「あ、見て見て。6年生の先輩たちが実技試験をやってるみたい。」

一人の少女の言葉に、を含む3年くの一の教室にいた数人が一斉に窓際へ向かった。


ONLY ONE


「さっすが6年生、凄いわねえ。」

「今年の6年は特に粒ぞろいだって、先生たちもよく話してるもんね。」

「あ、作法委員長の立花仙蔵先輩よ!」

とたんに、きゃあっと盛り上がる彼女たち。

仙蔵が試験をこなすところを、目をきらきらさせながら眺める。

「…かっこいい〜。」

「素敵ねえ〜。」

の友人がほうっとため息をつき、言った。

「やっぱり、6年生の中で一番素敵なのは立花先輩ね。」

「うんうん!」

数人が互いに頷き合う。

「えー、私は断然、食満留三郎先輩だけどなー。」

「あ、私もー。」

彼女たちの話題はあっという間に“6年生の中で誰が好きか”になった。

「私も立花先輩!クールでかっこいいもの!」

「私は潮江文次郎先輩ね。男らしくて頼りになりそう!」

“男忍者より怖い”と言われる事もあるくのたまの彼女たちだが、普段は普通の12歳の女の子。

やはりこういった類の話は盛り上がる。

「私はの兄上の先輩がかっこいいと思う!立花先輩と一緒にいるところとか、結構絵になると思わない?」

「あー、分かる分かる!いいなー、かっこいい兄上がいて。」

「え?」

は、自分の兄が友達に人気があることを知らなかったため、少し驚いた。

「そういや、はまだ言ってないよね。6年の中で誰が好き?」

隣に座っている友達に尋ねられ、は笑顔で

「伊作先輩!」と即答した。しかし、友人達の反応は。

「え〜、善法寺伊作先輩?」

揃って微妙そうな顔をした。

「え、何で?伊作先輩好きな人、他にいないの?」

思ってもいなかった反応をされ、は戸惑う。

「え〜…。」

「だって、ねえ〜…。」

顔を見合わせ苦笑する友人達。

「善法寺伊作先輩って言ったら、不運な事で有名じゃない?」

「優しいしいい人なんだろうけど…ちょっとねえ。」

「頼りなさそうな感じ。」

口々に勝手な事を言い出した。

「な、何よ〜。みんなして言うことないじゃない。」

「だって、本当にそう思うんだもん。」

「やっぱり、男は強くて頼りになる人が一番よ。」

以外の全員が「ねーっ。」と言った。


「まったく、みんなして失礼なんだから。」

昨日の友人達との会話を思い出し、は彼女にしては珍しく、ぷりぷり怒っていた。

が、同時に悩んでいた。自分ひとりがみんなと意見が違ったことに。

だからといって適当に意見を合わせた方が良かったかとは考えないが、やはり“自分ひとりだけ、みんなと違う”という状況は、結構複雑なものだった。

「おはようございまーす。」

「おはよう、。休みの日なのにごめんね。」

「いえ、大丈夫です!」

今日は休日だが、保健室の備品を買いに行く伊作の手伝いのため、は朝から保健室に来ていた。

「何が足りないんでしたっけ?」

「えーとね、書類作る時使う墨だろ、それとトイレットペーパーに包帯。」

「わあ、結構荷物になりますね。」

「本当は他のみんなにも手伝ってもらう予定だったんだけど、低学年の男子は学園長の思い付きで今朝遠征に行っちゃったんだ。」

「うわ〜…。」

溜め息をつきぶつぶつ言いながら歩く友人や後輩達の姿を想像し、は同情した。

「まあ、とりあえず行こうか。」

「はい。」

二人は外出届にサインをし、町へ向かった。


「何だか騒がしいですね……。」

「いつもより人が多い……何か催しでもあるのかな。」

彼ら保健委員の馴染みの店が、今日は人でごった返している。

二人は不思議に思ったが、その謎はすぐに解けた。

「いらっしゃい、店内の商品全部、いつもよりお安くなってるよー!」

「え、本当!?」

「凄い、ラッキーですね!」

伊作とは張り切って店に入った。

………しかし。

「トイレットペーパー、売り切れちゃったんですか?」

「包帯、売り切れですか……。」

「ええっ、墨も!?」

「すみませんねえ〜。」

今日買う予定だった品物は全てすでに売り切れてしまっていた。

「残念でしたね。」

「しょうがない、向こうの店に行こうか。」

もう一軒の馴染みの店に向かおうとしたその時。

「びえーっ!」

二人の近くで子供の泣き声。見ると、転んだらしい少年が泣いている。

「大変だ!」

伊作は手荷物から救急箱を出し、少年に駆け寄った。

「大丈夫かい?怪我してない?お兄ちゃんに見せてもらえるかな。」

伊作は笑顔で少年に話しかける。少年は泣き止んで擦りむいた膝を見せた。

「とりあえず消毒しておくね。」

慣れた手つきで伊作は少年の怪我を消毒する。

「よし、こんなものでいいだろ。今度からは気を付けるんだよ。」

「うん!お兄ちゃん、ありがとう!」

少年は笑顔で礼を言い、歩いていった。

「軽い怪我で良かった。やっぱり保健委員として放っておけないもんね。」

満足そうに伊作は言った。

(あ……。)

そんな伊作を見て、は分かった。

周りと意見が違うとか、自分一人だけだとか、そんなのは関係ない。

自分は、不運だけど優しくて困った人を放っておけない、伊作のそんな所が大好きなのだと。

「そうですね。さすが保健委員長です!」

「はは、ありがとう。じゃあ行こっか。」

「はい!」

二人は笑顔で店に向かった。臨時休業している事実を知らずに。


冒頭の“6年の実技試験”とタカ丸夢「やさしいひと」で彼がクラスメートと眺めていた“6年の実技試験”は一緒のシーンだったりします。

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