かった。」
今の言葉はアーサーも理解出来たらしい。
「あれ? この子……。」
がちび勇洙に気付き、勇洙は再びピンチかと身構える。
「わあ、この子にーさまの小さい頃みたいです。顔も服もそっくり!」
そっくりも何も張本人だが、抱き上げて間近で見てもまだ気付かない。
「にーさま? お前、任の妹なのか?」
「はい。私は済州特別自治道、任と申します。」
「済州……ああ、あの島か。俺はイギリス、アーサー・カークランドだ。」
「カークランドさん……あの、この子供はうちの国民ですよね。迷子か何かでしょうか……。」
「いや、少し預かっているんだ。お前の兄から。」
「なっ!? あ、あーちゃー!?」
「彼女お前を探しているんだろ? ここにいるのに、無闇に探させるのは悪いじゃねえか。」
「だからおれはこのすあたを……もう、どーれもいいんらぜ……。」
度重なるハプニングで投げやりになったのか、勇洙は抗議をやめた。
「にーさまから……? じゃあ、にーさまはここに来るんですか?」
「おう、しばらく待ってろよ。それとも急ぎなのか? なら代わりに聞いておくが……。」
「あ、いえ。ちょっと喧嘩しちゃったんで、謝りたいんです。だから直接じゃないと。」
「そか。」
「……あの、にーさまはわたしの事何か言ってました?」
「いや? そういえば少しイライラしていたが……そんなに酷い喧嘩だったのか?」
まあ座れ、とアーサーは自分も座っているベンチにハンカチを敷いた。こういった事をさっと出来るあたりがさすが紳士と言うべきか。
「……ひどいというか……喧嘩自体は普段からよくしているんです。」
勇洙も流されるままアーサーの膝に座り、の話をやや緊張しながら聞いている。
「私、ある程度の自治権持っているからかにーさまと意見が合わない事って結構あって。
そのくせ自分の主張を通したがる性格は似ているから、よくぶつかるんです。」
「なる程な……。」
「でも、喧嘩し過ぎてにーさまに愛想尽かされたらどうしようって、不安になって。さっきなんて勢いとはいえ嫌いって言っちゃいましたし…。」
「そうか……それで謝りたいんだな。」
が頷いた。
「大丈夫、任……お前の兄貴はすぐ戻って来るさ。そしたら今言った事言って、謝ればいい。
心配しなくてもお前が兄貴を好きな限り、向こうもお前を嫌わないさ。」
「……なんで分かるんですか?」
「……俺も兄貴だからな。」
「………っ、―――」
それまてはただ黙っての話を聞いていた勇洙が口を開きかけたその時――
「あ。」
「えっ。」
「に、にーさま!?」
勇洙の姿が元に戻った。(アーサーから“ぐえっ”と声がした。)
「も……元に戻ったんだぜ……。」
本来勇洙は喜ぶべきなのだが、急だったためかぽかんとしている。
「え、な、何故にーさまが!?」
事情が全く分からないはただ混乱するばかり。
「あ〜……それはだな。ちょっと訳があって。それより、お前兄貴に言いたい事があるんだろ。」
「はっ、はい。あのにーさま、さっきはごめんなさい!」
「……俺も悪かったんだぜ。チェ・○ウもペ・ヨン○ュンも両方韓国のスターだから、順位はどうでもいいんだぜ。」
「あはは、そですね!」
「……おい、お前ら喧嘩の原因ってまさか……。」
「、久々に俺ん家に寄ってけだぜ。仲直り記念に兄妹水入らずでキムチパーティーだぜ!」
「はい!」
アーサーの存在をすっかり忘れて二人は仲良く去ろうとしたが。
「あ、そうだ! アーサーさん!」
が勇洙に何かを言って、呆気にとられているアーサーの元まで戻ってきた。
「おう、どうした?」
「あの、今日は話聞いていただいてありがとうございました。」
「いや、俺対して役にたたなかったぞ。」
苦笑するアーサーに、は首を横に振る。
「話聞いていただけただけでも、すごい心強かったんです。」
「そうか。まあ、仲直りできて良かったよな。」
「はい。あの、アーサーさんは私の家に来たことありますか?」
「いや、ちらっと立ち寄ったことはあるかもしれないが……。」
「今度ぜひゆっくり来てください。自然が豊かでいいところなんですよ。今回のお礼に、精一杯おもてなしします!」
そう言ったの笑顔はあまり勇洙とは似ておらず、心が落ち着く。
「そうだな。今やってる仕事が片付いたら是非行かせてもらう。」
「お待ちしてますね! じゃあ、また!」
「おう、またな。」
リクエストの「勇洙妹アーサー夢」でした……が、こんなんで良かったのかなぁ…