季節が秋から冬へ少しずつ、確実に変わっていく。日本の11月。

そんな中、暇を持て余したギルベルトが本田家へ遊びに来たが。


Eine Neujahreskarte


、国の皆さんには今年もそれぞれで出すことでいいですかね。」

「はい。」

――ヴェストがクリスマスの支度で忙しそうにしていたから、わざわざ来てやったのに。

「今年喪中の方は棚澤さんに横山さんに、それと新藤さんと……。」

――も日本も、俺様にさっぱり分かんねえ何かの支度で忙しそうにしてやがる。

「“筆豆”インストール出来てます?」

「あ、まだです!」

「……おいこら。俺様という極上の上客をほったらかして忙しそうにし続けるとはいー度胸じゃねえか。」

訪れたとき“少し待っていてくださいますか”と言われたため待っていたのだが、早くも限界が来たらしい。

「プロイセン君。申し訳ありません、寂しかったですか?」

「少し休憩して、みんなでお菓子でも食べましょうか。」

「ケセセセセ、そうでなくっちゃな! だけど俺様は寂しかったワケじゃねーからな!」


「……で、二人して何してたんだよ。」

が用意したビスコを食べつつ、ギルベルトは尋ねる。

「ああ、年賀状ですよ。」

「ネンガチョ?」

「年賀状です。お世話になった人や仲のよい人に新年のご挨拶で送るのですよ。」

「ふうん……クリスマスカードみたいなモンか?」

「まあ、そうですかね。」

ルートヴィッヒやフェリシアーノなどから以前貰ったクリスマスカードを思い浮かべ、菊は頷いた。

「決まり文句の他にも正月にちなんだイラストを描いたり、ちょっとした近況をお知らせしたり。家族の写真を使う方も多いのです。」

はパソコンを起動したついでに、昨年のデータをギルベルトに見せる。

「この虎の絵も正月に関係あんのか?」

「ああ、これは干支ですよ。簡単に言ったらその年のシンボルですね。来年は卯なのです。」

「ふーん……。」

ギルベルトはしばらく年賀状を眺め、やがてにやりと口元を緩ませた。

「おい、日本に! 俺様も年賀状が欲しいから寄越せ!」

「え!?」

長い年賀状の歴史の中で、これほど上から目線で年賀状を要求する人がいただろうか。

否、いるはずがない。この何様俺様プロイセン様以外は。

「構いませんが……宗教的には大丈夫なのでしょうか?」

「俺様に不可能はないぜっ!!」

「はあ……。」

あくまでも自分大好きなギルベルトに若干呆れつつ、菊とは彼に年賀状を送ることを約束した。


「さて。上司やお仕事関係の方への年賀状作りは終わりましたし、後はお友達です!」

そして数週間後、年賀状書きも佳境に入った頃。

は自室の文机の上に住所録と年賀ハガキを用意し、気合いを入れた。

「国内のお友達がこれだけで……後は国の方々ですね。」

国によっては宗教や慣習の面から年賀状をあまり欲しがらなかったり正月の日にちが違ったりするため、注意がいる。

菊がギルベルトに一言聞いたのもそういう事情をおもんばかったためである。

「湾ちゃん…ヨン君…耀にぃにと香君はあちらのお正月に合わせて出すとして。」

国外に向けて出す年賀状の方が時間がかかるため、先に書く分をピックアップする。

「セーちゃん、リヒちゃん……あ、そういえばバッシュさんに出してもいいか聞くの忘れました!」

カレンダーを見て、次バッシュと会えそうな日を確認する。何とか間に合いそうではひとまずほっとした。

「ああ、あとギルさんにも送らなければ。」

ギルベルトの住所が書いてあるページを開く。

「そういえば、ギルさんは生まれて初めて年賀状を貰うことになるのですよね。」

年賀状を寄越せ、と言っていたときのワクワクしていたギルベルトの様子を思い浮かべる。

「今ごろ楽しみにされているでしょうね。」

嬉しさを隠さずカレンダーに丸印をつける――そんなギルベルトを想像し、はクスッと笑った。


一方、当のギルベルトは。

「もーいいくつねーるーとぉ、おーしょーがつー!」

「……兄さん、何だ? その歌は。」

ルートヴィッヒは同じ部屋で作業をしている兄に、怪訝そうに尋ねた。

「知らねーのかよヴェスト、日本の正月の歌だ!」

「いや、その歌自体は聞いたことがあるが…ツリーを飾りながら歌う歌か? それは。」

クリスマス用にクーヘンを作りながらルートヴィッヒは改めて兄の姿を見る。

頭にサンタ帽子、手に星の飾り、すぐ側にもみの木。やはりどこからどう見てもクリスマスモード。

「こまけぇ事はいいんだよ! クリスマスが終わればすぐ正月だろうが!」

「今まではクリスマスにしか関心を持っていなかったはずだが……。」

「今年は違うんだよ。」

ニヨニヨしながらそう言い、ギルベルトはツリーの飾り付けを再開した。


そして新年、日本で言うところの元旦――。

「おいヴェスト、年が明けやがったぞ! 起きろ!!」

「…どうしていつも寝坊しているのに、今日だけ早起きするんだ……。」

「正月だからな!」

「答えになっていない。」

不機嫌な弟のツッコミは無視し、ギルベルトは玄関のポストへ駆けていく――わずか30秒で戻ってきた。

「おいヴェスト!! 来てねえ!!」

「何が来ていないんだ、主語を入れんか!」

「年賀状! と日本からの年賀状!!」

――成る程、そういう事か。

ここしばらく浮かれていた理由がようやくはっきり分かった。

「泣くな、兄さん。まだ配達時間には早いだろう。」

「……あ、本当だ。でもそろそろ来るよな?」

時計を確認し、ギルベルトは少し落ち着いた。ルートヴィッヒがそうだな、と言おうとした瞬間。

「今の音、郵便屋じゃねーか!?」

玄関の外からガサッと音がした。ギルベルトが素早く反応する。

「俺様取って来るぜー!」

嬉々として走っていき、やはりすぐに戻ってきた。今度は数枚のハガキを手に持って。

「来てたぜ、年賀状! 俺様とヴェストにと日本から!」

ルートヴィッヒ宛ての二枚をテーブルに置き、自分の分を持ってソファーに座る。

「何々……随分シンプルだなー、日本の奴。しかも何だこの漢字、読めねえ。のは、と…。」

菊からの年賀状を脇に置き(ちなみに読めなかった漢字は“謹賀新年”。)、からの分を表に返した。

「……おお〜!」

去年の秋に見せてもらったパソコン内のデータとは全然違っている。何しろ、文章もイラストもどう見ても手書きだ。

「はは、俺様とヴェストにウサギの耳生えてやがる。何々…げんきですか、カゼひかないでくださいね…。の奴、ドイツ語少しはまともに書けるようになったじゃねえか。」

自分のために忙しいさなか手書きで年賀状を書いたこと、わざわざドイツ語で文章を書いたことが嬉しく、ギルベルトの頬は緩みっぱなしだった。


書いてるうちにギルがあらゆる方向へ突っ走るわ喚くわ泣くわ……楽しかったです。

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