遠く北欧の地に住む大きな国、スゥエーデンことベールヴァルドさん。
寡黙で少し怖くて……なんだか気軽に話しかけられない感じの方だったりします。
BY。
「。」
「はい、菊にぃに。」
書類の整理中、菊に声をかけられたは手をとめて振り返る。
「来週なんですけど、北欧のスゥエーデンさんの家に上司と共に福祉を学びに行くことになりました。」
「あ、はい。」
すかさずはカレンダーに予定を書き込んだ。
「で、は今回どうします? 一緒に行きますか?」
「え、私も行っていいのですか?」
「ええ。私も上司もスゥエーデンさんに大分慣れましたし、にも勉強して頂きたいですしね。」
自身が人見知りなのとに関して過保護なため、菊は自分があまりよく知らない国をに(世界会議以外では)なかなか会わせない。
………が、ベールヴァルドはどうやらその“菊的ライン”を越すことが出来たらしい。
「分かりました!」
そして、当日。
「スゥエーデンさん、今回はよろしくお願い致します。」
「……ん、よう来だな。」
スゥエーデン国内のホテルで菊一行はベールヴァルドと落ち合った。
ベールヴァルドは菊や上司数人と握手で挨拶を交わして、最後にに気が付いた。
「……ん? おめは確か………。」
「私の妹のです。世界会議には何度も同行させておりますが、直接ご紹介するのは初めてですね。」
「です。改めましてよろしくお願い致します、スゥエーデンさん。」
「ん。」
菊の上司達はの正体(妖怪であること)を知らないため、菊ももそれを意識して振る舞う。
と、その直後。ベールヴァルドはその場の誰も予想していなかった行動をとった。
「!?」
「ス…スゥエーデンさん?」
の頭に自分の大きな手を乗せ、わしわしと撫でるように動かすベールヴァルド。
は戸惑い、菊達は止めるべきか悩み、成り行きを見守る。
そしてひとしきり撫でたあと、ベールヴァルドは口を開いた。
「…めんげえ。」
「………は?」
に菊、それに上司達とその場にいる全員が混乱している中、ベールヴァルドはそのまま何事も無かったように福祉施設の資料を配り始めた。
「ん。」
「あ、ありがとうございます……。」
「菊にぃに、ベールヴァルドさんが言っておられた“めんげえ”ってどういう意味だったんですか?」
その日の夜、宿泊先のホテルでは菊にこっそり尋ねるが。
「いや、それが…私も初めて聞いたので。上司達も知らないそうですし……。怖くはなかったですか?」
「あ、それは大丈夫です。お顔がちょっと……ごにょごにょでしたけど、雰囲気とかはむしろ優しかったのですよ。」
「そうですか。」
のその言葉を聞いて、菊はひとまずほっとしたらしい。
「そうだ、明日思い切ってご本人に聞いてみましょうか。」
「え! それは……失礼にあたりませんか?」
「大丈夫ですよ、現に分からないのですし。“聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥”でしょう?」
「はあ、まあ……。」
「ね? 決定ですよ〜。」
菊は最後まで気乗りしなかったが、を一人で行かせるのもなんか不安なのでついていくことにした。
「ベールヴァルドさん、おはようございます!」
「ん。」
菊とが上司よりも早起きしてベールヴァルドの家に行くと向こうもとっくに起きていたらしく、庭木の手入れをしていた。
「なじょした、こげな早くに。」
「お伺いしたいことがあって来たのです。昨日おっしゃった“めんげえ”の意味が分からなくて…………え?」
「す……スゥエーデンさん……?」
二人は顔を引きつらせ、そっと半歩下がった――ベールヴァルドの表情が怖くなったからである。
「すみません、が大変失礼を致しまして……」
「あ、いや。怒っとるわげではねぐで、その……。」
横を向きながら言いづらそうに口ごもるベールヴァルドは、よく見ると頬が赤くなっていて。
「……めんげえ、っつーのは“可愛い”っつー意味だべ、昨日はつい口から出ちまっだが、改めで聞がれると恥ずがしくなった……。」
決まりが悪そうに口元を押さえながらベールヴァルドは言う。
「そうだったのですか。」
「すまん、困らせで。あーみったぐね………。」
「あ、謝らないでください。可愛いなんて言っていただけて、私は嬉しいです。ちょっと恥ずかしいですが。」
「…………そっが。」
の言葉を聞いたベールヴァルドは、安心したのか優しく微笑んだ。
「ベールさん、怖い方ではなかったですね。」
「そうですね。」
菊は、のベールヴァルドに対する呼び名が“ベールヴァルドさん”から“ベールさん”になったことに気が付いた。
名前を短くして呼ぶのは、それだけ彼女が親しみをこめている証。
「よかったですね。仲良くなることができて。」
「はい!」
スゥエーデン? スエーデン? あ、後一応時代は昭和後期だと思ってください。今のスーさん家には福祉施設ほとんどもしくは全くないはず。