ふと、笑顔が見たくなる。
声が聞きたくなる。
俺の話を、聞いてもらいたくなる。
(疲れました……。)
仕事のため、エドァルドはここ数日ほとんど24時間体制でパソコンの画面を見続けていた。
それに加えブログのサイトジャック騒動やその後のイヴァンのお仕置きなど、仕事がひと段落ついても休む暇がなかった。
ついこの間の奥さん運び競争も、まるで遠い昔の出来事だったような気になってくる。
目も疲れたし、肩もこった。無意識のうちにため息ばかりついてしまっている。
『エドくん、お疲れ様です! 緑茶でも入れましょうか?』
ふと思い浮かんだ、1ヶ月前に会った彼女の笑顔。
あの時は何故か会議の書記を担当していて、今ほどではないが目や手が疲れていた。
そのとき、彼女の明るい笑顔と優しい言葉に癒され、ほっとしたのだった。
「会いたいなあ………。」
ぽつりとつぶやき、いきなり行ったら迷惑だろうかとか、家にいない可能性もあるとか考えもしたが。
「すみません、ちょっとアジアに行ってきます!」
ささっと荷物をまとめ、空港へ向かった。
(痛かった……。)
今日もイヴァンの機嫌を損ねたライヴィス。
頭をぐりぐりされ、ほっぺたを引っ張られ、終始黒いオーラがかかった笑顔におびえる羽目となった。
やっとのこと自分の家まで帰ってきたら、今度はロケットパンチが飛んできた。
わけが分からずにいたら、直後かかってきた電話でそれはピーターのものだと分かったのだが。
その電話の声が怪獣の叫び声かと思うくらい大きく、頭と耳に大きなダメージを受けた。
ロケットパンチを届けに行ったら機嫌の治ったピーターに「威力を見せてやるのですよ!」と言われたので眺めていたら、今度は腹に直撃した。
確かにそれは強い威力で、あやうく昨夜のプートラが出てくるところだった。
「何で1日の間にこんな目にあうんだろう…。呪いでもかかってるのかな、ロシアさんの。」
ベッドで横になっているうちに痛みはひいたが、まだ何か起こりそうで起き上がる気になれない。
『ひゃっ! ライくん、大丈夫ですか!?』
そういえばいつだったか、転んで膝をすりむいたときにたまたま通りがかった彼女がえらく心配し、手当てをしてくれたときがあった。
『もう大丈夫ですよ、痛いの痛いのとんでけ〜です。』
子ども扱いされているような気もしたが、それでも優しい声と笑顔に気持ちが明るくなったのだった。
「会いたいなあ………。」
用事はない。ただ、優しい声が聞きたい、笑顔が見たい。言ってしまえばそれだけ。
「行こうっと。」
むくりとベッドから起き上がり、ライヴィスは支度を始めた。
(ああもう……。)
昼飯をかけたカード対決でポーランドルールを使われた。
「ポーが正々堂々、恨みっこなしの一発勝負って言ったんじゃないか!」
勝った勝ったー、と小躍りしているフェリクスにトーリスが抗議すると。
「えー、そんなん知らんしー。リトのおごりー、ひゃっほー!」
と、まったくもって自分勝手な態度を貫く。
「…もー! お前それはルール違反! 卑怯だぞ!」
本気で怒ったトーリスを間違っていると感じる人はいないだろう。しかし。
「……何よー。リト怒るとか、意味わからんしー!」
「意味わからんしーじゃないだろ! お前はいつも自分勝手すぎるんだよ!」
「……ならもうええしー! リトのケチんぼ!!」
「ちょ…ポーランド!」
フェリクスはむすっとして乱暴にドアを開け、自分の家に帰っていった。
「………何なんだよ……。」
昼飯は奢らずに済んだが、後味の悪い終わり方となった。
「俺が何したって言うの! もーポーランドなんて知らない、向こうが謝ってくるまで仲直りしないんだからな!」
怒りながらも、部屋の隅にある二人の写真が目に入る。それだけで、喧嘩したことを早くも後悔しそうになる。
「…言い過ぎた…かもしれないけど、もともと悪いのはポーだろ……。いつもいつも俺にばっかり我が侭言って…。」
何で自分にばかり我が侭を言うのか。そういえばだいぶ前に愚痴っていたら、彼女が考えてくれた。
『フェリくんはトーくんのことを信頼しているのですよ。だから我が侭言ったり、甘えたり。困らせたいわけじゃなくて、きっと大好きだからこその行動なのです。』
それを認めるのは少し恥ずかしく、『そうかな。』とあいまいな返事をした。彼女は『そうですよ。』と微笑んだ。
「……言ってみようかな……。」
彼女に話を聞いてもらいたい。どうすればいい? なんて聞かなくても、きっと彼女は何らかの方法で諭してくれる。
そんな彼女だから、自分も他の国もきっと彼女とたくさん話したがったり、会いたがったりするんだろう。
「………ああ、そういうことか………。」
自分も彼女に知らず知らずのうちに甘えていたんだろう。フェリクスが自分に甘えるように。
「あれ?」
「おや。」
「わあ、二人ともこんにちは。」
飛行機は日本の空港に着陸し、同じ目的で来日したバルト三国の三人は互いの姿を見つけた。
「二人ともどうしたの?」
「僕はさんに会いに。少し仕事で疲れがたまっていたので、ほっとしたくて。」
「え、俺もだよ。理由も…まあ大体一緒。」
「あの、僕もです。」
顔を見合わせ、くすっと笑い、三人は並んで歩き出す。
「飛行機まで同じなんて、偶然だねー。」
「僕たち普段はあまり似てないのに、時々気が合いますよね。」
「一気に三人もアポなしで訪れたら、さんびっくりしちゃいますね。」
「そうだね。でもきっと笑って出迎えてくれるよ。」
「そうですね。」
だって、そういう人だから。
ちゃんに会う前に、結局三人に笑顔が戻ってました^^