私、本田はとあるきっかけから憧れのノルウェーさんとお知り合いになれました。

「おう、。」

「おはようございます、ノルウェーさん。」

平日は毎朝同じ車両に乗って挨拶を交わし、たわいのない話――私、幸せです。

離れるその前に


「……。お前にやけすぎで超キモい的な。」

「あ、香港君。おはようございます〜。」

友人・香港の口からさらりと出た悪口にも気付かない。

「リア充ウザッ!」

「ふふ〜。聞いてくださいよ、北欧高校とうちの学校、体育祭が同じ日にあったんですって。運命的じゃないですか?」

「全然全くちっとも運命とか関係ない的な。」


「そういやさ、。」

「はい?」

教室に貼られた行事予定表をぼんやりと眺めながら、香港が口を開く。

「その“ノルウェー”って、三年とか言ってなかった?」

「はい、そうですよ。」

の返事に、香港は無言でカレンダーを指差す。

「……11月、ですね。」

「イエス。」

いまひとつ意味が分からないだったが、隣に貼ってある行事予定表と見比べ――気付いた。

「ああっ! 卒業!」

「おー、イエス!」

「どどどどうしましょう香港君!! 今みたいに毎日会えなくなるって事ですか!?」

しかも、三年生は大体どこも一月末の試験が終われば学校に来なくなる。実質ノルウェーと会えるのは後二ヶ月だ。

「んー、それはあれじゃね? 初恋は実らない、美しく甘酸っぱい思い出ってヤツ。」

「そ、そんなぁ……。」


――昨日は動揺しましたが、まずは進路をどうされるのか聞かなければ!

翌日、は北東亜細亜駅のホームで一人気合いを入れる。

ひょっとしたら、ノルウェーの進学先は同じ沿線の欧州文化大学や北欧学院大学かもしれない、と期待する。

大陸中央駅で、一番後ろの車両のいつものドアからノルウェーが乗ってきた。

「ノルウェーさん、おはようございます!」

「おう、おはよ。」

やや眠そうなノルウェーがを見て微笑む。そんな何気ない仕種がいちいち格好いい。

「寒いな、今日。もうすぐ冬だべな。」

「そ、そうですね。」

――今、今が聞くタイミングですね。よし!

「そ、そういえばノルウェーさんってどこの大学受けるんですか?」

「ん? ああ、緑島大だべ。」

――緑島大学。聞き覚えのないその学校名に、嫌な予感がする。

「聞いだ事ねえか? まあ遠いもんな。」

「…ええとすみません、私この電車の沿線以外、よく分からなくて。どの辺にあるのですか?」

身体が震えそうになるのを必死で抑え、平静を装い尋ねる。

ノルウェーの次の言葉を聞きたくない。だが、聞かずに済ますことも出来ない。

「んー……大陸中央駅からスクールバスで20分ぐらいだ。」

――会えない!

とノルウェーの通学路が重なるのは、大陸中央駅から北駅までだけ。

北東亜細亜駅から大陸中央駅まで来ると大陸中央駅の近くに住むノルウェーの通学路は、春以降は交わらない。

「…? 北駅着いたど。降りんのけ?」

「あ……。」

慌てて、電車に乗ってくる人波に逆らい出入口へ向かう。

! また顔青いべ、無理すんな!」

――今、別れ際の優しい言葉は反則ですよ。

軽く会釈を返すので精一杯だった。涙はかろうじて見られずに済んだ。


「…はあ、成る程。わたしが風邪で休んでる間、そんなことがあったですかー。」

の友人で韓国・済州特別自治道こと侑莉。香港から話を聞き、よしよしとの頭を撫でた。

「香港が余計なこと言ったせーですね。」

「え、ちょい待て。俺マジ無実1000%的な。」

そう。香港が言っても言わなくても、遅かれ早かれいつかは知ること。

そう思えば、会えなくなってから気付くよりは大分マシだろう。

「それで、どーするんです?」

「どうする……とは?」

「告白ですよ! ノルウェーさんに“好きです”って言わないとですよ!」

“告白”。普段使わないその単語に一瞬思考が停止し――再稼動と共に顔が真っ赤に染まった。

「ええええええ! そ、そんな…。」

「しない的な?」

するもしないも何も、そういう発想自体無かったのだから思考がその二択まですぐに達する訳がない。

「告白……?」

頭の中でその場面を想像してみる――が、それだけですでに相当恥ずかしい。

「無理です、無理! 無理無理無理無理〜!!!」

顔で湯を沸かせるのではと思うくらい真っ赤な顔を真横にぶるんぶるん、これでもかと振りまくる。

「うわ、首ちぎれそうマジパネェ。」

「無理ってそんな、告白しないとただの知り合いのままサヨナラですよ!?」

――サヨナラ。

彼に会えなくなる。話が出来なくなる。自分を呼ぶ声、ふとした仕種、時々見せる優しい笑顔。

の幸せの源となっている、それら全てと“サヨナラ”――。

「……嫌です。サヨナラの方が嫌です!」

やっと話が出来る間柄になったのにサヨナラなんて、悲しすぎる。

見ているだけの頃よりもっと好きになった彼を、知らなかった頃には戻れない。

「私……こ、告白します!」

椅子から立ち上がり宣言したに、友人達は拍手を送った。


……決心したからと言って、その勇気がすぐに生成されるかというともちろんそんな訳がなく。

「よう、。」

「お、おはようございます。」

むしろ“告白”を意識してしまうことで、顔がまともに見られない。

「…? 大丈夫か? まだしんどいんでねぇのけ。」

俯くを心配し、ノルウェーが尋ねる。こんなちょっとした優しさがどれ程嬉しいか。

「…な、何でもないですよ。それより私、ノルウェーさんに言いたいことが……。」

意を決して切り出したが、はたと気付く。ここは電車、しかも通学時間帯。

北欧高校や亜細亜学園の生徒も大勢いる中で「好きです」など言えるはずがない。

「ん?」

じゃあ、いつ言うのか。とノルウェーが会うのは朝のこの時間がほとんどだ。

たまに帰りが一緒になることもあるが、告白をその時まで待って、もしその“偶然”が起こらなかったら。

「……今日、放課後お時間頂けませんか? 大陸北欧駅の改札口で待っています!」

朝は無理。偶然への期待もしない。なら、こう言うしかない。

一瞬驚いたような顔をしたノルウェーだったが、首はきちんと縦に振った。


――好きです、好きです、好きです、好きです、好きです………。

そして(待ちに待った?)放課後、改札にはが先に着いた。

待つ間、告白のセリフを何度も頭の中で練習する。

――好きです、好きです………。

北欧高校のシンプルかつ上品な制服の群れが、ちらほらと現れだす。

は頭の中での練習を続けつつ、ノルウェーの姿を探す。

「あ。」

先に見えたのはトロールの姿だった。目線を下に移すと、前を歩く女性がちょうど曲がったため、はっきりとノルウェーの姿も見えた。

彼の方もを見つけたらしく、手を挙げて向かってくる。

――心臓が大変です………。

今やの緊張は最高潮。こんなに心臓が無駄に動いたら、寿命が縮まる。確実に。

、待ったけ?」

「す、好きです!」

………沈黙が流れる。

――どうしていきなり言っちゃうんですか、私ー!!!

まさか先程までの練習がこんな形で仇となろうとは。

恥ずかしさで顔が熱くなるのが自分でも分かる。ノルウェーを恐る恐る見上げると――ノルウェーも顔が相当赤い。

は半ばパニックになりながらも、(レアです……。)と呑気に思っていた。

「あの……私、ノルウェーさんが大学生になって離れるのが嫌なんです。お付き合いして頂けませんか?」

混乱状態が解けてきた。もうこの際だから、気持ちをきちんと伝えたい。

はっきりと“付き合ってほしい”と言えた自分に少し驚く。

「……、ありがとうな。」

頬をまだ染めたままのノルウェーが柔らかく微笑む。

「……俺も、好きだべ。」

紡がれた言葉は、嬉しすぎてすぐには信じられなくて。

だけど、目の前の照れたような笑顔が、真実だと教えてくれた。



every day yeah! 好きです。

APH部屋のトップに戻る。2号館のトップへ戻る。 トップページに戻る。