「こんにちは!」
「おお、こんにちは、ちゃん!ヒョウタさんならね、炭鉱に入ってすぐのところにいるはずだから!」
「はーい!」
オダマキ、14歳。
父の研究の関係で幼いころから野や山に出かけることが多かった彼女は、今では自他共に認める“探検好き”。
一ヶ月前に初めてここ、クロガネ炭鉱に足を踏み入れて以来、何回も彼女はここを訪れていた。
「あら、こんにちはぁちゃん。」
「おばさん、こんにちは!」
元々明るく人見知りをしない性格の彼女は、炭鉱夫や町の住人ともすぐに仲良くなった。
まるでずっとこの町で暮らしているかのような馴染みっぷりだ。
「ヒョーウーターさん!」
は炭鉱に入ってすぐ、炭鉱夫たちのリーダーである青年、ヒョウタに声をかける。
「やあ、ちゃん。こんにちは。」
「こんにちは!今日は探検しても大丈夫ですか?」
「うん、平気だけど……あちこちに穴が掘ってあるから、足元気をつけてね。それと僕は一緒に行けないんだけど大丈夫?」
「あ、大丈夫です!行ってきまーす!」
ぱたぱたと元気に駆けていく。
「あ、ああ!ちょ、走ったら危ない――って、行っちゃったよ……。」
ヒョウタが止めようとしたときにはすでにの姿は見えなくなっていた。
「はあ…まったく、素早いんだから。」
炭鉱とか洞窟とか山とか、とにかくそういった“探検場所”に来た時の彼女のテンションは最高潮になることを
ヒョウタはすでに理解していたため、落ち着いている。
「しょうがない、心配だから後で様子を見に行こう。さあ、そうと決まればさっさと作業を終わらせるよ!」
いつも以上にテキパキと炭鉱夫たちに指示を出し始めた。
「……ちゃんが来るといつも作業内容ハードになるよな…。」
とか言う会話を、炭鉱夫たちが行っていたとか。
「うわぁ、ここ初めて来る!うわぁうわぁうわあ!きゃーすごいすごい、楽しそー!」
炭鉱の奥――入り口から歩いて2、30分あたりの場所で、は目をキラキラさせていた。
「わあ、このデコボコ感すっごい!」
「へえ、この岩ツルツルしているんだ!」
「あ、水の匂いがする。どこかに水がたまってるんだ。」
他の同年代の少女が絶対興奮しそうに無い箇所で、は大いに興奮している。
彼女は気付かなかった。
はしゃいでいる自分の足元にある、深くはないが大きな穴の存在に。
「きゃああああっ!」
仕事を終わらせ、が通ったであろう道を進むヒョウタ。
「―今の声……。」
の悲鳴らしき声がかすかに聞こえ、ヒョウタは足を速める。
「ちゃん、どこだい?」
ヒョウタが彼女の名前を呼ぶと、彼の耳にかすかに自分を呼ぶ声が聞こえた。
「……ちゃん?」
「は……はいぃ………。」
あれから数分後、ヒョウタは穴に落ちたを発見した。
「僕、今日君に何て言った?」
「え、えーと。穴が掘ってあるから気をつけてって…。」
「…気をつけたけど、落ちちゃったの?それとも……。」
「ご、ごめんなさい。興奮しちゃって、足元よく見てなかった…です。」
ヒョウタはため息をつき、それからこう言った。
「ちゃん、しばらく炭鉱出入り禁止にしようかなー?」
「え…えええっ!?」
とたんには泣きそうな顔になる。
「……嘘だよ、半分。」
「……半分?」
「“1人で入るの禁止”。奥まで入りたいときは僕がついていく。今日みたいに無理な日は、他の誰かに頼むよ。それでいい?」
現金な事に、は一瞬で笑顔になって、
「はいっ!」
と答えた。
「約束だからね!」
「はい!」
「ほら、帰ろう。」
ヒョウタはを助け起こし、2人は並んで出口へ向かった。
ここまでヒョウタが保護者役になるってのも、
ここまでがドジっ子になるってのも、
ここまで甘くならないってのも、
当初まったく考えていませんでした。