今日は久しぶりの世界会議。
普段会う機会のない国同士が休憩時間に談笑する姿が見られる。
「えーと…あ、いた!」
もっとも、このセーシェルが探している相手は国ではないが。
「っちー!」
「セーちゃん!」
「わーい、久しぶりっす! 会いたかったっすー!」
「はい、本当にお久しぶりです!」
とセーシェルは会議以外では年に数回程度しか会わないにも関わらず、かなり仲がいい。
ぎゅっとハグし合う二人を見て、周りの男性陣は“羨ましい!”と心で叫んだ。
「とセーシェルちゃん、相変わらず仲良いわね〜。」
「湾ちゃん。」
「台湾さん。」
「もちろん、私だって仲良いけどねっ。」
「はい〜っ。」
今度は台湾が男性陣から羨ましがられる番だった。
「…そういえば聞いたこと無い気がするけど、どんなきっかけで仲良くなったの?」
の淹れた緑茶を飲みながら三人はガールズトークに花を咲かせる。
「あー、それはですねー。」
――独立して、世界会議出れるようにはなったけど……。
数十年前、初めて世界会議に出席した日。
始まる前からセーシェルの緊張は最高潮に達していた。
(だって知らない人ばっかりだしみんな堂々としてるし、なんか眉毛がこっち睨んでるし……。)
周りの国と自分をどうしても比べてしまい、不安が更に高まる。
自分は本当にこの場にいてもいいのか、資格があるのか。
「あれ、セーシェルってばどこ行くの? もうすぐ始まるぞ。」
「フランスさん……ち、ちょっとトイレ行ってくるっす。」
逃げるようにセーシェルは会議室を後にした。
「はあ〜っ……。」
誰もいない廊下のソファーに座ったセーシェル。
(……どうしよう。)
アフリカのメンバーは他にいない。知り合いはアーサーとフランシスだけ。
他の国に挨拶をするたびほんの一瞬だが、「こんな国いたっけ?」という顔をされる。
「……もおやだ………。」
カークランド傘下時代は独立を果たせばそれで“メデタシメデタシ”、全てうまくいくと信じていた。
だが実際の自分はこんなにもちっぽけで情けない。
「…あの……。」
いつの間にか泣き出していたセーシェルは、遠慮がちに発せられる声に最初は気付かなかった。
「あの、大丈夫ですか? お身体の具合でも……。」
ぱっと顔を上げれば、自分の方を心配そうに見ている少女。
外見や服装からアジアの人だろう、と予想出来る。
「あ、ごめんなさい。あのこれ、よかったら使ってください。」
泣いているところを見てしまい、申し訳ないと思ったのかもしれない。
彼女はハンカチを差し出し、去ろうとした。
「ま、待って!」
思わず引き止める。なぜそうしたのか、セーシェル自身も分からない。
「え、えっと……。」
「……私でよかったら、お話聞かせてくださいますか?」
彼女はセーシェルの隣にそっと腰掛けた。
「私、っていいます。」
「あ……私はセーシェルです。インド洋に浮かぶ小さい島で、独立したばっかです。」
「そうなのですか、おめでとうございます!」
「ど……どうも。」
「あまり嬉しそうじゃないですね?」
の黒い、大きな瞳がセーシェルをじっと見つめる。
「……私にひとつの国として国際社会に出る資格、あるのかなって。誰も知らないような小さな島だし、皆さんみたいに堂々と出来ないし……。」
「セーシェルさん……知られていないのも引け目を感じるのも、しょうがないです。まだ独立したばっかりなんでしょう? 誰だって最初はそうです。」
言いながら、は育ての親で義兄のような存在の国、本田菊を思い浮かべる。
「私のにぃにだって、最初はそんな感じでしたよ? 家で散々愚痴ってたのです。」
「そうなんすか……あの、その国って今はどうしてるんですか?」
「もちろん、今も元気に国やってます! 失敗も多くしましたが、自分の得意分野で世界と渡り合えるようになりました。」
「得意分野……。」
「ええ。セーシェルさんのお家はどんな国なのですか?」
「私の国……。」
何もない国。小さい島。それでもやはり、いいところがある。
「私の家、魚がすっごい美味しいっす……それに、海が綺麗。自然なら、他の国には負けねーっす!」
自分のよさを改めて確認出来、セーシェルに笑顔が戻った。
「わあ、ぜひ見に行ってみたいです。」
「うん、来てください! さん。」
「なる程ね〜。そういえばって昔からそうよね。ぽやぽや〜っとしてるようで、時々すごくいい事言ってくれるの。」
「本当っすよね〜。国とは違うから、一歩下がって見れるのかも。」
「えへへ、そうですか?」
「あ。ここにいたのね、セーシェルちゃん。」
「ハンガリーさん?」
「あー、エリザさんこんにちは!」
「ちゃん、台湾ちゃんも。いいなあ、みんなでお茶してたの?」
エリザベータはふふっと微笑み、台湾の隣に腰掛けた。はすぐに彼女の分の緑茶を用意し始める。
「ハンガリーさん、私になんか用事っすか?」
「そうそう。今度うちの観光会社がね、セーシェルちゃんのお家に行くツアーを計画しているの。だからいろいろおすすめとか聞きたいなって。」
「えーっ、本当っすか?」
「そうそう。うちの家って海無いでしょう。だから南国の島なんて、すごく憧れなのよ。」
「そういうことならこのセーシェル、全力でご協力いたします!」
「よかったですね、セーちゃん。」
「うん!」
何も無いと思っていても、コンプレックスでも、他人からしたらうらやましいものかもしれない。
最初は信じられなくても、いつかきっとそれが自分の自信へとつながる――。
セーちゃんかいててすごく楽しかったです。
お互いの呼び方が変わったり敬語を使わなくなったのは、セーちゃんの回想からもう少しあとのことだと思います。