「伊助ー、団蔵と虎若の部屋から変な臭いがする!」
「お前ら、いい加減に洗濯しろー!」
授業が終わり、1年は組はただ今掃除の時間。
「団蔵、虎若。あのあとちゃんと洗濯したの?」
「やったよ。」
団蔵が答え、虎若も頷く。
「これからはちゃんとマメにやれよー?」
二人は頷いたが、どうせ洗濯物を溜めるであろうことは伊助には今までの経験から分かっている。
親友の庄左ヱ門を見ると、「しょうがないよ。」と言わんばかりに苦笑している。
伊助は小さく溜め息をついた。
「しんべヱ、黒板消し汚れてるじゃないか。そんな状態で黒板拭いたって綺麗にならないよ。」
「あ〜、そっかぁ。伊助よく気づいたね〜。」
――普通気付くぞ。
伊助はそう言おうとしたが、すかさずきり丸が口を挟んだ。
「てゆうか、伊助はいつも気が付きすぎなんだよな。まあ悪いところじゃねーけど。」
「え。」
周りの友達も「確かに。」「助かるときもあるけどね。」と頷き合っている。
1年は組はみんな仲良しだが、時々言い過ぎることがある。
「みんな、言い過ぎだぞ。伊助に謝れよ。」
「いいよいいよ、庄ちゃん。」
こんな風にとりなすのは、庄左ヱ門や乱太郎の役目。
「伊助、ごめんね〜。」
「いいって。気にしてないよ。」
伊助は笑顔で言い、
「ほら、掃除掃除!」と、箒を動かすスピードを速めた。
(そういえば、前乱太郎達と学園の外に掃除しに行った時も、気が付きすぎって言われたっけ…。)
火薬委員会の集まりに行く途中、伊助はふっと考えた。
「どうしよう…神経質なのかな。」
「誰が?」
ぽそっと呟いたら、伊助の真上から彼の知っている声が聞こえてきた。
「やっほー、伊助君。」
その声に、伊助も笑顔になる。
「こんにちは、先輩。」
木の上から降りてきたのは火薬委員の2年生、。
くの一の2年生は基本的に乱太郎達を中心に1年は組をからかうし、1年は組もくの一2年は苦手だが、
同じ委員と言う事もあって伊助とはとても仲がいい。
「先輩がいるの、全然分かりませんでした。」
「気配消してたもん。えへへ、大分上手になったんだよ。」
はそう言って笑顔でピースをし、伊助は「さすがです、先輩!」と大げさに拍手をした。
「一緒に行こっか。」
「はい。」
二人は並んで歩く。
「で、さっき呟いたの、何?神経質って。」
「あ……。」
(そうだ、聞かれていたんだった。)
「大したことじゃないんですよ、クラスの友達に“伊助は気が付きすぎ”って言われて。」
はふんふん、と相づちを打つ。
「だから、僕って人より神経質なのかなって思って。」
は組のみんなには“気にしていない”と言った伊助だが、本当は少し気にしていた。
「そっかぁ。」
そんな伊助の心境をは即座に見抜く。
彼女は立ち止まり、自分の目の位置にある伊助の頭をぽんぽんと撫でた。
「え?」
突然のことに驚いた伊助は、思わず顔を赤くする。
「大丈夫だよ、伊助君。神経質なんかじゃないよ。それが伊助君のいいところなんだから。」
「いい……ところ?」
は頷く。
「細かいところまで目がいくのは忍者にとっても長所だよ。それに火薬庫の掃除の時だって、伊助君は大活躍してるじゃない。」
だから気にしなくていいの。と、は付け加えた。
伊助は気持ちを分かってもらえた嬉しさと大丈夫と言ってもらえた安心感から落ちそうになる涙を必死で抑え、一言
「はい!」
と言った。
「に伊助、やっと来たのか。遅いぞ!」
「ごめんね、さぶろっち。」
「って、その変なあだ名で呼ぶなって何回言ったら分かってくれんだよ。」
さぶろっちと呼ばれたのは火薬委員の2年生、池田三郎次。
「よし、これで全員揃ったな、と。今日の委員会は火薬庫の掃除だぞ。」
「伊助君がいれば100人力だね〜。」
「そうだな、頼むぞ伊助!」
タカ丸と三郎次が言い、
「お前らもしっかりやれよ!」と久々知が念を押した。
――先輩達も認めてくれている。
伊助は再び嬉しくなり、「よし!」と雑巾を手にした。
変なあだ名はただ私がそう呼んでみたかったから。