――あれ、歌声?
世界会議の中日、フェリシアーノが自宅近くの公園を散歩していたら。
(しかもイタリア語じゃなくて……えーとこれは……)
――日本語?
吸い寄せられるように、フェリシアーノは歌声のする方へ歩いていった。
「やっぱりだった……。」
見慣れた長い黒髪で確信した。
彼女はこちらに背を向ける格好で座っているため表情は分からない。
だが、きっと穏やかに微笑んでいるだろう。
「〜っ。」
フェリシアーノの声には振り向き、少し驚いたあと口元に人差し指を当てた。
「しー、ですよ。」
「あっ……。」
正座しているの膝を枕にして、眉毛の太い少女が寝ている。
「わぁ、可愛いね〜。確かワイ公国……だっけ。」
「はい。ラリアさんにくっついて世界会議の見学に来たそうですよ。」
ワイはすよすよと安心しきった顔で眠っている。
「そうか、さっき歌っていたのは子守歌だったんだね。」
「はい。ワイちゃんが少し疲れていたようなので、休憩させてあげようと思ったのです。」
「そっか……オーストラリアは遠いもん、時差ボケとかもあんのかもね〜。」
小さい声とはいえ真横で話していても、ワイが目覚める気配はない。
髪をそっと撫でると、微かに微笑んだ。
「フェリさんはお散歩ですか?」
「うん。ホスト国だからしょうがないけど、会議関係の仕事いっぱいすぎてやんなっちゃう。兄ちゃんと分担してもすごい量だしさ〜。」
「ふふっ。」
両腕を広げて「こーんなにあるんだよ!」と説明する姿はどこか可愛らしく見える。
その割に昨日の会議終了後は菊ととロヴィーノの四人でのんびりピッツアを食べたのだが、あえて突っ込まない。
やがてワイは目を覚まし、タイミング良くオーストラリアが現れたため、とフェリシアーノはホテルへ帰っていく二人に別れを告げた。
日差しはぽかぽかと暖かく、彼等はその後もその場でのんびりと過ごしている。
「あ〜、気持ちい〜。日頃のストレスが吹っ飛んでく〜。」
「ストレスですか〜、吹っ飛んじゃいますね〜。」
ここにルートヴィッヒが居たなら絶対に突っ込んだだろう、“お前にストレスなど無い”と。
だが(フェリシアーノにとって)口うるさい彼は今どこにもいない。
好きなだけのんびりゆったり、ゴロゴロダラダラ出来る。
その内に開きっぱなしの口から、ふわあと大きなあくびが漏れた。
「あらまぁ…フェリさんも眠たいのですか?」
「うん…ちょっとね〜。」
――俺もの膝に寝ちゃおっかな〜。
そんな事を何気なく思った瞬間、身体がその通りに動いた。
「ふぇ、フェリさん?」
「ヘヘ〜。さっきの歌、俺にも歌ってほしいな〜。ダメ?」
素直に甘えるその様子はまるで小さい子供のようで、つい許してしまう。
「しょうがないですねぇ……。」
「ありがとー!」
の口から、言葉が紡がれる。言葉は穏やかなリズムを蓄え、優しい音楽となる。
最初はくるんをパタパタさせながらにこにこと聴いていたフェリシアーノも、やがて本格的にまどろんできた。
「あら……。」
一番を歌い終わった頃だろうか、フェリシアーノはすうすうと寝息をたてていた。
「子供みたいですね、フェリさんてば。」
菊やルートヴィッヒがいつも愚痴をこぼしながらも彼の面倒をみてしまう理由が分かった。
素直でとても甘え上手。なぜだか放っておけない存在。
面倒だと思っても、明るい笑顔を見るとつい許してしまう。
「……おやすみなさい、フェリさん。」
優しい風が、二人をそっと撫でていった。