約束


「あれ、半ちゃんも教職取るんだね。」

「……てことは、もか?」

四年生の土井半助とは友人同士。

決まったばかりの来年度の時間割を見ながら、2人は食堂で話をしている。

忍術学園の生徒には、学園の教師を目指す者も毎年十数人程度いる。

その為には忍者としての知識だけではなく、教師力などももちろん問われる。

だから、五・六年次には忍たまくのたま合同の教職課程科目が開講されるのだ。

「すごい、見事に授業被ってるね。」

「相談した訳でもないのにな。」

お互いの時間割を見せ合いながら、しみじみと言う。

「だけど、が先生ってなんだか納得出来るな。」

「え、そう?」

「うん。だって、年下相手は慣れてるし、委員会とかの後輩指導するのも上手いだろ?」

「へへ、まあね〜。」

には年下の兄弟や従兄弟が大勢いる。

長年培ってきた“お姉さん”な雰囲気を後輩達も感じるのだろう、

はよく火薬委員会の下級生と遊んだり、くの一教室の後輩の相談に乗ったりしている。

「でも、あれだよね。半ちゃんと同じ教室で授業受けるなんて、変な感じ。」

「そういや今までもくの一との合同授業はあったけど、私とが同じ授業取るのはこれが初めてだ。」

「やったぁ、宿題教えてねっ。」

「おいおい。」

2人の出会いは、忍術学園に入学した日。

入学手続きの列でが前にいた半助に話しかけたのが最初だった。

その後偶然同じ委員会に入った事で再会しそれから四年間、何かと行動を共にしてきた。

性別の違いなんて関係ない、お互いがお互いの特別な存在。


「半ちゃん、そっち行った!」

「まかせろ! たあっ!」

学園の片隅で半助ががしっと掴んだのはウサギ。

「おー、お見事。」

「生物委員長の塚口先輩、ウサギ捕獲と教職って何の関係が……。」

本日は生物委員長の特別授業。

「何言ってるんだい、土井半助に。ここの教師になるって事は、委員会顧問になる可能性だって充分あるだろう?」

「はあ、まあ……。」

「だから今からこうやって慣らしとくのさ、生物の捕獲にね。」

「そういうもんですかぁ?」

、そういうもんだ。よし、このウサ郎で逃げたヤツは全部だな。」

ウサ郎を小屋に入れる塚口の後ろで2人は囁く。

「……ね、半ちゃん。塚口先輩ってただ楽したかっただけなんじゃ」

「うん、私も思った。」

「何か言った〜?」

「なんでもありませーん。」

声を揃え、言った。

「しかしあれだな、あんたら2人の評判は本物だったな。」

「評判?」

「ああ、上級生の間でも話題だぞぉ。忍たまとくのたまのペアなのに、凄い息の合った2人がいるってな。」

「あ、ありがとうございます!」

今の六年はこの塚口も含め、あまり後輩を口に出して誉めない。

2人は一瞬驚き、そして塚口が去った後、

「やったぁ!」

と、手を叩き合った。


そして時は流れ再び学年が変わる時期、2人はある決まりを知った。

「“学園の教師を希望する者は、五・六年次に教職課程を取り、卒業後最低三年プロ忍者として働く事。”だって。半ちゃん、知ってた?」

「いや、この資料見て初めて知った。でも、確かにそうだよな。プロとしての経験少なかったら大した事を教えられない。」

「まあね〜。先生の勉強と就活かぁ。忙しくなりそう。」

2人をはじめとする教職課程履修者は、授業の空き時間や(たまに)休日に必修の授業が入る。

他の者は大体その時間を利用して就活するため、教職組は不利になるのだ。

「まあ、お互い頑張ろう。」

「……そだねー。」

お互い何も言わなかったが、この日かすかに“離れ離れ”を意識した。


“かすかな意識”が“実感”になったのは、それから数ヶ月後のこと。

「半ちゃん、私も決まったよ、就職!」

「やっとか! おめでとう、ほっとしただろ。」

「うん、このまま決まらなかったらどうしようかと思ったー。」

が内定をもらったのは小さな城の情報収集役。

小さい割に恵まれた環境にあるため悪い城に狙われる危険性があり、周辺の情報を常に必要としているのだ。

一方半助はよりだいぶ早くに、貴族の家の用心棒として就職が決まっていた。

そう。

評判の二人も、離れ離れになる。


それから更に数ヶ月、卒業式の日。

「半ちゃん。」

は半助に声をかけた。

半助は式が終わってからずっと長屋を見つめている。

半助にとって学園は家であって、家族。

自分や他の同級生以上に寂しく不安なことは容易に想像出来る。

「半ちゃん。」

もう一回呼んだ。

……。」

半助はようやく振り向いた。涙を必死で我慢している、そんな表情で。

「半ちゃん、約束しようよ。生きてまた会おう。三年後にこの場所で。」

どんな危険な任務でも最低限の安全が保たれていた学園を離れて、社会に出る。

だけど三年頑張れば、またこの場所に戻ってくることができる。

「……そうだな、また会おう。」

「「絶対。」」


――そう、少しの間離れるだけ。

絶対、また会えるから。


それから三年後の春――。

はあの日より少し大人びた、でも変わらない懐かしい友の姿を見つけた。懐かしい場所で。

彼の名前を呼ぶと、相手はゆっくり振り向いた。

話したいことはたくさんあるけど、とりあえず――

「「……ただいま。」」


いろいろ捏造サーセン。ちなみに「塚口」も尼崎の地名です。

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