「、そろそろ行きますよー。」
「はい〜っ!」
が菊と暮らし始めて何年か経った頃、日本は戦乱からようやく落ち着きを取り戻した。
二人は今日、菊の兄弟に会いに行く。
を引き取った事は兄のような存在である明――王耀には言っていたが、実際対面するのはこれが初めて。
「明さん、日本です!」
大きな家の扉を開け、菊は奥に向かって叫ぶ。
返事が聞こえ、すぐに赤い服を着た細身の男性が現れた。
「よく来たあるねー、久しぶりある。国の方は落ち着いたあるか?」
「ええまあ、何とか。、こちらが明さんですよ。まあ、私の兄的存在…ということにしておきましょう。」
「何あるか、その引っかかる言い方は。」
少し緊張しているのか、自分の着物をしっかりと掴んでいるに菊は優しく言った。
耀も菊には抜かりなく突っ込みを入れてからの目線まで屈み、微笑みかける。
「我は明、王耀ある。お名前なんて言うあるか?」
「は、はじめまして。です……耀さんは、菊にぃにの兄上なのですか?」
「そうあるよ。」
「で、では…耀にぃにと呼んでもいいですか?」
頬を赤く染め恥ずかしがりながらも、笑っては言った。
その姿を耀が可愛いと思わない訳はなく。
「もちろんあるよー! 今日から我ものにーにある!」
小さな体をぎうっと抱きしめ、言った。
「そういえば、あの3人が見当たりませんが……。」
「おかしいあるね……さっきまでその辺ちょろちょろしてたあるよ。」
菊と耀がそんな会話をしている丁度その時。
「……なあ、きっとあの子なんだぜ!」
「本当だ。」
柱の陰に、くらいの大きさの子供が三人。
「やっぱ俺たちと似てるんだぜ! 髪と目の色とか背格好とか。」
「可愛いね。」
「……ふーん。」
少年二人はに好印象を持ったが、少女は複雑そうにしている。
「……? 湾、あんまりうれしくなさそう……。」
「……! ……だって……。」
「何だぜ?」
「……新しい
湾と呼ばれた少女は、耀に高い高いされているを面白くなさそうに見ている。
「それなのににーに達に馴れ馴れしくしてかわいがられて……。」
ポコポコと怒る湾を、少年の内の一人が冷静に眺める。
「……なんだ、湾ってば。ヤキモチやいてんだ。」
そう言ったとたんに湾の顔がかあっと赤くなった。
「……っちっ違うもん!」
湾が勢いよく振り上げ振り降ろした拳は、ぶち当てたかった本人がすっと避けたため――
「痛って! オレを殴んなだぜ!」
――隣にいたもう一人に当たった。
「…うっ、うるさいな! 朝ちゃんは邪魔なのよ!」
「納得いかないぜ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい三人に、達が気付かない訳はなく。
「……お前ら、何してるあるか……。」
「ごめんなさい。」
三人は今、呆れ顔の耀の前に座らされている。
「オレ悪くないんだぜ! 湾が……。」
「だってあれは……」
「うるせーあるよ! 朝鮮、台湾、香港!」
「え、俺も?」
兄弟のそんな様子を、がじいっと見ている。
「……と、とりあえず紹介しますね、。彼ら三人が私と明さんの弟妹達です。年も(多分)近いですし、いい友達になれると思いますよ。」
菊の言葉に、の顔がぱあっと輝く。
「はっ、はじめまして! といいますっ。」
彼女のそんな様子を見て、耀の表情も和らいだ。
「ほれ、お前らも自己紹介するある。今日はがいるから説教はパスしてやるあるよ。」
「オレは朝鮮、勇洙なんだぜ!」
「香港。みんなは香って呼ぶよ。よろしくね、。」
勇洙と香の友好的な雰囲気にがほっとし、「こちらこそ……」と言いかけた時。
「ヘンなのっ。」
湾が言った。耀や菊、はきょとんとする。
「あんたさあ。」
「はっ、はい?」
湾はじろっとを睨む。
「にーに達みたいな国でもなければ、私や香ちゃんみたいな地域でもないのよね? なんでここにいるの? 本気で
もやもやした感情をキツい言葉にして言い捨て、湾はそのまま部屋から出て行った。
「なっ……台湾!? ちょっと待つある……ったく。」
「明さん、台湾さんはどうしたんですか?」
「分からんある……確かに気は強いあるが、あんな言い方するなんて……。」
年長者二人が困ったような怒ったような様子で話す中、勇洙と香は今にも泣き出しそうなのそばへ言った。
「、ごめんね。湾がキツいこと言って。」
「泣いちゃダメなんだぜ! 湾はちょっと拗ねてるだけで、を嫌ってるワケじゃないんだぜ!」
「……そ、そうでしょうか……。」
不安そうなを、二人は必死で励ます。
「あのね、初めて明兄さんから“新しい
香が言ったのは真実。勇洙もこくこくと頷く。
「……そうなのですか?」
「そうだよ。でも人間だって知って、“人間って、50年ぐらいでいなくなっちゃうじゃない”…って。」
「え? 人間って……。耀にぃにが言ったですか?」
「え?」
三人はしばしきょとんとしていたが、は何か感づいたらしく、「湾ちゃんを探してきます!」と、部屋を出た。
「なによ……人間なんて、すぐにさよならしちゃうじゃない。」
長い廊下の一番端の物陰で湾がぼそっと呟いた時、別な声が聞こえた。
「あ…湾ちゃん。ここにいたのですね。」
「……な、あんたなんでここに……。」
がすとんと隣に座り、湾は反射的にずりずりと離れた。
「湾ちゃん、何か勘違いをしているようなのです。」
「……何のこと?」
「私は確かに国でも地域でもないですが、人間でもないのです。」
「……は?」
湾は訝しげにを見たが、睨んではいなかった。
「私は妖怪なんです。」
「妖…怪……?」
は頷く。
「あ、怖くないですよ。私は妖怪の力がほとんどないですから……。人間と違うのは、長く生きられることぐらいです。」
“長く生きられる”という言葉に、湾が反応を見せる。
「わ、私…嬉しかったの。にーに達は優しいし、朝ちゃんや香ちゃんといるのも楽しいけど、ねーねとか妹とか、女の子の友達ほしいなって思ってた。」
ゆっくりと、湾は話し始めた。
「だけど私達とは違う存在だって明のにーにから聞いて、てっきり人間なんだと思って。仲良くなってもすぐいなくなっちゃうって……。」
そう。湾はそれが怖かった。
見た目は子供だが、生きてきた時間はすでに人間より長い。
以前仲良くなった友達も、彼女を置いて年を取り、死んでいった。
同じ悲しさや寂しさが増えるだけだと思った。
「いなくなりません。私達妖怪は、力を持つ人に退治されない限り、死にません。」
「……、ごめんね。ごめんなさい、ヒドいこと言って……。」
ぽろぽろ涙を流して謝る湾の手をはそっと取った。
「私も女の子のお友達、ずっとほしかったです。よろしくです、湾ちゃん。」
「よかったですね、一時はどうなるかと……。」
「まったくあるよ。」
と湾の様子を、少し離れた場所から四人がほっとした表情で見ていた。
「ね、朝鮮。」
「何だぜ?」
「……これからさ、もっともっと楽しくなりそうだね。」
「おう!」
亜細亜いいよ亜細亜。捏造サーセン、でも反省も後悔もしてない、踏鞴は萌えが何より大事!
ちょっと補足→→菊が「年も近い〜」って言ってますが、精神年齢とか体の大きさとかその辺が一緒だと思ってくださいまし。