「日本、それとロシアさん。」
「はい。」
「島に関する話をするからこちらに来るようにと、ロシアさんの上司が。」
「うん、分かった〜。」
「お三方はしばらくお待ちください。、お相手を頼む。」
「は、はい。」
「承知しました。」
イヴァンが昨日から菊との仕事の為、バルト三国の三人を連れて日本に来ている。
ついさっきまで互いの上司同士が話していたのでも含めた全員別室で茶を飲んでいたが、お呼びがかかった。
「じゃあねぇ、ちゃん。早く帰って来れるよう、日本君をじーっと見つめるから待っててね。」
「怖いことを言わないでください! ていうか、話し合いで解決しましょうよ!」
「あはは〜。」
「い、いってらっしゃい…です。」
笑顔で“無言の圧力”発言。
さすがのも心の中で菊の健闘を祈ることしか出来なかった。
「日本さん、大丈夫かなぁ。」
「ロシアさん、今はそんなに機嫌悪くないですし…何とかなるんじゃないですか?」
一方、一時的でもイヴァンから離れられたからか、バルト三国のトーリスやエドァルドは表情から安堵が感じられる。
「……ライくん? 大丈夫ですか?」
は部屋の隅で倒れているライヴィスにおそるおそる声をかけた。
「うう……ロシアさん怖かったです……また伸ばされるかと……。」
ライヴィスはどうやらまたもや失言を言ってしまったらしい。
(伸ばされる……?)
「ラトビアは素直に言い過ぎなんだよ。いつもいつも。ちゃんや日本さんがリョクチャでロシアさんの気を逸らしてくれなかったらきっとまだロシアさんの機嫌は悪かったよ。」
「うう………。」
(どうしましょう、この状況。)
なんとかライヴィスを元気づけられないかとは考える。
ふと時計に目をやると、そろそろ三時になろうとしていた。
「そうだ! 私ホットケーキ焼きます! 四人で食べましょう?」
「ホットケーキ?」
一体どこからホットケーキの話になったのか。バルト三人はきょとんとする。
「おやつどきですし、お腹も減ってきていませんか?」
「そういえば……。」
「ここの給湯室にはフライパンもホットケーキミックスもありますし、何よりこの間マシューさんからもらった“幸せになれるメイプルシロップ”がまだ余っています。」
「ああ…確かプロイセンさんがブログで紹介していましたっけ。」
善は急げと言わんばかりに、はすぐに給湯室へ行き、準備を始めた。
「何か手伝うことある?」
トーリスが声をかけたが、は首を横に振る。
「大丈夫なのです。座って待っていてください。」
手伝ってもらうほどのものでもないし、そもそも客に手伝ってもらう訳にいかない。
トーリスもそれに気付いたらしく、「分かった。」とすぐに部屋へ戻った。
「わあ、いい匂いしてきたね。」
「お腹減ってきました……。」
ほどなくして給湯室からは食欲をそそる匂いがただよってきた。
さっきまでイヴァンに怯えうずくまっていたライヴィスも今は大分落ち着いている。
「お待たせしました〜。」
おぼんにふっくらと美味しそうな4つのホットケーキを乗せ、が入ってきた。
「ありがとう、ちゃん。」
「わあ、おいしそうです。」
「持ちますよ、さん。」
「ありがとうございます、エドくん。」
エドァルドがおぼんからお皿をささっとテーブルに置いた。
キツネ色のホットケーキにはメイプルシロップがたっぷりかかっている。
「お紅茶も淹れてきましたよ。」
「ハーブティーだね。いい香り。」
小さな部屋があっという間にメイプルシロップや紅茶の甘い香りに包まれた。
「いただきまーす!」
四人一緒に手を合わせて言い、一口食べる。
「おいしい!」
「すごくおいしいです!」
「本当ですか? よかった。」
にこにこと心からの笑顔をに向けるバルト三人。
普段イヴァンに向ける怯えたような引きつった笑顔とは全然違っている。
「んー、おいしい。ちゃんが作ったやつをちゃんと一緒に食べるから、余計においしいや。」
「へ、トーくん?」
「それは言えてますね。」
「え、エドくん?」
「さんはいいお嫁さんになりますね。」
「ライくんまで! そそそそんなに誉めないでくださいよ…。」
これも幸せになれるメイプルシロップの効果だろうか。
フェリシアーノかフランシスにでも影響されたのかと思ってしまうような三人のセリフに、はただ顔を赤らめるだけだった。
(可愛いなあ、この人は。)
(恥ずかしいです………。)
よくよく考えたらタイトル詐欺ですね、この話。マシュー夢と誤解しそうだ。