「ヒョウタさーん。」
「やあ、ちゃん。」
ホウエンから、今日もがやってきた。
「今日は炭鉱での作業がないから、ちゃんについていくことが出来るよ。」
「わあ、やった!」
山や洞窟などの探険が好きなと、炭鉱のリーダーであるヒョウタは、
がヒョウタたちの作業場であるクロガネ炭鉱にやってきたことで知り合った。
興奮すると突っ走り、我を忘れるタイプであるは、ヒョウタに“1人で炭鉱に行ってはいけない”と釘を指された為、
今日はヒョウタと2人で炭鉱の探険へ行く。
「結構このあたりは足元悪いから、気をつけて。」
「はーい!」
「………聞いてる?ちゃん……。」
「はーい!」
「……聞いてないよね。」
「はーい!」
「……はぁっ……。」
思わずため息をつくヒョウタ。
は、さっきからきゃあきゃあ言いながら
「あの石がかわいい!」とか「このスペースでお昼寝したい」などと、すっかりテンションが上がっている。
「……まあ、いいか。」
また彼女が滑ったり穴に落ちたり、また炭鉱を破壊したりしないようここで見張っておけば大丈夫だろうと、
ヒョウタは彼女の近くに腰を落とし、少し休憩することに決めた。
「……あれ?」
「……あれ?」
が一通りあたりを見、眺め、堪能し、叫び、楽しんだ後で、自分の近くにヒョウタがいないことに気がついた。
「う、嘘……。」
“迷子”
の脳内にその単語が浮かぶのに、時間はかからなかった。
「どど、どうしよう……。ぽ、ぽんぽん!よんよん!ろんろぉーん!」
とりあえず、自分の手持ちポケモンのピジョット、ヨルノズク、キュウコンの3匹をボールから出した。
「ひょ、ヒョウタさんどこにいるか分かる?」
必死で冷静になろうとしながら、は3匹に尋ねる。
「ピジョッ。」
「ホー。」
3匹は少し考えた後、いっせいに奥を示した。
「そ、そっち?」
「……あのお……。」
涙も、呆れも、安堵感すらも湧いてこなかった。
の頭に今浮かんでいるのは、大きな疑問符。
たしかに、そこにヒョウタがいた。
「ヒョウタさん………?」
「ああ、何て可愛いんだ!この艶…この光沢…この色…この形!」
今発見したと思われる新しい化石を見つめながら、瞳がきらきらと輝いている。
が初めて見るヒョウタの姿だった。
「ヒョウタさん!」
さっきより少し大きめの声ではヒョウタを呼んだ。
と、ヒョウタはようやく我に返った。
「ごめん……。」
「だ、大丈夫ですよヒョウタさん。私、危ない事しませんでしたし。」
「本当に、ごめん!」
ヒョウタは落ち込んでいた。
が危ないことをしないように一緒に炭鉱に来ているのに、目を離して化石に夢中になっていたことに。
「僕、化石が大好きなんだ。仕事をしているときすら、新しい化石が見つかったらつい我を忘れてさっきみたいな状態になっちゃって………。」
バツが悪そうな表情で、ヒョウタは恐る恐る言う。
「はあ……。」
「今度からは、ちゃんと自分を抑えられるようにするよ……。」
これ異常ないぐらいのヒョウタの落ち込みようを目の当たりにし、
「ええっ、あの!」と慌てる。
が、あることに気付いた。
「あ…でもあれですね、私とヒョウタさんって。」
「え?」
「結構、似た者同士なんですねぇ。」
「え………。」
「いっつも私、ヒョウタさんに怒られてるから、ちょっと嬉しいです。」
「そ、そっか……。」
笑顔ではそう言った。
ヒョウタはかすかに顔を赤らめたが、は気付かなかった。
「じゃあ、そろそろ出ましょうかー。」
「あ、うん。」
「あ、化石持って帰るの、忘れちゃダメですよー。」
はそう言ったが、その時化石は既にヒョウタのポケットに収納済みだった。
ヒョウタの化石オタクがいきなり表面に。ま、いっか。