「ああ〜……恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい………。」
先日ゴヨウが来た日から、はずっと一人、今のように“恥ずかしい”を連呼していた。
彼女の頭の中では、“その日”の会話がもう何度目か分からないくらい繰り返されていた。
――なんで?泣きたい時は我慢せずに泣いたらいいと思うよ?
――………いや、それはちょっと………。
――恥ずかしいの?
――大丈夫、恥ずかしくないようにしてあげる。
――いっしょに泣いてあげるから。
「って、恥ずかしいよっ!」
あまりの恥ずかしさについ叫ぶと、階下から母親の声が聞こえてきた。
「ー?どうしたのー?」
どうやら、1階までさっきの叫びが聞こえていたらしい。
「な、なんでもないよ、お母さん!」
あわてて返事をする。
「そう?あんまり騒いだりしちゃだめよ、ただでさえ大人しくしてても熱出しちゃうんだから。」
「は〜い……。」
ああもう……と、彼女は布団に突っ伏す。
「はあ、何でこんなこと言ったんだろう、私…。」
時間を巻き戻せるなら戻したい。
(ああ、でもそうしたらゴヨウさんは悩み事を抱えたまま……。)
『………もう一回修行してくるんだ!』
(……あれ?昔の私がいる……。)
『まあ、頑張ってください?』
(あ。ゴヨウさんだ……。)
『……うん!』
(そうか、これ、夢なんだ。最後にゴヨウさんに挑戦したときの夢……。)
夢の中の昔のはゴヨウと別れ、16歳ののほうに近寄ってきた。
「え、え?」
突然のことに戸惑う16歳のに、昔のは話し始めた。
『お兄さんがね、がんばってくださいって言ってくれたよ。』
「え、ああ、本当だね。」
『うん!あのね、あたしあのお兄さんにぜんぜん勝てなくて、ずっとがっかりしてたんだ。
やっぱりムリなのかなぁって思ってたけど、がんばってくださいって言ってもらえてうれしいの。』
屈託なく、本当にうれしそうに彼女は話す。
この後自分が重い病気にかかるとは、知る由もない。
「そうなんだ、よかったね。」
『うん、すっごく元気がでた!』
そういうと、昔のは後ろを振り向いた。
昔のゴヨウの姿はもうない。
『お兄さんは、あんまり元気がなさそうな人だったよね。笑ってなかったもん。』
「え……。」
『こんど会ったときは、あたしがお兄さんを元気にしてあげたいなぁ。』
(あ……。)
「あれ?」
気がつくと、昔のの姿はなく、16歳のがいつものようにベッドで寝ていた。
「ああ、寝ちゃってたんだ。あの夢……。」
夢の中に現れた彼女は、確かに昔の自分自身。
『こんど会ったときは……。』
「あたしが……お兄さん、ゴヨウさんを……元気にしてあげたい。」
そう、彼女が発した言葉も、確かに自分の言葉そのもの。
果たせなかった約束とともに心の奥に封じ込めた、小さな想い。
思い出とともに、の胸に戻ってきた。
「そっか、そうだった……。」
かつて、自分に元気をくれた人。
きっと向こうにはそんな自覚はなくて、適当に言った言葉だったのかもしれない。
それでも、その一言が彼女の救いになったと言っても過言ではない。
だから、自分に元気をくれたお兄さん――ゴヨウのことをいつか、自分が元気にしてあげたいと。
は再び、そう決意した。
コンコン、との部屋のドアがノックされた。
「どうぞー。」
お邪魔します、の一言で、彼女には来訪者が誰かすぐに分かった。
「こんにちは。」
「ゴヨウさん。こんにちは……。」
例のあの日以来会っていなかったからか、それともさっきまで彼のことを考えていたからか、
は少し気恥ずかしい気持ちになった。
「お久しぶりですね。最近はリーグの仕事が忙しくて、なかなかチャンピオンのシロナさんに休暇がもらえなかったんですよ。」
「そうだったんだ…。」
確かに、前回からは2週間ほど経っている。
ゴヨウが久しぶりの貴重な休日にわざわざ自分のもとに来てくれたのだと知ったは、素直に嬉しい気持ちになった。
「……ありがとう。」
その言葉を聞いたゴヨウは少し顔を赤らめたが、すぐに自分が持って来たバッグに目をやり、中をゴソゴソしだした。
「さん……その、甘いものはお好きですか?」
「え?はい。」
よかった、とゴヨウは呟き、に小さな袋を差し出した。
「よかったらどうぞ。その……シンオウでは結構評判のお店のクッキーです。」
「え?」
は一瞬びっくりしたが、
(ああ、お見舞いにわざわざ買ってきてくれたんだ。)
と理解した。
「ありがとう、ゴヨウさん。嬉しいけど、来る度にお見舞い持ってこなくてもいいんだよ?
私そんなの気にしないし……。」
四天王の一員であるゴヨウの生活が苦しいとは流石に思いもしないが、たとえどんな富豪だったとしても、
自分のもとに来る度に見舞いの品の用意をされるのは嬉しい反面、申し訳ない気持ちが生まれる。
しかし、ゴヨウの口から帰ってきた言葉は、の予想とは違っていた。
「え?ああ、いえいえ、違うんですよ。これはお見舞いではなく…まあ、それも兼ねているんですけど。」
「え?」
“その……”と、再びゴヨウは顔を赤らめながら、
「この間……励ましていただいたお礼です。」
この間と聞いて、例の会話を思い出したもまた顔を赤くした。
「そ、そんなお礼なんて。むしろ私変な事言っちゃったーって、恥ずかしいって思ってたのに。」
慌てて首を振る。
「だからお礼なんてされるような……。」
そんなの言葉を、ゴヨウもまた首を振り、遮った。
「あの日…あなたが私に言ってくれた言葉。あなたの優しさがいっぱいつまったあの言葉が、
私を癒してくれたんです。自分の罪が許された気がして……。だから、とても感謝しているんです。
このクッキーは、そのお礼なんですよ。むしろ私としてはこれじゃ足りませんかね?ってぐらいです。」
「ゴヨウさん………。」
半ば信じられなかったが、あの自分の言葉が、ゴヨウを癒していたということは……つまり。
「私、ゴヨウさんを元気付けてあげられた、って事?」
「そうですよ。」
ついさっき思い出した幼い頃からの小さな願いが、叶ったなんて。
「……ありがとう、ゴヨウさん。大事に食べるね。」
がそう言うと、ゴヨウは優しく微笑んだ。
この話かいててめちゃくちゃ思いました。
こいつら早よくっつけ、と。(書いてるのは私や;)
気合が入ると話が長くなる。(普段が短すぎ)