フンフン、コトコト。
フフーン、グツグツ。
フフフーン、ボコボコ。
謎の擬音の出どころは、フェリシアーノ家の台所。
その正体は彼の鼻歌と、パスタ用のお湯を沸かす音である。
「イタちゃん、えらいご機嫌やなー。」
「おい、湯が沸いたぞ。歌ってないでパスタ入れちまえ。」
「フェリさん、何か手伝うことはありますか?」
この日の客人はアントーニョ、ロヴィーノ、そして。
「ありがとー、大丈夫だよ。スペシャルなパスタを作るから、わくわくしててねー。」
「はい!」
10数分後、フェリシアーノの言った通り美味しそうなパスタ料理がテーブルに並んだ。
「いっただっきまーす。」
「おお。流石やなあ、イタちゃん。」
「でしょーっ。前スペイン兄ちゃんにもらったイカも入ってるんだよ!」
「本当においしいです!」
絶賛するアントーニョと。
ロヴィーノは黙ってむしゃむしゃ食べているが、美味しいと思っているようである。
「そういえば、フェリさんがさっき歌ってた歌。私も前歌った事があるんですよ。」
――料理の音に混ざっていてしかも鼻歌なのに何歌ってたのか分かるのか。
ロヴィーノは感心する以前に驚いた。
「ヴェー、そうなの? だってコレ、俺のとこの歌だよ?」
不思議に思うフェリシアーノ。
「日本では音楽の授業でイタリアの歌を習う事があるんですよ。だいぶ前に菊にぃにのつてで高校の臨時講師をやったので、その時に覚えました。」
「へぇ、そうなん?」
「俺全然知らなかった〜。へへ、なんか嬉しいなぁ〜。」
にこにこするフェリシアーノと。
「あ、そうだ! ランチ終わったらさ、一緒に歌おうよ! 2人で歌ったら、きっともっと楽しいよ!」
「わあ、とっても素敵な思い付きです!」
「よーし、決定! 部屋からリュート持ってくるね!」
「じゃあお皿洗ってますね……あ、アンさんとロヴィさんはどうしますか?」
丁度食べ終わった2人にも尋ねる。
「ん〜? 俺はええわ、君らが歌てんの聞く方がええしな〜。」
「俺もいい。」
「そうですか……。」
は食器を下げ、洗い始めた。
量がそんなに無いため、すぐに洗い終わる。
「、お待たせ〜!」
愛用のリュートを持ったフェリシアーノが戻ってきたのとが洗い物を終えたのはほぼ同時だった。
「ヴェ〜〜〜〜」
「ラーーーー」
「ヴェヴェ〜〜〜〜」
「ララーーーー」
「やっぱりは声キレイだねー。俺、好きだなぁ。」
「えへへ、ありがとうございます。」
本当には歌が上手い。そして、フェリシアーノも。
打ち合わせをしなくてもとても自然にハモり、綺麗なハーモニーを一瞬で生み出す。
「いやぁ、2人ともえらい可愛らしいな〜。まとめて連れて帰りたいぐらいやわ〜。」
アントーニョはそんな2人の歌声にすっかり聞きほれている。
「なあ、ロマーノも一緒に歌ってきたらどや? せっかくやし。」
「俺はいいってば……つか、そんな言うんだったらお前歌えよ。好きだろ、声出すの。」
「え? そらそやけど……ロマーノのが歌いたそうにしとるやん、さっきから。」
「……なっ!」
図星をつかれ、ロヴィーノはうろたえる。
文化が違うとはいえロヴィーノもイタリア、歌も絵も本当は好き。
だがスペイン寄りの彼は歌い方が弟のそれとは違っていて、しかも弟の歌の方が知名度が高いため、結構コンプレックスなのだ。
「ヴェー、他の歌も歌ってみたいな〜。は他にどんな歌を知ってるの?」
渇いた喉を潤すためのドリンクを準備しているフェリシアーノがに尋ねた。
「えーと、あとは……“セッヴェン・クルデーレ”なら歌えます。」
「あ、俺もそれ好き〜!」
はい、と笑顔でにドリンクを渡す。
「ありがとうございます。あ、ロヴィさんもご一緒しませんか?」
「……へ?」
急に話を振られたロヴィーノはつい間抜けな返事になる。
「アンさんとさっき話してたじゃないですか、歌いたいって。」
「な……!」
再びロヴィーノが真っ赤になった。
「、歌いながらこっちの話聞こえとったんか。耳ええな〜。」
「お、俺は歌いたいとまでは言ってないぞ。」
「じゃあ、歌いたくないですか? 歌はキライですか?」
「……っ、そうじゃなくて……俺はヴェネチアーノよりも歌が下手だから……。」
ロヴィーノは恥ずかしさから消え入るようにしか話せないが、はしっかりと聞き取った。
「上手い下手じゃないですよ、大事なのは。歌が好き、歌いたいって気持ちです。」
「気持ち……。」
「はい。」
は穏やかな笑顔をロヴィーノに向ける。
見たら誰でも素直な気持ちをさらけ出してしまいそうな、そんな笑顔。
「俺……歌が好きだよ。歌いたいよ。」
「決定ですね! 3人で歌いましょ、フェリさん。」
「いいよ〜っ。兄ちゃんと歌うの、久しぶりだねえ〜。」
「……そうだな。」
ブスッとしている事が多いロヴィーノが、この日久しぶりに笑った。
本人は気付いていなかったようだが。
「とってもお上手じゃないですか、ロヴィさん!」
「え……そうか?」
「はい。フェリさんとはまた違った個性があって、私好きです!」
誉められる機会があまりないロヴィーノがまたまた真っ赤になった……が。
「お前、何してんの。」
ロヴィーノが睨む先にはビデオカメラを抱えたアントーニョ。
「えー、何って撮影やん。こんな機会滅多にないで。こっちは気にせんでええし、続けて続けて。」
「って、続けられるかあ!」
「なんでロマーノ怒ってんのん?」
「てめー、ビデオカメラ寄越すか捨てるか今すぐ選べ、このアホー!」
それでもロヴィーノはこの日以来、前よりちょっとだけ歌を歌うようになったとか。
南伊の歌い方とかのくだりは妄想ですごめんなさい。