「あんたたちって結局の所、どういう関係なの?」
「は?」
にそう尋ねたのは、去年ヒョウタを通じて知り合った友人のナタネ。
「あんたたちって……あたしと誰?」
「ヒョウタ君に決まってるじゃない。」
「ヒョウタさん?」
知り合ってから2年、とヒョウタはお互い相変わらず。
「……友達?」
どんな関係かと問われたら、まあ、この単語が近い気がする。
しかしナタネは納得いかないようである。
「分かったわ……じゃあ質問を変える。はヒョウタ君のこと、どう思ってるの?」
「え? どうって……。」
――怒ったらちょっと怖いけど、普段はとっても優しい。
炭坑をまとめられるぐらい責任感が強くて、頼りになって、人望があって。
笑顔がいつも、とっても素敵。
―――あれ?
「なんかヒョウタさんを思い出してたら、顔が熱くなってきたよ?」
が言うと、ナタネは笑顔になった。
「ほ〜。顔が熱く、ねえ。で、ヒョウタ君のこと、どう思ってるの?」
「えーと、だから怒ったらちょっと怖いけど、普段はとっても優しくて、責任感が……。」
「平仮名二文字でまとめてくんない。」
「ふ、二文字? 短いね。」
――うわぁ。
ナタネはため息をついた。
ナタネとが仲良くなったきっかけは、ホウエン地方の木の実が欲しいな、とナタネがヒョウタに話したこと。
「僕ホウエンに友達がいるよ。」と、ヒョウタはナタネにを紹介した。
年の近いナタネとはすぐに意気投合し、その後も時々こんな風に2人で遊んだりしている。
勘のいいナタネは、すぐに2人がお互い意識し合ってることに気付いた。
こりゃ楽しそうだわ、と思ったものの、何ヶ月たっても一向に2人は平行線、良くも悪くも変化しない。
確かに楽しいがいい加減やきもきするのに疲れたため、こうしてお節介をやいているのだ。
「ねーナタちゃん、なんで二文字なの?」
は今年で16歳になる割には初心すぎる。
おそらく趣味が探検や冒険、日課がフィールドワークという一風変わったプロフィールが原因だろう。
「想像つかない?」
「うん。」
「じゃあ知らなーい。」
「ええっ。そんな、気になるよー。」
「気になるんだったら、自分で考えてごらん。アタシが全部教えちゃう訳にはいかないんだ、こういうのは。」
「……わかった。」
諭すのが上手いのは、ナタネのほうが(1つとはいえ)年上だからか。
友人である彼女達だが、時々姉妹のようにもなる。
「あ、そういえば明日またクロガネに行くんだ。ちょうどいいし、考えてみるね。」
「はいはい、頑張ってね。」
「ヒョウタさん、こんにちはー!」
「やあ、ちゃん。ちょっと久しぶりだねー。」
「あ……そういえばそうですね。」
最後にここへ来たのは確か……1ヶ月近く前。
ここ最近はフィールドワークの手伝いが忙しかったのだ。
付き合いが長くなったからか、それとも大人になったのか。
以前ならこんなに長い間行っていなかったらクロガネ欠乏症になっていたが、最近はそうでもない。
「そういやちゃんと聞いたこと無かった気がするんだけど、フィールドワークってどんな事をするの?」
ヒョウタが尋ねた。
「草村とか洞窟とか水辺とかに行って、どんなポケモンがいるのかなーって調べて記録するんです。この間は海底まで行ってきましたよ!」
「海底!? 凄いなぁ。」
ヒョウタが驚き感心すると、は「えへへ〜」と誇らしげに笑った。
「ヒョウタさんの方は最近どうですか? 新しい化石とか見つかりました?」
「あはは、さすがにそんなしょっちゅう新発見は無いなぁ。」
「そうなんですか〜……あっ。」
炭坑内に何か見つけたのか、は走り出した。
「あっ、こら。走ったらまたこける……。」
ヒョウタの忠告は一足遅く。
「きゃ!」
足を滑らせたはそのまま坂道の下まで落ちていった。
「あーあ、いわんこっちゃない。怪我してない?」
「足捻っちゃったかも……いたっ!」
――ついさっき、感心したばかりなのに。
「ちゃん……君何十回ここ来てるの。何十回この道通ったの。」
「えーん、ごめんなさいー! だって、何か光ったと思ったんだもんー!」
「光った?」
懐中電灯でも忘れてあったかな、とヒョウタは気になったが、それより優先すべきは。
「とりあえず今日はここまで。足手当てするから、家寄って。」
そう言うとヒョウタはに背を向け、しゃがんだ。
「……? えーと。」
「ほら、おぶってくから。」
ヒョウタの言葉に、は顔を赤らめる。
「えっ。い、いいですよ。ちょっと休んだら歩け……。」
「こら、怪我人が無理しない。大丈夫だよ、僕結構力あるんだから。」
そこまで言われて断っては、ヒョウタを信用していないことになる。
は大人しく背に乗った。
「ごめんなさい、ヒョウタさん。」
炭坑から出るまでヒョウタは黙ったままだった。
そんな様子を見、はそんなに怒っているのかと不安になり、謝った。
「……いいよ、もう怒ってないから。」
からヒョウタの表情は見えないが、声の調子で怒ってない事が分かった。
「でも、気を付けること!」
「は、はい!」
「うん、いい返事だ。さ、そこ座ってて。手当てするから。」
近くの棚から救急箱を出し、ヒョウタは手際よく手当てを始めた。
「普段……フィールドワークの時は無茶してない?」
からの返事はない。
「……してるんだ。」
「む、無茶って程じゃないですよ。時々擦ったり切ったりってぐらいで……。」
「……まあ、色んな場所に行くわけだから怪我はつき物なんだろうけどさ、周りに心配かけるのはほどほどに。」
「は〜い……。」
――怒るとちょっと怖いけど。
「僕だって、心配してるんだからね?」
――でも、とっても優しくて。
「今日のは応急処置だから、ちゃんと病院行ってね。」
――ああ、分かったかも。平仮名二文字の正体。
“すき”。
ナタネについてほとんど知らないのに出しちゃってごめんなさい。でも、この役目はツツジには無理だったんだ・・・!