「え?しばらく休むんですか?」

「うん、申し訳ないけど。」

一人よりも。


もう何度目になるのか、今日もはヒョウタに付き合ってもらい炭坑に行っていた。

その帰り道のこと。

「毎年お盆と年末年始は炭坑夫のみんなも1週間近くの休みをとるんだ。だからその期間は炭坑を閉めるんだよ。」

「そうなんですか〜。」

少し残念だがこればっかりは仕方ない。

「じゃあ、年が明けて落ち着いたらまた来ますね。」

「うん、またね。よいお年を!」


それが年末のこと。

あれから3日、はいつもより忙しい父親の仕事や大掃除など正月の準備を手伝いながら過ごしていた。

「よし。こんなものかな。」

「ご苦労さん、。」

そして今、オダマキ研究所の年内の仕事が全て終わった。

書類を棚に片付け、は時計と窓の外を見る。

只今16時、外は寒いが快晴。

「お父さん、私ちょっとあっちの山に散歩行ってくる!」

「えっ、今からか?」

博士が振り向いた時、すでには外にいた。

「寒いのに元気だな…。」


「そういえば、家の近所で散歩するのは久しぶりだなぁ。」

以前はフィールドワークも兼ねて家の近所も含めたホウエン全域の山やら洞窟やらが彼女の主な散歩や探検の場所だった。

しかし、最近はほとんどクロガネ炭坑に行っている。

「何か新しいものとかあるかな?」

はわくわくしながら山に入った。


1時間後。

「ただいまー……。」

「あれ、お帰り。」

「思ったより早かったね、帰ってくるの。」

家にいた彼女の姉達が言った。

、なんか元気無くない?具合でも悪いの?」

いつものなら散歩の後はもっとテンションが高い。

しかし今日は疲れた様子でため息までついている。

「んー……なんか今日の散歩、あんまり楽しくなかったんだ。」

「ええ!?」

がこんなことを言ったことはない。

姉二人は驚き、のおでこに手をあてたり体温計を探したりした。

「…熱はないみたい。」

「変ね……。」

「お父さんの手伝いの後に行ったから疲れたんでしょう。よく休んどきなさい。」

姉妹の母親が台所から顔を出した。

「疲れた……のかなあ。」

はぽそっと呟いた。


次の日。

「今日はヒマワキ近くまで行ってみようかな。」

ヒマワキシティの近くには小さな洞窟や草原が多く、のお気に入りの一つだが、やはり最近はご無沙汰だった。

「あそこからの眺め、最高なんだよねー。」

今日もはわくわくしながらお気に入りの地点を目指した。


「あ、知らない草が生えてる。なんて名前だろう?」

「あー、この砂利道の感覚懐かしい!」

は、今日の散歩は楽しんでいるようだ。

「……よしっ、と。」

あっという間に景色のいいお気に入りの地点にたどり着いた。

「わあ〜…。やっぱり最高!」

笑顔の

しかし、すぐに真顔になり、ふうっとため息をついた。

「……何なんだろう、この変な感じ。」


次の日からもは色んなお気に入りの場所へ行った。

山や砂漠、森や洞窟。

だが、満足できなかった。

楽しくないわけじゃない。

ただ、何となく満たされなかった。

(何でだろう。前の方がもっと楽しかった。)

今日はいしのどうくつに来ているが、十分に楽しめない事に変わりはなかった。

「あ……。」

ふと地面を見ると、石が落ちていた。

「わ、なんかこの石の模様、化石みたい。持って帰ってヒョウタさんに見せてあげよっかな。」

(あ……。)

何気なく口にしたその名前から、は何となくだが理解した。

最近の散歩はクロガネ炭鉱で、いつもヒョウタと一緒だった。

それまでは一人で行くことがほとんどだったが、同じ場所で同じものを見て楽しめる相手と一緒に行くことに慣れていた。

だから、久しぶりに一人で行って物足りなさを感じたのだった。

「ヒョウタさんと一緒にクロガネ炭鉱の中探検する方が、楽しいな……。」

は寂しそうにぽつりと呟き、さっきの石をポケットに入れて洞窟を後にした。



ちょっと寂しいちゃん。惚れかけてます。

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