「ここが、忍術学園……。」
春、門の前にひとりの少女。
「私も従姉妹のみんなみたいに、優秀なくのたまになれるよう、がんばろう!」
少女、は決意と共に門をくぐり………
「きゃあ!!」
………数歩歩いたところで穴に落ちた。
「痛ぁ……なんでこんな所に落とし穴が……あ。」
は、今年四年生になる下の兄が言っていた“競合地域”という言葉を思い出した。
「たしか……学園はどこにワナがあるか分からないから、入学したての一年生はよく引っかかるって……これもそう、なのかな。」
冷静に状況を分析してはみるが。
「どうやって出たらいいんだろう……。」
ある程度時間に余裕を持って出発したので、今穴から出たら初授業には間に合う。
しかし、は落ちた時に足を痛めていた。
元気な状態でも出られるかどうか分からないような深い穴の中、は空を見上げるしか出来ない。
「こんなことなら兄様か誰かと一緒にくればよかった。」
時間が早いのが仇になり、学園内には誰もいない。
「だれかぁ、いませんかー。助けてー。」
それでも何もしないよりはましだと、とりあえず叫んでみる。
「だれかぁー。」
しかし、誰も来ない……と思ったら。
「あ、落ちてる。大丈夫?」
助けがきた。下の兄と同じ、新品の紫色の制服を着た少年。
「あ、足が痛いです。」
「足? 大変だ!」
叫ぶやいなや、少年は迷わず穴の中に自ら入った。
「え、え?」
少年はの足を少し触ったり動かしたりし、
「大丈夫、これくらいなら保健室で手当てすればすぐに治るよ。」
(手当て……って、この人も落ちたら上に上がれないんじゃ……。)
は心配したが、少年は「荷物は後でいいかな?」と言いながら、の背負っていた風呂敷をおろし、自分がを背負って、そのまま――
「きゃあっ!」
一気に穴から外へ出た。
「……す、すごい。」
思わず言うと、少年は照れたように「へへ。」と笑った。
「……よ、と。こんなものだな。」
少年に連れられて来た保健室。
色々な薬の臭いがしているが、不思議と居心地は悪くない。
「ちょっと足動かしてみてくれるかな?」
「は、はい。」
軽く足を動かす。痛くない。
そうっと立ち、1、2歩歩く。少し痛いが、普通に歩ける。
「どうかな?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございました!」
「そう、よかった。君は新入生?」
「は、はい。」
「まだ授業まで時間あるし、念のためここで休んでって。僕はさっきの荷物を持って来るね。」
「あ、はい…あ、お願いします!」
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
少年から渡された風呂敷には泥が少しついていたが、払ってくれたらしい。
「あ、あの。手当てお上手ですね……。先輩は保健委員なんですか?」
が言うと、少年は少しきょとんとした。
「うん、そうだよ。僕は保健委員長の善法寺伊作。」
「委員長!? 四年生なのにすごいです!」
「いや…人がいないからね。先輩が卒業して後輩も退学しちゃって、保健委員は今僕だけなんだ。」
「そうなんですか……。」
「君、えらく詳しいね。学園に身内がいるの?」
伊作が尋ねた。
「はい。私はといいます!」
「……なるほど、それでか。」
「はい。」
「……あのさ、」
伊作が何かを言おうとした瞬間、鐘が鳴った。
「……と、時間だな。教室の場所は分かる?」
「はい。本当にありがとうございました!」
「どういたしまして! じゃあこれも知ってるよね、保健委員は不運委員って言われてるから、ならないよう気を付けて!」
数日後、伊作とは再会を果たした。
………保健委員会の顔合わせで。
「……なっちゃったんだ。」
「はい、なっちゃいました。」
苦笑する伊作と、微笑む。
「まあ、なっちゃったものは仕方ない。よろしくね、。それと数馬。」
「はい!」
伊作は知らない。
は保健委員に“なっちゃった”のではなく、自ら進んで“なった”のだと。
友人達に散々止められたが、は保健委員会に入ることを選んだのだと。
(だって、善法寺先輩ともっと一緒にいたいって思ったんです。)
伊作が不運じゃない……だと……? 穴掘った犯人? もちろん綾部。退学した後輩=うちのオリキャラ。