「ダイゴさん、お見合いするんですか?」
「何で知ってるの!?」
平和なある日の昼下がり。の問いにダイゴはひどく動揺した。
「この間ミクリさんに会って聞いたんです。」
「ミクリめ……。」
たとえロリコンと言われても、ダイゴがを好きなのは真実。
そのに自分が見合いする事を知られるのは何となく避けたかったのに。
しかし今更否定しても無駄だと彼には分かっていた。
「……うん、まあね。父……というかその周りの人達の勧めでさ。」
社長令息の癖にチャンピオンで石マニア(これは遺伝だが)で放浪癖のあるダイゴ。
嫁さんもらって家庭を築いたら少しは落ち着くだろう、という考えのもと重役たちがセッティングした。
「すごいですね…何だか大人! って感じ! 相手はどんな人なんですか?」
10代の女子は大体こういった話題が好きだが、も例外ではないらしい。
そしてそれはダイゴを落ち込ませる。
「んー……何て言うか、まあ綺麗な人だったよ。」
あくまでも写真は。厚化粧で元の顔が分からないが。
「……その割にはあんまり嬉しそうじゃないですね。」
「あんまり気乗りがしないんだよね。」
「えー、何でですか?」
(恥ずかしくて言えないよ、君が好きだからなんて。)
ダイゴはヘタレだった。
「いつなんですか? お見合い。」
「今度の日曜日、ミナモホテルで。」
「そうなんですか……でも頑張ってください、万が一失敗しても次がありますよ!」
――子供の無邪気さ、純粋さは時に鋭利な刃物となる。
「はは……ありがとう、慰めてくれて。」
(だから、見合いする事そのものが嫌なんだってば……。)
元々低かったテンションが地に落ち、ダイゴは力なく笑った。
「あ。そういえば今日だっけ、ダイゴさんのお見合い。」
ポケモン交換のため立ち寄った家のテレビに日曜朝の定番、“でんねず戦隊ピカレンジャー”が映っている。
「どんな人なんだろう……見に行ってみようかな。」
子供独自の好奇心に、女性独自の好奇心も加わっている。
「ありがとう、じゃあね。」
「うん、バイバイ。」
交換相手の少女に別れを告げ、はそらをとぶを使った。
一方こちら、見合い会場。
「……で、こちらがコガネ銀行の頭取の娘さんで、ノバラさん。」
「はじめまして、ツワブキさん。」
「ど、どうも。」
目の前の女性――ノバラに続いて、ダイゴもお辞儀をした。
「では、後は若い人だけで……。」
「ええ、そうですね。」
「……って、ちょっと…」
「では、我々は退散致しますので。」
ダイゴの声は見事に息のあった中年二人の声と襖の音にかき消された。
(そういうセリフって……こんな早く発せられるものなんだ……。)
戸惑いながらの食事中は、ほとんどノバラからの会話に支えられていた。
「…ツワブキさんは普段から無口でいらっしゃるのですか?」
「あ、いえ……すみません、えーと、緊張してて。」
「まあ。」
くすくすと笑うその姿は、同僚のプリムを思い出す上品さがある。
(見た目は派手だけど、いい人だな。ちゃんの方が可愛いけど。)
「食事が終わったら、庭でもお散歩しませんか?」
「ああ、いいですね。」
「ここだ、お見合い会場。」
一方はホテルの庭に降りた。
「レストランのフロアぐるっと回っていなかったから、ごはんは終わってるよね?」
この庭は利用客以外も自由に入る事が出来、今も子供が二人かくれんぼをしている。
なのでがいきなり空から現れても誰も咎めないため、ダイゴの様子も見やすい。
「あ、いた。」
ダイゴの隣に、少し派手だが確かに綺麗な女性がいる。
「うわぁ、綺麗な人だぁ。」
二人が並んで歩いている様子はまさに、初々しいカップルそのものである。
(ダイゴさん、楽しそう。隣の人も。)
の表情はいつしか真剣になっていた。
(もし、ダイゴさんがあの人と結婚したら……もう私と遊んでくれたり、ポケモンのこと教えてくれなくなるのかな。)
心をふっと不安がよぎる。
とたんに二人を見ていられなくなり、は再びそらをとぶでその場を去った。
「ふう。」
お見合いから数日後、ひみつきちでぼうっとしていた時、のポケナビが鳴った。
「ひゃっ!」
驚き慌てて電話をとると。
『あ、もしもし〜。僕だよ、ダイゴ。』
「ダイゴさん……。」
『今ひみつきちの近くまで来てるんだけど、会えるかな。ちゃん今どこにいるの?』
「あ、今ちょうどひみつきちに……。」
『本当かい? なら行ってもいいかな。面白い本見つけたから、見せたいんだ。』
「わあ、楽しみです!」
ダイゴの声は嬉しそうに感じられ、お見合いが上手くいったのかとはどきどきする。
「こんにちはー、ちゃん。はいこれ、出張みやげ!」
「わぁ、ありがとうございます……やった、カントーマフィンだ!」
早速中身を取り出し、1つほおばる。
「……ねえダイゴさん。お見合いってどうだったんですか?」
気になることはずばりはっきり聞く。それができるのも、子供の特権。
「ん? ああ、“また会いたい”って言われたけど、お断りしたよ。」
「……え!? なんでですか? あんなにきれいな人…それにすっごくいい感じだったじゃないですか。」
「え?」
ダイゴがきょとんとしたのを見て、は自分が墓穴を掘ったことに気がついた。
「何で知ってるの? ちゃん。」
「………ご、ごめんなさい。気になって、こっそり見に行っちゃいました……。」
「なんだそうか、びっくりした。」
「ごめんなさい…。で、えーと……その…。」
「ああ、何でお断りしたか? それはね、内緒。ちゃんがもう少し大人になったら教えてあげるね。」
いたずらっぽく笑って、ダイゴはそういった。
「え…えー! 何ですかそれ、気になるー!!」
口ではそういいながらも、どこかでほっとしている自分がいることにはうっすら気づいていた。
子供の特権=だってもしミクリやゴヨウが見合いしても、ヒロイン達はこんなに色々ずばっと聞けないと思うんだ(片思い時代)。