「おや、いいねえぼうや。パパとママとお買い物かい?」

始まりはなんてことはない、ほほえましい子連れの男女を見た初老の女性の一言だった。


パパ、パパ、パパ?


「え?」

ぼうや、と声をかけられピーターはその女性を見上げた。

「えー、そんな風に見えますか?」

ピーターと手をつないでいる“ママ”、は苦笑しながら尋ねる。

「おばさん、違うのですよー。はシー君のママじゃないですよ。ま、しいて言うならおねーちゃんみたいな存在ってところです!」

「おや、そうなのかい。それはおねえちゃんに失礼なことを言ってしまったねえ。」

「いえそんな、気になさらないでください。」


「……ということがあったのですよ!」

「へえ、スーさんがパパでちゃんがママかあ。」

帰宅後、留守番をしていたティノと一緒にお茶の準備をしながらピーターは散歩中の出来事を報告する。

「うーん……私見た目は若いつもりだったのですが…気が付かないうちに老けてしまったのですかね?」

実年齢は五百歳近いだが、やはり見た目はいつまでも若々しくありたいらしい。

「えー、そんな事ないよ。雰囲気とかそういうのがお母さんっぽかったんじゃない? ちゃんは優しいし、シー君も懐いてるし。ね、シー君。」

「はい!」

「えへへ…そうですか?」

ほめられて嬉し恥ずかし、という様子で顔を赤らめるを、ティノは可愛いな、と思う。

(いいなあ、スーさん。)

ピーターと親子に見られた、ということはつまり一緒にいたベールヴァルドと夫婦のように見えた、ということでもあって。

(ちょっと羨ましい、かも。)

なんてことを考えていた、そのとき。

「いい事を聞いたっぺー!!」

「おひゃああああああ!!!」

「デンマーク! 窓を突然開けて叫んだら、フィンランドがショック死するですよ!」

「デンさん、お久しぶりです〜。」

叫んだティノ、怒るピーターを大して気にせず、なぜか落ち着いているに向かって「おう!」と挨拶を返したデンは、そのまま窓から家に入った。

「デンマーク、おめなしてそっだ所から入ってくんだ。」

「硬いこと言うのよくないっぺ、スー! 玄関遠いからしょうがないっぺ。それより!」

デンは勢いよくを指差した。 の一番近くにいたピーターは反射的に彼女とデンの間に入る。

、シーランド! 明日にでも俺と三人で出か、げふうっ!!!」

デンが二人に向かって話していた内容の語尾が、デンが言おうとしていたそれと若干違うものになったのは。

「あんこうざい。」

この男、ノルウェーの右足がデンの背中に見事にめり込むほどの、それくらい強い蹴りを食らったからである。

「の、ノルさんもこんにちは。」

「すまね、。俺が真面目に玄関から入って来たせいでこげな迷惑さかげちまった。でももう大丈夫だ。あんこは葬り去ったっぺ。」

「こ、殺しちゃだめですノルさん!」

「お茶二人分追加、と……。」

「三人分ですよ、どーせアイスランドもすぐに入ってくるです。お菓子足りるですかね?」

北欧組はなんだかんだで仲がよく、誰かの家に突然別の誰かが遊びに来るのは日常茶飯事。

そのためかティノもピーターもひとしきり驚いた後は普通にお茶の準備を再開した。

、シーランド。菓子が足りねぇんなら買いに行くべ。俺と三人で。」

「え?」

「大丈夫なのですよー、ノルウェー。たぶん足りますよー。」

「えっがら。フィン、スヴェーリエ。ちょっとこの二人借りっど。」

「あれ?」

「い、行ってらっしゃい…?」

ノル本人以外全員が状況をあまり分かっていない状態で、とピーターは連れ出された。


「……なぜかまた親子と思われたですよ……。」

「え、そうなの!?」

「困ったべ。“お子さんと一緒に是非”って、菓子屋がチョコの大袋売りつけようとすんだ。」

「ノーレ、口の端上がってるけど……。困ったんならニヨニヨすんのやめなよね、みっともない。」

「何で今日はこんなに親子だと間違われるんでしょう……。以前アイス君やピー君と三人で出かけたときは子連れの多い場所でも何も言われなかったですよね?」

「……さあ。」

ノルがニヨニヨ楽しそうに“困った”理由をアイスは勘付いていて、それが面白くなく、ぷいっとから顔を背ける。

(………なんだよ、僕はと一緒にいても夫婦に見えないっていうの? 意味わかんない………って、別にそんなのどうだっていいけど!)

「ああ、そういえば僕と一緒のときもあったけど、そのときは兄弟って言われたよね。」

あえて明るくティノは言ったが、内心ではやはりベールヴァルドのときと同様、ノルのこともうらやましく感じている。

「そういえばそんなこともありましたね〜。どこへ行ってたんでしたっけ…。」

「おもちゃ屋さんで誕生日プレゼントに“麺々レンジャー”のおもちゃ買ってもらった時ですよ!」

ほらこれですよ! と、ピーターはアニメ“麺々レンジャー”の“素麺ブルー”が使用しているアイテムのおもちゃを見せた。

「……みんなずるいっぺ。」

「デンさん?」

「俺もとシーと三人で出かけたいっぺー!! そして親子に間違われて夫婦気分をあべしっっ!!!!」

またもや語尾がおかしい。今度はノルだけではなくベールヴァルドとアイスの蹴りやどつきも加わり、威力も三倍ほど高い。

「……油断なんね。やっぱ捨てっど、こいつ。」

「あ………あの………?」

は気にせんでええど、菓子食ってシーランドと遊んでろ。」

「え……ええと?」

その後本当にデンが庭に捨てられたが、はピーターに「僕に構えですよ! 攻撃」をくらい続けたため助けに行けなかった。


「ねー、アイス君。」

「……何、フィン。」

「お互い切ないねー、なんで僕達はちゃんと夫婦っぽく見られなかったんだろう。」

「……知らないよ、別にそんなのどうだっていいし。」

アイスはつとめて冷静に返したが、その耳が赤くなっているのをティノは見逃さなかった。

「……素直じゃないなぁ。」


シー君がティノのことを「ママ」って呼ぶのは公式? 同人だけ? って分からなくなったので国名呼びです。スーさんのことは確かドラマCDあたりでパパって呼んでた…はず。
ちなみに麺々レンジャー:パスタレッド、素麺ブルー、そばグリーン、ラーメンイエロー、うどんピンク。他小説での名前使用は自由です(誰が使いたがんねん)

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