1 青空と笑顔
「今日もいい天気!洗濯物が乾くぞー。」
初夏の日曜日。あたし、美月はマンションのベランダから空を見上げている。
「空の色、綺麗!宿題も無いし、たまには散歩にでも行こうかな。」
やちると円香は部活でいないし、1人で近所をぶらぶら歩こうっと。
「……お姉ちゃん、元気かなぁ。」
ふと、沖縄にいる葉月お姉ちゃんの顔が浮かぶ。
『美月ー!今日も綺麗なお空だよ!』
『ほんとうだー!おねえちゃん、きょうもいいことあるかな?』
『もちろん、きょうも楽しい事でいっぱいになるよ。だってお空が綺麗だもんね。』
……まだ掃除機かけてないし、そろそろ帰ろうかな。
「あれ?誰だろう。」
家に帰ったら、丁度電話が鳴り始めた。
「もしもし。」
『美月?』
「…お姉ちゃん!」
電話の相手は、なんとお姉ちゃん!
「久しぶり、お姉ちゃん!どうしたの?」
『いや、最近電話してないし、どうしてるかなって思って。美月、元気そうね。後の3人は?』
「お兄たち?相変わらずだよ、3人とも。」
『ははっ、やっぱりね。』
「お姉ちゃんは?赤ちゃん、元気?」
『うん、順調みたい。あたしラッキーなんだ。つわりほとんど感じないの。』
「へえ。産まれるのは来年だったっけ?」
『うん、来年2月ぐらい。産まれてすぐは無理だけど、落ち着いたらそっちに行くからね。』
「………うん!!」
嬉しい。お姉ちゃん、赤ちゃん産まれたら、会いに来てくれるんだね。
……お姉ちゃんも赤ちゃんと一緒に頑張ってるんだ。
「さ、掃除機かけよう!」
あたしも頑張ろう!
2 遊ぼう!
――人生最初の会話が何だったかなんて、もちろん覚えていないけど。
あたしの記憶に残ってる、円香・やちるとの一番古い会話はこれなんだ。
『あそぼー。』
『いいよー。』
保育園のとき、多分4歳ぐらい。赤ちゃんのときからずっと同じ保育園で過ごして、お姉ちゃんやおばちゃんたちが言うには、2歳ぐらいの時にはすでにしょっちゅう一緒にいたみたい。多分そのときは、2人が先に何かで遊んでいて、そこにあたしが加わろうとしたんだと思う。
「美月ぃ〜!」
「あ、やちる!円香も、お帰り!」
ベランダで洗濯物を取り込んでいたら、下の歩道からやちるが叫んだのが聞こえた。横に円香もいる。2人とも、多分部活帰り。
「美月、洗濯物のキリがついたらちょっと降りてこれない?」
「今日ね、部活の前にテニス部の何人かでちょっと面白い遊び発見したの〜!3人でやりたいなって思って〜!」
「わあ、いいね!遊ぼう!」
そのやりとりを聞いていたやちるのおばちゃんに、
「3人は今でもやっぱり一緒に遊んでいるのね、見てて微笑ましいな。」って言われた。
「あ、美月。来た来た。」
「お待たせ!」
「じゃあ〜、まずやり方だね。簡単なんだよ、あのねぇ……。」
中学生になってから一緒に入れる時間は減っちゃったけど、それでもやっぱりこうやって一緒に遊ぶ事が楽しい。
「あー、楽しい!結構はまるわね、コレ。」
「でしょでしょぉ〜。また3人でやろうよ!」
「うん、また遊ぼう!」
そしてあたし達は、それぞれの家へ帰っていった。
3 今はまだ小さな手を引いて
「おねえちゃん!」
「美月、お待たせ!先生、ありがとうございました。」
今日も学校の後保育園に妹を迎えに来た。
「おねえちゃん、今日の晩ごはんはなあに?」
「今日はね、美月と秋羅の好きなお肉炒め!」
「やったー!」
ちなみに、私青山葉月はこれでも花の女子高生。まあ、もうすぐ卒業なんだけど。
「おねえちゃん、あたし卒園式で綺麗なお洋服着れる?」
美月が聞いてきた。
「着れるよ、お父さんとお母さんがくれたお年玉があるでしょ。」
「わーい!ワンピースがいいなー。」
そっか、美月も保育園を卒園するんだ。春からは私は短大だし、美月は小学校。
こうやって一緒に家に帰ることも無くなるのかな…。
「美月。」
「なにー?」
「小学校楽しみ?」
「うん!」
「そっか。」
少し寂しいけど、しょうがないんだよね、きっと。誰だって永遠に小さいままじゃないんだから。
まあ、後少しの“2人の帰り道”を楽しんでおこうっと。
4 身長のハナシ
「いいなー、円香ちゃん。」
「え?」
それは去年の身体測定時のエピソード。
「何が? ひーちゃん。」
「身長高くって。」
ああ……そういう事ね。
私、八城円香は身長160cm、クラスで大きい方から2番目。
一方この子、高槻ひなは身長……分からないけど、クラスで小さい方から2番目。
「あたし、前測ったときから7mmしか伸びてないの……このまま止まっちゃうのかなぁ。」
「気にし過ぎよ。前測ったのって、6年生の1月じゃない。」
「……じゃあ、円香ちゃんはどれくらい伸びた?」
う。実は今、成長期らしいのよね、私。答えにくいけど、正直に……。
「4cm。」
ああ…ひーちゃん、泣きそうになった。
「私はたまたま成長期だったからよ……ひーちゃんだって、これから伸びるかもしれないわよ。」
「そうかなぁ……。」
――そして1年後、また身体測定の時期。
「円香ちゃん、聞いて聞いて!」
「ひーちゃん。」
クラスが遠くなったから、わざわざひーちゃんが私の所まで来るのは珍しい。
「どうしたの?」
何だか凄く嬉しそう。
「身長ね、すごい伸びたんだ。138cmだったのが、145cmになったの!」
「へえ!」
なるほど、ひーちゃんは私より成長期が遅かったのね。
「よかったわね。」
「うん!」
ひーちゃんは本当に嬉しそうで、なんだか私まで嬉しくなった。
5 消えた風景
「あれ?」
昔通った保育園に向かうこの道を通ったのは本当に久しぶり。
保育園の向こう側に新しく出来た美容院は安くて上手って評判だから、行ってみることにしたんだけど。
あたしの足は、美容院に着く前にある看板の前で止まった。
「マンション、建つんだ……。」
空き地がぐるっと“立ち入り禁止”で囲ってあって、大きなマンションの完成予想図が描いてある看板がたっている。
この空き地で保育園のとき、よく遊んだっけ。
広いからいくらでも走り回れるし、春にはたくさんの花が咲く。
かけっこにままごとに草花遊びに……遊具がなくても遊びはいっぱいあったっけ。
「夏から工事か……。」
子どものころ遊んだ景色が、知っている風景が、全部マンションの下敷きになって消える。
やがてみんな、ここが空き地だったことも、子どもたちの大事な遊び場だったことも、忘れてく。
「なんだか、寂しいな……。」
だってね、少し、ほんの少しだけど、思い出まで消されそうな気がしたの。
6 俺と美月
小学校五年生のある日――
「おい、桜井!」
「なんだよ?」
昼休み、俺―桜井裕は隣のクラスの船坂に話し掛けられた。
「お前青山と仲いいよな?」
「美月? おう。」
青山美月は船坂と同じクラスの女子で、俺にとっては友達。友達だから普通に仲もいいし、だからそう答えたのに。
「うわー、“美月”だとよ! 下の名前で呼んでやんの! カップルだー!」
「はあ!?」
ちょっと待て、なんで“名前で呼んでて仲がいい”ってだけでカップルになるんだよ!?
「男子が女子のこと下の名前で呼ぶってのは、ラブラブってことだろ〜。」
「ちげーよ! 俺と美…青山は友達!」
「おお、ガールフレンドだ!」
違うっつってんのに!
俺らがお互いを名前で呼ぶのは一年生の頃からだし、その頃クラスには他にも名前で呼びあう奴らはいっぱいいた。
高学年になっていきなり呼び方変える方が変じゃんか。――って言ってやりたいけど、こいつ絶対聞く耳持たねえ!
「あれ、裕。何してんの? 昼休みに運動場行ってないなんてめずらしー。」
…で、なんでこんな最悪のタイミングで美月が来るんだよ!
船坂がめちゃくちゃニヤニヤしてる。やめろ、笑うな。からかうな。
「バカ青山! 俺に話しかけてくんじゃねーよ! 俺別にお前と仲良しじゃねーし!」
――気が付いたら、俺は美月にひどいことを言っていた。
美月がびっくりして泣きそうになっていることに気が付いたけど、俺は見ないふりしてその場から逃げたんだ。
それから五年生が終わるまで、俺は美月としゃべらないようにしていた。
またからかわれるのが嫌だったし、何より罪悪感がすごかった。
だけど美月から話を聞いたらしい友達の八城や鈴本に怒られたし、五年の終わりに船坂が転校してからかわれる心配がなくなったのもあって、俺は美月に謝ることを決めた。
「……おい、美月。」
ごめん、もうひどいことは言わない。俺は美月の友達だから。
○お題配布元○
サイトURL(このページで使用したお題)
http://charles.maiougi.com/(青空と笑顔・遊ぼう!)
http://starrytales.web.fc2.com/(今はまだ小さな手を引いて)