時は室町末期、戦乱の世――

「こんにちは、日本。」

「……こんにちは。」

とうとう来たか、と日本は思った。


家族

「日本さーん!」

日本は自分の家の庭園で遊ぶ少女に手を振り返した。

物騒な毎日に疲れた彼にとって、つかの間の平和な時間。

、転ばないように気を付けて。呼太郎もね。」

「はい、母上。」

「はーい、かかさま!」

家の中には日本の他にの両親と姉、上の兄、祖父母がいる。

「羅那ねぇねと久太郎にぃには遊ばないですかー?」

「私達はいいですよ、こちらでお話してるので、は呼太郎と遊んでいてください。」

「はーい。」

が下の兄の呼太郎と共に再び遊び始めたのを確認し、彼女の祖父が口を開いた。

「日本殿…ワシらが今日何を言いに来たか、あなたなら分かるでしょう。」

「……ええ。」

一見普通の人間にしか見えないこの隣人一家。しかし、実は妖怪の一家である。

妖怪といっても人を喰うとかそういった類のものではなく、人に害を与えずひっそりと暮らしている。

しかし、他の妖怪がここ数年、関東一円で人を喰うなど暴れ、人間の反感を買っている。

そのため名うての巫女や陰陽師が、“妖怪どもの絶滅”を目指し、決起した。

対象となる“妖怪ども”の中には、達のような無害な妖怪も含まれている。

「申し訳ありません、私にもっと力があれば……。」

民衆の妖怪に対する怒りは、すでに取り返しのつかない状況になっていた。

「日本殿が責任を感じる事ではない。ワシらの運命じゃ。」

「私たちはこの運命を受け入れます……ですが。」

母親は庭で遊んでいるを見た。

「あの子は……だけはまだ小さくて妖怪としての力が出ていません。力がなければ、陰陽師たちに感づかれない。私たちから離れていれば、あの子だけは殺されずにすむ。」

「矛盾しているようですが、私たちはだけでも守りたいのです。」

「日本殿、あなたは私たちと同じ人ならざるもので、今まで私たちにとてもよくしてくれた。」

「勝手な願いではありますが、あなたにのことを頼みたいのです。」

全員が日本に向かって頭を下げた。

「…頭を上げてください。あなた方との為私に出来る事なら、喜んでしますよ。」

「日本殿……。」

「ありがとうございます……。」


には、みんなに用事が出来たため今日からしばらく一人で日本の家に泊まることになったと伝えられた。

「いってらっしゃいです!」

「行ってきます。」

「……じゃあね、。」

「元気にしていて下さい。日本殿に迷惑をかけてはいけませんよ。」

家族は笑顔で手を降った。

それが最後だった。


「お家にかえります。」

?」

次の日の夜、そろそろ寝ようかという時間にいきなりが言った。

「どうしたんですか、いきなり……。皆さんまだ帰ってないですよ。」

「お家にかえって、お家でまちます。」

は真剣な顔で言った。何か感づいたのかもしれない。

「……駄目ですよ。お家に一人でいたら、危ないでしょう。私と一緒にいてください。」

「いやです!」

。明日にしましょう。明日の朝、お家に帰りますよ。」

日本の物言いは穏やかだったが、目は鋭かった。

はまだ納得いかなかったが、「はい……。」と言い、布団に入った。


の勘は正しかった。

翌日の朝、の家には家族が“退治された”跡があった。

「あ……ああああああああああああっっっ!!」

家族の遺体の前で、は一日中泣き続けた。


「……。」

「………。」

「お腹減っているでしょう、あなたの好きな梅干しご飯、ありますよ。」

「……。」

「………ごめんなさい、あなたの家族を救えなくて。」

散々泣いた後死んだように座っていたが、わずかにぴくりと動いた。

「私は国でありながら、国民の妖怪たちへの怒りを抑える事が出来なかった。あなたに悲しい思いをさせてしまいました……。」

「日本さん……。」

は日本にすがり、再び嗚咽を始めた。

「わ……わたし、ひとりぼっちです。ととさまもかかさまも、羅那ねぇねも久太郎にぃにも呼太郎にぃにも、じぃじもばぁばも、みんないなくなりました……。」

「一人ぼっちではないです。私はあなたのご家族に、あなたの事を頼まれました。」

日本は自分にすがって泣いている幼い少女を抱きしめ、優しく背を撫でた。

「あなたは私が全力で守ります。私がのととさまでかかさまでにぃにでねぇねでじぃじでばぁばになります。家族になります。」

「……かぞく?」

「ええ。これからは私が、の家族です。」


泣きつかれて眠った次の日が眼を覚ますと、台所の方からトントントン、という規則正しい音と、いい匂いがしてきた。

そうっと覗いて見たのは、朝食を作る日本の後ろ姿。

――これからは私が、の家族です――

「………かぞく………。」

ぽそっとつぶやいた声に気付いたのか、日本が後ろを振り向いた。

「あ……。」

家族をいっぺんに失った悲しみは、当然すぐに癒えるものではない。

しかし―――

「……おはようございます、菊にぃに。」

はその悲しみを乗り越えて生きていこうと決めた。

「……おはようございます、。」

一瞬目を見開いた日本はふっと目を細め、の頭を優しくなでた。


―――ととさまでかかさまでにぃにでねぇねでじぃじでばぁば―――


日本いいとこ取りっぽくなってますが、の家族を救えなかったことは本当に悔やんでいるんですよ。
そう見えないのはひとえに踏鞴の文章力不足です、ええ。

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