「ここが、忍術学園……。」
戦で亡くなった両親が生前言っていた。忍術を学べば強くなれると。
少年――土井半助は決意を胸に門をくぐった。
半助は教師らしき人間に促され、受付の列に並ぶ。
(忍者の服着てるんだ……どうしよう、緊張してきた……。)
忍術学園の一員になる、忍者のたまごとしての一歩を踏み出すことを実感した。
これからここで学び、暮らす。知り合いもおらず、たった一人で――。
「新入生ってさ、結構たくさんいるんだね。」
半助の後ろにいた少女が肩をぽんと叩き話し掛けてきた。予想していなかった出来事なだけに少し驚く。
「う、うん。」
「私、。あんたは?」
の言葉遣いはややぶっきらぼうな印象だがその表情は人懐っこい笑顔で、半助の緊張は自然と和らいだ。
「…土井半助。」
「半助……半ちゃんか。男子と女子はクラス違うけどよろしくね!」
「うん。」
それが、結局長い付き合いとなる二人の出会いだった。
「。」
クラスも違う。教室の場所や忍たま長屋も離れている。にもかかわらず食堂などでばったり会う機会が多かった。
さらに全くの偶然だが同じ火薬委員会に所属することとなり、必然的に二人は“知り合い”から“友人”へとなっていった。
「半助ってさ、あのくノ一とえらく仲がいいよな。」
“くノ一は怖い”という認識はどの一年生もすでに持っていたため、不思議そうに尋ねる級友も何人かいた。
だが、この日そう言った彼は少し様子が違っていた。
「は同じ火薬委員会の友達なんだ。気さくないいやつだよ。」
「バカだなー、男と女は友達になんてなれないんだぞ。」
見下されるような態度に、普段は温厚な半助もカチンとくる。
「なんでだよ、友達に男とか女とか関係ないだろ! 現に私とは友達なんだぞ。」
「今はそれで良くてもさ、大きくなったらそうはいかないだろ。忍者の三禁に“女”ってあるんだぞ。」
「え……。」
要は、忍者は大人になったら女とは距離を置かなければならない。
だから半助ともそのうち友達でいられなくなる、という(一応)助言。
その言葉はインパクトが大きくて、半助は思い悩むこととなった。
結婚している忍者が多くいることに気付かないまま。
半助の悩みなど知るよしもなく、はいつも通りあっけらかんとしている。
「明後日委員会全員で在庫確認をする予定だったけど、委員長が急遽学外実習入ったから延期って。」
「そうか、分かった。」
「ねぇ、提案なんだけどその日町へ出ない? くノ一の友達がおいしい甘味所見つけたんだって。」
「へえ……」
二人で出かけたことは今までもあるし、二人とも甘いものは好きな方だが。
「……悪いけど、宿題がたくさん出てるんだ。」
「そっか。じゃあまた別の機会だね。」
「ああ、うん……。」
――ごめん、本当はもう宿題なんて終わってるんだ。
「あ、半ちゃん……。」
何となく気まずくなり、半助はその場を離れた。
「半助、ため息デカすぎ。テスト勉強進まないからって、俺のやる気までそぐなよな。」
「あ、ごめん。」
テストよりも、半助の気掛かりはのこと。
気まずさは今だ無くならず、が話し掛けようとしていることに気付かないフリをしたこと数回。
誰かに相談しようにも、以前友人から言われた言葉が引っ掛かって口にしにくい。
かといって、自力で解決出来るならこんなに悩んでいない。
――ああ、私って強くないなぁ……。
強い男になりたかった。何にも負けない心が欲しかった。
思考はあっちへこっちへ行ったり来たり、勉強が手につかない。
「てかさ、そんなあれこれ悩んで何も出来ないくらいなら謝ってきちゃえば?」
「……え?」
「分かるよ、半助見てたら。と喧嘩でもしたんだろ。」
この友人はが元気のない様子もばっちり見ているため、推理には自信がある。
「喧嘩っていうか……忍者の三禁に“女”って……。」
「それ気にした結果勉強が手につかないって本末転倒じゃん? だったら今まで通り仲良くして、その上で勉強も頑張ればいいんだよ。」
「あ……それもそうか。」
気付いたなら善は急げ、半助は忍たまの友を置いて立ち上がる。
「早くしないと、くノ一達の噂になったら怖いぞ。“土井君、を落ち込ませたわね!?”なーんて。」
「脅すなよ!」
もちろん、そんな脅しなどなくてもすぐに謝る。何も変更がなければ、今日は今頃食堂当番のはずだ。
食堂からはの声が聞こえてきた。扉を開け、その名前を呼ぶ。
「半ちゃん?」
「、最近その…あんまり話せなくてごめんな。私が色々気にしすぎて……でも、私とは友達だから! これからも嫌わないで、仲良くしてくれるか?」
つたない言葉をつむぎだして、精一杯の気持ちを伝える。
「…当ったり前じゃん! 最近何かあったのかなーとは思ったけど、気にしてないよ。」
その言葉に半助が顔を上げると、目の前にあったのはのいつもの笑顔。
「……前行けなかった甘味所、今度の休みに行こう。」
「うん、約束ね。」
「新入生の受付はここでーす。名前を言って入学金を支払いなさいー。」
「あ、半ちゃん!」
「あ、半ちゃん。ちょうどよかった、火薬委員会の先輩から伝言預かってんだ。」
「はあ〜……。」
「!」
はてさて、これにて一件落着。
基本真面目なとことかいざというときは怒るとことか、25歳土井先生と10歳半ちゃんが違いすぎないよう努力はしました。