「ベラ……ありがとう。本当にそばにいてくれる?」
好き。好き。好き好き好き好き。
兄さんが大好き。
「イヴァンさんにナタさん、こんにちは。お久しぶりです!」
「こんにちは、ちゃん。」
嫌い。嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い。
あの子が大嫌い。
アジアの外れにあるちっぽけな国(確か日本)の妹分のあの子。
確か妖怪か何かで私達とは違う存在。
なのに兄さんはあの子を見ている。認めたくないけど、真実。
「ー! この間くれたOHAGI、美味しかったんだぞ!」
「本当ですか? お口にあってよかったです!」
「いいな、アメリカさん……。」
「トー君にも今度差し上げますね。」
「え、本当ですか!?」
「はい。いっぱい作りますからフェリ君やライ君、エド君もどうぞ。」
「さっすが、気がきくしー。」
「わぁ、嬉しいです……。」
「楽しみにしていますね。」
あの子と何人かの声が聞こえてくる。
いつもああだ、あの子は誰にでもいい顔をする八方美人。
「私なら……。」
私なら、兄さんしか見ない。今も昔も、兄さんしか見ていない。
なのに何故、兄さんが見ているのは私じゃなくあの子なの?
「ベラちゃん?」
名前を呼ばれて振り向いたら、ウクライナ姉さんがいた。
「姉さん……。」
「何かあったの? 顔色、よくないよ?」
「何でもない。」
何となく顔を見られたくなくて、姉さんから顔を背ける。
「ベラちゃん……何かあったらいつでも相談してね。お姉ちゃん貧乏だけど、頑張るからね!」
相談してどうにかなる問題じゃない。
どうしたら兄さんが私を見てくれる? なんて聞いても、姉さんは困るだけで何も言ってくれないでしょ?
何も言わない私を諦めたのか、姉さんは「じゃあまたね。」と言った。
そしてそのまま立ち去った……と思ったのに。
「あら、ちゃあーん!」
姉さんが私のすぐ後ろで、あの子の名前を呼んだ。当たり前のように、あの子がこっちへ来る。
「ライナさん、こんにちは! ナタさんも、お久しぶりです。」
「こんにちは、ちゃん。ほら、ベラちゃんも。」
姉さんが私に挨拶を促す。
嫌だ。振り向いて挨拶なんて嫌。
兄さんに想われているこの子を見るのは嫌。
私はそのまま走ってその場を離れた。
「あ、ベラちゃ〜ん……行っちゃった……。」
ライナさんが申し訳なさそうにしてます……。
前々からうっすら感じていましたが……
「やはり、私はナタさんに嫌われているのでしょうか……。」
「や、やだ! そんな事ないよ、ベラちゃんはえーと、その……あ、あれ! 前ちゃんが教えてくれた“つんでれ”なの!」
「違うと思います……。」
ですがライナさんが私を励ましてくれようとしている事、すごく伝わります。
「ありがとうございます。」
ナタさんが私に対して怒っているのは、私とイヴァンさんが仲良いからでしょうか。
それとも他に、何か理由があるのでしょうか……。
少々ヤンデレの気がありますが、とても一途で純粋なナタさん。
仲良くしたいのですが、どうすればいいのか私には分かりません……。
ですが嘆いてばかりはいられません。
怒られるかもしれませんが、ナタさんに私の気持ちを話してみましょう。
一体あの子の何が兄さんを惹きつけるんだろう。
私があの子のようになれば、兄さんは私を見てくれるだろうか。
だが兄さんへの愛情表現なら私が誰より優れているはずだ。
「あ、ナタさん。」
あの子の声が私の名を呼んだ。
なぜ、こいつがここに?
「ナタさん……あの、私に何か至らない点があるのでしたら教えてほしいのです。私、ナタさんとも仲良くしたいのです。」
やめて。
この子がそうやって誰にでもいい顔をするから、兄さんがお前ばかり見るようになってしまった。
「至らない点……。」
お前なんかお前なんかお前なんか大嫌いだ。
「至らない点は、お前の全てだ。」
この子から(私にとっては不快でしかない)笑顔が消えた。
「お前なんか大嫌いだ。誰にでもいい顔をして、私から兄さんを奪う。」
「ま、待ってくださいナタさん。奪うなんて私そんなつもり……。」
「うるさいっ!!」
あ。
珍しく大声で怒鳴ったからか、立ちくらみがした。
私の名を呼びあの子が伸ばした手を払ったところで、意識が急に途絶えた―――
「…シ、ベラルーシ?」
兄さんの声が聞こえる。兄さんが私を呼んでいる。
「ああ、よかった。気が付いたんだね。」
兄さん……兄さんがいる。
辺りを見回すと、ここが会議場の休養室だと分かった。
「ベラルーシ、貧血で倒れたんだよ? ちゃんが慌てて僕に教えてくれたんだ。」
あの子の名前が兄さんから出た。それだけで気分が更に悪くなる。
「まだ万全じゃないみたいだね……僕ここにいるから、もう少し寝てたらいいよ。」
「え……。」
今兄さん、なんて言った? 私のそばに、いてくれる……?
「ちゃんが教えてくれたんだ、ベラが寂しがっているって。あの子はいつも僕たちみんなを見ているから、そういうの、すぐに気づいてくれるよね。」
――ああ、やはりあの子の言うことは聞くのか。私が何を言っても、いつも逃げるのに。
「ちゃんにお礼言わないとね。」
やっぱり大嫌い。あの子なんか大嫌い………。
「やっぱり顔色も悪いね……気づいてあげられなくてごめんね、今日はそばにいてあげるからね。」
大嫌い、なのに、嫌いになりきれない。
だってたとえあの子のおかげだとしても、兄さんが優しい言葉を私にかけてくれているから嬉しいんだもの……。
注意報のわりにヤンデレじゃない気が。怖い面より一途な面を前面に押し出してみました。