世界W学園図書委員会の規則にはこう書かれている。

一、図書委員会に所属する者(以下、図書委員)は各クラスから一名ずつ選出される。

一、図書委員は図書の整理や貸出業務等を行う。

一、図書委員は生徒及び教職員が安全かつ気持ち良く図書室を利用出来るよう配慮する。(中略)

一、図書委員は毎日昼休みと放課後に二名または三名で図書室当番にあたる。


妙な友情?


午後三時、掃除終了のチャイムが鳴った。

「おっしゃ、部活だ!」

「じゃあな、アイス。」

「ああ、うん。お疲れ。」

掃除当番でなかった図書委員のアイスは、図書室の掃除をしていた他クラスの知り合いを見送った。

「……あいつも掃除当番かな。」

何気なくつぶやいたその後すぐに図書室の扉が開き、反射的にアイスは振り向く。

「アイス君、こんにちは。お一人ですか?」

「本田。」

アイスが密かに気になっているアジアクラスの特待生、本田。彼女も図書委員である。

アジアクラスの・北欧クラスのアイス・西欧クラスのリヒテンシュタインの一年生トリオが本来この時間の当番だが。

「リヒなら風邪で休んでるよ。」

「ああ…それでバッシュさんが物凄いスピードで帰っていかれたのですね。」

話をしながらもは名簿チェックなどの作業を怠らない。

「じゃあ今日は二人だけですね。」

――ラッキー。

リヒには悪いと思うがそれがアイスの本音。何しろ片思い歴二ヶ月の中でと二人きりになるなど始めてのことである。


「誰も来ませんねぇ……。」

「そうだね。」

10分経過、はカウンター内で宿題を広げ取り組みはじめた。

アイスは何もせず座ったまま。

そしてこの間二人の会話はこれだけ。

――このままじゃあまりにも二人きりの意味が無い、何か話さないと。


「リヒちゃんの具合が心配ですね。」

「そうだね……。」

20分経過、は宿題を終えて借りている本を開いた。

アイスはやはり何もせず座ったまま。

この間二人の会話はやはりこれだけ。

――ってこらこらこらこら!! 緊張して話せないとか意味分かんない!

あまりの情けなさに、思わず自分へ激しくツッコミを入れる始末。

――話をして楽しく過ごしたい、でも宿題や読書の邪魔はしたくない。

ひょっとして“無口であまり面白くない”とか思われてるだろうか、でも彼女はそんな人じゃ。

アイスの30分間はそんな思考の繰り返し。


放課後中続くかもとすら思われたこの緊張状態は、意外なほどあっさり破られた。

ー…お、いたいた。俺ビンゴ的な。」

図書室の扉を開いた瞬間を見つけてそう言った、立派な眉毛の持ち主によって。

「香君。」

――誰アレ。

彼女を下の名前で呼んだ。それだけで親しさがある程度計れてしまい、アイスはヤキモチを妬く。

「香君が図書室に来るなんて珍しいですね。調べ物ですか?」

「ノーノー。探して三千里だったんだけど。」

「あらまあ。何のご用事ですか?」

「宿題見せて。6時間目の地学ガン寝タイムだった。」

「もう、またですか。」

二人の会話からもまた親しさが十分に計れてしまい、ますますアイスは妬く。

「ちょっと本田、カウンター当番なのに私語しすぎだよ。」

「す、すみません。」

――あ、失敗した……。

申し訳なさそうなの声に、真っ先にそう感じた。

――ごめん、私語の相手にいらついただけなんだ。

口に出せない弁解を心の中で呟く。

「はあ? 図書室他に人いないじゃん。お前マジメすぎ的なー。」

「ちょ、ちょっと香君。」

さっきの後悔はどこへやら、香のいい加減な態度にアイスは再びカチンときた。

「うるさいよ。大体あんた誰なんだよ、意味分かんない!」

間に挟まれたは二人を交互に見てオロオロとするばかり。

「俺? のクラスメートでマブダチ的な?」

「えっと、あの。」

さすがにこの空気を何とかしなければと思ったのか、が声をあげた。

「香港君っていって、耀にぃに…中国さんの弟分さんです。小さい頃からの仲良しなのですよ。」

「ま、そーいう訳ッスー。」

「香君、こちらはアイスランド君。1年北欧クラスの図書委員さんで、いつも何かとお世話になっているのです。」

「……どうも。」

にここまで気を遣わせてしまっては、これ以上喧嘩腰の応答を続ける訳にいかない。少なくとも自分は。

「ふーん……アイスランド、ね。」

香港はそんなアイスの決意など知るはずもなく、じろじろと品定めをするように見る。

「…決めた。お前俺とダチになれー的な。」

「はあっ!?」

「お前面白そうだし。マジパネくね? ね?」

「いや、ね? って聞かれても意味分かんないし!」

「素敵だと思います! お二人きっと仲良しになれますよ。」

「本田、さっきまでの僕らのやり取り見てた?」

ついていけない二人のノリに、アイスは思わず頭を抱える。

「まあまあ、俺とダチになるともれなくガチスペシャルな特典ある的な。」

香はアイスの耳元でそっと囁く。

「お前に惚れてる?」

「なっ……何言ってんの意味わかんない!」

「じゃあ、俺がと付き合っても無問題?」

「…………それは、駄目。」

なぜ今日知り合ったばかりの胡散臭い男に自分の恋心を言わなければならないのか。だが取られるのはもっと嫌だ。

「いろいろ協力してやるし、マジで。」

にやりと不敵な笑みを浮かべる香港を、果たして信用していいのかどうか。

「香君? アイス君?」

二人の会話が一切聞こえていないはただただ首を傾げるばかり。

そんな何気ない様子も可愛いと思うアイスは末期だろうか。

「……友達になってもいいけど、別にその特典欲しさになるわけじゃないから。」

「………やっぱ面白いわ、アイス。マジいい奴的な。」

友達になってもいい、でも特典――恋路への協力が欲しいわけじゃない。

照れ隠しでわざと言ったのだろうが、結局それでは「香港君と友達になりたいんだー。」という意味になるわけで。

つっついたらまた真っ赤になって「意味わかんない!」と慌てる姿が見れるのだろうが、やめておいた。


友達の好きな子の前で友達の恥ずかしい姿を晒すのは、“友達”の行為ではない気がして。



男子高校生組(香&アイスのぴくしぶでのコンビ名)+ヒロインは香とヒロインのダブルボケでツッコミ役のアイス君が大変そうですよね。(人ごと)

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