、早く! 遅刻しちゃうでしょー!」

「ご、ごめん紫枝ちゃん。待って〜!」

授業へと急ぐは、大事な紅を落とした事に気付かなかった。


探し物は何ですか


「あれ? あれあれ?」

「どうしたのよ。」

彼女がそれに気付いたのは、教室に着いてすぐ。

「紅がないの。」

「えー、忘れてきたの?」

「一緒に持ってきたはずなんだけど……。」

今日は化粧の授業。他の化粧道具は全て揃っている。

「しょうがないから貸してあげる。次からはちゃんと確認するのよ!」

「ごめんね、ありがとう。」

とりあえず友人のものを借りることでその場は凌げたが、授業中も彼女の頭は紅の事でいっぱいだった。


「ない、やっぱりない〜。」

昼休みを利用して長家に帰ったが、やはり部屋にはない。

「廊下とかに落としたってことかな……とにかく探しに行かないと!」

「頑張って……と言いたい所だけど、もう昼休み終わり。」

「ええ〜っ、そんなぁ。」

「放課後探せばいいじゃない。とにかくもう行かないと、また遅刻よ。」

「はあーい……。」


「よしっ!」

授業終了後ヘムヘムの鐘と同時に立ち上がり、急いで探しに行こうとしたが。

、掃除当番ー!」

「あー、そうだったぁ……。」


急いで掃除を終わらせたが。

「きゃあああ!」

「だ〜い成功。」

「あああ綾部先輩!!」

綾部喜八郎の塹壕に落ち、時間を無駄にした。


「もう夕方……とにかく長家の廊下かどこかに絶対落ちてるんだから、根気よく探せば絶対……。」

ー、私たち今日食堂当番だよ。そろそろ行かないと。」

「ええ〜っ!!」

偶然か運命かただの不運か。とにかく紅を探す機会はことごとく奪われていった。


「もう夜だし……でも本気で早く見つけないとやばいよ。」

昼間は生徒達の笑い声で溢れかえって賑やかなくの一長屋もこんな遅くにはしいんと静まり返る。

おまけに月もなく、ろうそく無しでは探し物などとても出来ない。

本来忍たまやくのたまにとって闇は得意分野なのだが。

「ちょっと怖い……。」

一年生のはまだ夜の授業や鍛錬も経験していない。

「紅、紅……。」

必死で探すが、見つからない。

思わず涙ぐんだその時。

「うわあああっ!!」

くの一教室の庭から叫び声がした。女子のにしては低い声。

「ひゃっ……お、落ち着け私。落ち着け。とりあえず何か武器を……。」

!? ま、待って、僕だよ善法寺!」

「い……伊作先輩?」


「伊作先輩、どうしてくの一長家に……? もし見つかったのが上級生だったら袋叩きでしたよ?」

「はは……それがさー。」

なんでも伊作は実技テストに向けての練習をしていたのだが。

「あっ。」

汗を拭おうと頭巾を外した途端風が吹き、頭巾はひらひらとくの一長家との境にある木に引っかかった。

「で、取ろうとしたら枝が折れたんだ……。」

「伊作先輩……。」

今日も今日とて不運の極み。まあ、も確実にそれを受け継いでいるが。

「あ、怪我はしていませんか?」

「大丈夫だよ。それよりはどうしてこんな時間に外に? も自主練?」

「いえ、実は……。」

は紅を落としたことと、色々あって昼間に探せなかったことを話した。

「大事なやつなの? それ。」

「学園に入るとき、これからたくさん使うからって母様が買ってくれたやつなんです。」

「そうか……よし、俺も手伝うよ。」

「えっ、でも……。」

「遠慮しないで。乗りかかった船だし、この時間なら俺がうろうろしてても他のくのたまには見つからないだろ。」

「じゃあお願いします。」

正直ひとりで見つけられるか自信がなかったので、伊作の申し出はかなりありがたかった。


「このあたりで落としたはずなんです。」

「なるほど……でもひょっとしたら、落とした拍子に庭までいったのかも。俺は庭を中心に探すね。」

「お願いします。」

伊作は明かりがなくても探し物に困る様子はない。

(不運でもやっぱり頼りになるな……。)


「……あ、ひょっとしてこれ?」

「…そ、それです! よかった〜…。」

伊作の手にちょこんと乗っている紅の入った貝を見て、は安堵した。

「やっぱり庭に落ちちゃってたんですね、ありがとうございます。」

「いいえ。優しい色だね、によく似合いそう。」

「え。」

「もう無くさないよう、気を付けて。」

「は、はい。」

笑顔でさりげなく誉める。たったそれだけでの心臓は確かにきゅん、となった。

「じゃあね、おやすみー。」

「おやすみなさい。ありがとうございました!」

は手のひらの紅をぎゅっと握りしめ、部屋に帰っていった。


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