「ヴェェェェェ〜〜ぐすっ、ヴェェェェェ〜〜〜。」
「うるせえよ、いい加減泣き止めバカ弟!」
「だって、だって、ヴェェェェェ〜。」
フェリシアーノがこんなに泣いているのは、決して苛められたからではない。
話は2時間ほど前に遡る。
「日本、ー。いらっしゃーい!」
「……よく来たな。」
「フェリさん、ロヴィさん! お久しぶりです!」
大きな荷物を持った菊とを、フェリシアーノとロヴィーノの兄弟がイタリアの空港で出迎える。
「どうも、お世話になります。」
「もー、日本は相変わらず硬いなー。」
「ほら、バッグ貸せ。」
「あ、ありがとうございます、ロヴィさん。」
菊とフェリシアーノが共同で仕事をする事になった。
場所がイタリアなので、菊はを連れて兄弟の家に泊めてもらい、せっかくなので仕事がない日はのんびり観光しよう、という話になった。
「じゃ、俺たちん家にレッツゴー!」
仕事は明後日なので、この日は家でのんびりし、明日は北イタリア観光――のはずだった。
「イタリア君、電話鳴ってますよ。」
「あれ、本当だ。チャオ、どちら様ですかー?」
普段の調子で電話に出たフェリシアーノ。だが、みるみるその表情が曇っていく。
「……うん……え〜! ………だって…ヴェー……。」
「イタリア君?」
「フェリさん? 何かあったのですか?」
5分たらずで一気にしょんぼりしたフェリシアーノを菊とは心配する。
「日本〜。例の仕事ね、明日に変更だって……。」
「おや……えらく急ですね。」
「明日は四人で遊ぶ予定だったのに〜……。」
そして、話は冒頭に戻る。
「フェリさん、泣き止んでください。明日と明後日の予定が入れ替わっただけなんですから。」
「でも、明日は必要最低限のメンバーしか行っちゃダメなんだ。明後日だったら兄ちゃんもも行けたのに……。」
「それは残念ですけど、きっとまた機会がありますよ。」
菊とが根気強くフェリシアーノを慰めたので、彼も大分落ち着きを取り戻してきた。
「……じゃあ、明日どうするの? うちで待ってる?」
「どうしましょう……。」
「……そうだ。こういうのはどうですか?」
そして、次の日。
「ロヴィさん、お待たせしました!」
「いや、大丈夫だ。じゃあ、俺たちは先に行くぞ。」
「行ってらっしゃーい。兄ちゃん、! また晩ご飯のときにねー。」
「はい、行ってきます!」
は今日1日、ロヴィーノと南イタリア観光を楽しむ事になった。
菊たちの仕事が夜には終わるので、待ち合わせてロヴィーノお薦めのレストランで夕食をとる。
「どこか行きたい所はあんのか?」
「あっ、はい! 青の洞窟って今行けますよね? それとやっぱりナポリも行ってみたいです! あ、あと……」
「なんだ、多いな。1日でまわれるか分かんねえぞ?」
「だって、私南イタリアって初めてなんですよ。」
子供のようにはしゃぐを見て、ロヴィーノはふっと笑った。
「そうか。なら一番行きたいところから順に回ってくぞ。」
男に対してはツンツンしているロヴィーノも、イタリア男なだけあって女性には優しい。ましてや相手がなら尚更。
「うわぁ、すごいです! 本当に綺麗!」
カメラのシャッターをカシャカシャとひっきりなしに切りながら、は美しい風景に感動している。
「おい、撮影もいいが周りには気を付けろよ。日本と違って、うちは治安がそんなに良くないんだ。」
観光地としての評判は高いが、その一方でスリやぼったくり、ひったくりなどの被害も多い。
(ん……?)
いつの間にか自分から離れているを見ている二人の男に気が付いた。
「……おい、日本人だ。」
「ボケッとしているからいいカモだな。」
根性の悪い笑い声が誰の事を話しているのかは考えなくても分かる。
「おい、!」
二人組が動き出すよりも先にロヴィーノは駆け寄り、さりげなくと二人組の間に入った。
「写真もいいけど、カバンはしっかり持ってろ。」
「はっ、はい!」
「大分撮ったな……次行くか?」
「そうですね、じゃあ次はこの……。」
さりげなくを守りつつ、二人組から遠ざかる。
(ざまあみろ、俺だってやるときはやるんだよ。)
「ロヴィさん、あのお店見てもいいですか?」
が指差したのは、イタリア人女性に人気の雑貨屋。
「おう、入ってみるか。」
店内にはカップルや女性の友人グループの他、恋人へのプレゼントを選んでいる様子の若い男性もちらほらといる。
――だが、まさか“奴”がここにいると誰が予想出来ただろうか。
「おや、ちゃん発見。お兄さん、今すっごく運命感じてる。」
「フランさん! お久しぶりです。本当、びっくりですね。」
「げっ!」
ロヴィーノの顔が一瞬にして青ざめた。
なぜ一番格好いい姿を見せたいといるときに、一番嫌いな奴と出会うのか。
足が震える。頬が引きつる。今すぐ逃げ出したくなる。
「ちゃん、せっかくこんな所で出会えたんだし、二人っきりでお茶でもどうだい?出来ればお茶だけじゃなく、その後も二人っきりでゆっくり優雅に過ごしたいなあ。」
「あ、いえ私は……。」
「少し歩くけど、オシャレなカフェがあるんだよ。」
フランシスはロヴィーノなどこの場にいないかのように半ば強引に話を進める。
「お、おい…。」
フェリシアーノやルートヴィッヒが相手の時みたいに強気になれない。
(……しっかりしろ、イタリア・ロマーノ! 女を優先させてこそイタリア男だろ!)
「おい、フランス! は今日1日俺と過ごすんだよ、おとといきやがれワイン野郎!」
早口にそれだけ言うとロヴィーノはの手を取り、ぽかんとしているフランシスを尻目に急いで店を出て逃げた。
「、兄ちゃーん! こっちこっち!」
「菊にぃに、フェリさん。お仕事お疲れ様ですっ。」
「、会いたかったよ〜。」
ロヴィーノの携帯にフェリシアーノから連絡が来たのは、丁度フランシスから逃げ切った直後。
お互いの現在地から同じくらいの近さの公園で待ち合わせをした。
「、楽しかったですか?」
「はい、とっても!」
菊に笑顔で今日の話をするを見るロヴィーノの表情は柔らかい。
その表情は弟のフェリシアーノも普段はほとんど見ることがないくらい、珍しいもの。
「兄ちゃんも楽しかったんだね。」
「……ああ、えらい目にもあったけどな。」
「いいな〜、俺もと2人っきりでデートした〜い。今度はさ、俺と、兄ちゃんと日本で別れて楽しむってのはどう?」
「嫌なこった。」
リクエストのロヴィ夢でした! ネタ考え付くのが珍しく早かったです。